「大規模プロバイダで培ったクラウドの知見をより広いお客さまへ」
デル・メリット社長

クラウド Watch新装刊記念・特別インタビュー


 「Dellは、過去2年間にわたって、クラウドビジネスにおいて多くの経験を蓄積してきた。クラウドの世界において、Dellが強みを発揮できるのは、こうした経験をもとにした製品とサービスが提供できる点にある」。

 デルのジム・メリット社長は、クラウド・コンピューティング市場におけるDellの強みをこう定義する。Dellは、過去2年にわたり、GoogleやFacebookをはじめとする大手プロバイダと、データセンター事業において協業。この実績が、今後広がりを見せるクラウドビジネスに生かされているとする。2010年2月から始まった同社の2011年度は、第1四半期から大幅な増収増益の業績となり、ソリューションカンパニーへの移行が着実に進展していることを裏づけるものとなった。

 デルのジム・メリット社長に、同社の取り組みと、日本におけるクラウドビジネスの展開について聞いた。

 

ソリューションフォーカス企業への転換によって成長を遂げる

デルのジム・メリット社長

――2011年度第1四半期(2~4月)の業績は予想を上回る好調ぶりとなりました。全世界の売上高が前年比21%増の148億7000万ドル、純利益は52%増の4億4100万ドルの増収増益。これはなにが要因だったのでしょうか。

メリット社長:第1四半期の結果には大変満足しています。この業績の背景には、いくつかの理由があげられます。

 ひとつは、企業のIT投資が活性化してきたことです。企業のIT投資が、守りの投資から、攻めの投資へと変化。インド、中国などの新興国市場におけるIT投資に対する意欲が高まる一方、日本、オーストラリアといった成熟市場におけるIT投資も回復し、Dellは、アジア地域のすべての国で成長を遂げることができました。

 もうひとつは、Dellがハードウェア中心の企業から、ソリューションフォーカスの企業へと転換してきた成果が出てきたことです。第1四半期の業績を見てもそうですが、売上高の成長率よりも、利益の成長率の方が高い。

 また、サーバー、ストレージ、サービスの成長は、コアビジネスであるクライアントPCの成長に比べて2~3倍の成長率になっている。これは、ソリューションの会社へと転換しはじめていることが成功している証しだといえます。

 そして、最後に、事業部制がうまく機能しているという点です。「大企業」、「公共・ヘルスケア・教育」、「中小企業」、「コンシューマ」という4つの事業部門とした体制は、Dellが競合他社との差別化を明確化するものになっています。

 他社は、製品部門別の組織ですが、われわれの組織は、お客さまごとの組織体制。私は、日本だけでなく、中国やインドのお客さまとも話しますが、場所を問わずに言われるのが、「デルは顧客に合わせた組織編成となっていることから、一緒にビジネスをしやすい」ということ。お客さまとより深く結びつき、近い距離でコンタクトができる体制となっている。

 結果として、すべての事業部門において、Dellは、大きな成長を遂げることができた。こうしたDellの新たな体制が、第1四半期の成果につながっているのではないでしょうか。

 

――この成果は日本でも同じですか?

 日本でも同じことが起こっています。例えば、クライアントPCのビジネスよりも、ソリューションビジネスの成長が高いのは、日本でも同様です。企業のIT投資意欲も、2009年9月ごろから、回復しはじめているのを実感しています。

 ITインフラをより効率化したいので、サポートしてほしいという声が集まっていますし、その活動を支える東京・三田の「デル ソリューション イノベーション センター」も、多くのお客さまが活用している。また、当社のコンサルティングサービスやマネージドサービスは、前年比で劇的な成長を遂げています。

 

――この勢いは、第2四半期(5~7月)、第3四半期(8~10月)はどうなりますか。

 私は楽観的に見ています。第1四半期の勢いがこのまま続くのではないでしょうか。いや、むしろ、IT投資意欲はこれから高まっていくでしょう。ITインフラの効率性を改善する動きが加速していますし、クライアントPCにおいても、Windows 7に対する導入意欲が高まりつつある。

 デルにとっても、サーバー、ストレージ、サービス事業の成長は、コアビジネスであるクライアントビジネスに対して2倍、3倍という伸びを継続し、全社売上高に占める比率は高まっていくでしょう。36%だったソリューション事業の売上高構成比は、この1年で40%以上になっていくだろうと見ています。

 

Perot Systemsのベストプラクティスを日本でも生かす

――Dellにおけるソリューション事業拡大の原動力のひとつに、Perot Systemsの買収があります。しかし、日本にはPerot Systemsの拠点がないわけですから、日本における影響は限定的のように感じますが。

 Perot Systemsを買収する以前のDellの状況を見ると、日本のサービス部門の成果は、Dell全体のなかでも突出したものがありました。100人体制のコンサルティングチームを擁し、Perot Systems抜きでも大きな成功を収めていたのです。

 もちろん、日本にはPerot Systemsがありませんから、買収の成果が直接的に日本へ影響するわけではありません。しかし、この強いサービス部門が、これまでのデルにはなかった、Perot Systemsが持つさまざまなベストプラクティスが提案できるようになる。

 米国、欧州での大きな基盤に加えて、インドでも1万人ものリソースがあり、こうしたグローバルなサービスリソースを日本でも利用できる。すでに、インドのリソースを活用することで、アプリケーションやOSのマイグレーション、アプリケーションのリパッケージングといった仕組みが日本でも展開できるようになっています。デル日本法人のサービスチームが、Perot Systemsのリソースを活用して、より多くのプロジェクトを展開し、提案できるようになるといえます。

 

――Perot Systemsの買収によって、Dellは大きく変化したというわけですか。

 この1年で、Dellは、なにが変わったのかと問われれば、それはソリューション領域において、圧倒的な能力と規模を持ったことだといえます。Perot Systemsの買収によって、サービス部門の売り上げ規模は2倍になり、サービスに従事する社員は全世界で4万1000人に拡大した。コンサルティングサービスから、導入から運用に至るまで、ITインフラのすべてを網羅した幅広いソリューションを提供できるようになりました。

 そして、もうひとつの変化をあげるとすれば、よりグローバルな組織体制になった点です。Dellの売り上げ、利益は、米国以外の地域からの方が大きくなっている。日本法人を訪れる、海外のDellのスタッフ数も増えている。この3カ月だけを見ても、その数はかなりの数にのぼっています。グローバルにフォーカスした会社に大きく変化したといえます。

 

大規模プロバイダから学んだ知見をより広いお客さまへ提供する

――Dellにおけるクラウド・コンピューティングの位置づけはどうとらえていますか。

 過去2年間にわたり、Dellが取り組んできたのは、大規模なインターネットサービスプロバイダ、クラウドサービスプロバイダ、SNSサービスプロバイダに対して、クラウド上のインフラ構築、運用で協業し、その経験を通じて、クラウドのインフラ構築はどうすればいいのか、どんな製品、サービスが求められているのか、といった知見と経験を蓄積してきたことです。

 そのために、2年前から、DCS(データセンターソリューション)部門を社内に設置し、大規模なサービスプロバイダなどに向けて、カスタマイズされたクラウド製品を提供してきた。DCSには、エンジニアだけでなく、営業やマーケティングにかかわる社員たちも参加し、お客さまと一緒になって、日々議論を重ね、クラウドに求められる要件はなにかといったことを追求してきました。

DCSでの成果として結実した、クラウド基盤向けサーバー「PowerEdge Cシリーズ」

 これにより、最適なクラウドインフラの構築手法とともに、クラウドサービスを求める企業に対して、どんなものを提供すればいいのかを学ぶことができ、これを、より幅広いお客さま、ソリューションパートナーに対して展開していくことができるようになった。Dellが、「プライベートクラウド、パブリッククラウドの両面からソリューションを提供していく」と公言しているのも、こうした経験がベースにあるからです。

 クラウドの世界に向けて、製品、サービス、コンサルティングを提供できるのは、DCSの経験がベースになっており、その成果のひとつとして、先ごろ投入した(クラウド基盤向けサーバーの)「PowerEdge Cシリーズ」があるわけです。

 また、インテリジェント・データ・マネジメント、クラウド・インフラ・ソリューションといったものも同様に、DCSの経験がベースになっている。DCSの経験は、Dellがクラウドの世界に踏み込んでいく上では必要不可欠なものだといえます。


 

――DCSの経験は、具体的に、日本市場にどう生かされますか?

HPCCでも、DCSの成果が生かされているという

 確かに、日本法人のなかには、DCSの組織が存在しませんし、いまのところ、新たに設置するという計画もありません。しかし、すでに、日本でも、DCSの経験が活用されています。

 日本におけるクラウドサービスの導入提案ではDCSのノウハウが生かされていますし、仮想化ソリューションの提供、HPCC(High Performance Computing Cluster)のソリューションにおいても、DCSの蓄積が生かされている。そして、PowerEdge Cシリーズの導入に関しても、日本ではいい手応えを持っています。

 DCSが得意とする大規模データセンターへの取り組みは、米国や中国に目が行きがちですが、日本においても、これから重要になってくる。DCSが得た経験や能力を、日本のチームが効率的に展開していくこと、それを活用できるスキルを持った人材を育成していくことは、日本法人のテーマです。

 日本においては、クラウドソリューションビジネスを展開していくためのスペシャリストを、営業チーム、サービスチームに加えた形で育成していきます。大切なのは、日本にDCSを立ち上げることではなく、DCSの実績を日本で活用する体制づくりです。米国、中国での成功を、日本での成功につなげていきたいと考えています。

 

プロプライエタリなメインフレーム時代に戻ってはいけない

――Dellのクラウド・コンピューティングにおける強みはなんですか?

 ひとつの言葉で表すと、「オープン」ということになります。競合他社は、クラウド・コンピューティングの世界においても、プロプライエタリに向かおうとしている。しかし、それはお客さまからの選択肢を奪い、求めやすい価格を提供することにはつながらない。そして、柔軟性がなく、お客さまを囲い込んでしまう。これは正しくないやり方です。

 メインフレーム、UNIXの時代はプロプライエタリな時代でした。それをクラウドという新たな世界に持ち込むのは、昔の考え方に戻すのと一緒です。そんなことをしてはいけない。より多くの選択肢を用意し、柔軟に対応できるものではなくてはならない。

 Dellは、これからの時代を「バーチャル時代」と位置づけています。仮想化、クラウド、ユビキタスといった技術の活用が広がることで、バーチャルで統合されたソリューションがますます求められることになるでしょう。

 そうした需要に対して、Dellは、「Open(標準技術)」、「Capable(十分な能力)」、「Affordable(購入しやすい)」というコンセプトのもとで、製品、サービスを提供していく。バーチャル時代に最も求められる要件は、お客さまに広い選択肢を提供し、柔軟性を持った高い性能を持ち、それでいて、求めやすい価格を実現しなくてはならない。これは、Dellだからこそ、なしえる提案です。

 メインフレーム時代、ミニコンピュータの時代には、それぞれに主要なプレーヤーがいました。Dellは、今後、訪れるバーチャル時代において、リーダーシップを発揮できる企業であると考えています。それが、クラウド・コンピューティングにおける、Dellの強みにつながると考えています。

 Dellが強みを発揮できるもうひとつの理由として、Efficient Enterprise Ecosystem(E3)と呼ぶ、新たな時代に向けたエコシステムがあります。E3では、「インテリジェントインフラストラクチャ」、「シンプルなインフラ管理」、「円滑なワークロード管理」、「インテリジェント・データ管理」という4つのビルディングブロックを用意しました。

 そして、これを基本フレームワークと位置づけ、マネジメントを組み込んだハードウェア製品、エンドツーエンドのインフラ管理、クライアントとサーバーのワークロード管理、インテリジェントデータ管理ソリューションといった形で、ハード、ソフト、サービスを一括で提供する体制を整えました。

 運用コストを削減し、データ管理を行いやすくし、お客さまのインフラを最適化することができる、このソリューションを活用して、戦略的パートナーやクラウド推進パートナーといったエコシステムによって提供していきます。優れたパートナーと組むことで、プロプライエタリでは実現できないような価値を提供できると考えています。

 

指標となる日本市場での成功を世界へ持っていく

――クラウド・コンピューティングにおいては、今後どんな展開を考えていますか。

 当社が提供する「インテリジェントインフラストラクチャ」、「シンプルなインフラ管理」、「円滑なワークロード管理」は、お客さまのデータセンターの運用効率を高めることを目的としたソリューションであり、お客さまのプライベートクラウド構築を支援するものになります。

 一方で、「インテリジェント・データ管理」は、ストレージ管理のソリューションであり、データ管理を最適化し、データ管理コストを下げるというものになり、Dellが持つ重複排除機能により、データをより効率的に管理することが可能となります。これもクラウド構築には重要な技術となります。

 また、モジュラー型のパブリッククラウドサービス事業についても、日本で提供していく考えです。Dellは、パブリッククラウドに対しても、プライベートクラウドに対しても、最適なソリューションを提供する体制を整えていきます。

 日本市場におけるデルの成長はこれからも高いものになるでしょう。中でも、サーバー、ストレージ、サービスの成長は、当社におけるコアビジネスの数倍のスピードで伸びていくことになるのは明らかです。そして、収益性も高まっていくことになります。

 また、Dell社内において、日本は、ソリューションビジネスで中心的役割を果たす地域であるとの認識が高まっていくことにもなるでしょう。日本のCIO、IT部門が抱えている課題は、ITインフラを効率化したいということが最大のテーマです。

 あわせて、爆発的なデータの増加にどう対応していくかという課題もある。そのために、レガシーからオープンに移行したいと考える企業が増えている。そして、既存のITの保守に対して使われている予算を、新たな戦略的投資にまわしたいと考えている。

 Dellは、そこにフォーカスしている会社です。そこで成果をあげたい。日本の市場でこれが成功すれば、世界各国で成功できる。ですから、日本は指標となる市場であり、Dellが日本の市場は重視する理由もそこにあります。

 私は、Dellに11年間在籍していますが、社員の気持ちが、ここまでひとつになったことはなかったと感じています。一致団結して、ひとつの方向に向かっている。いま、社内ではリーダーシップ・インペラティブ(Leadership Imperative)という社員向けの研修を行っています。これは私や私の部下が講師となって実施しているもので、Dellが目指す方向性や戦略について、社員全員が共通の認識を持って取り組んでいく土壌を作るものになります。

 Dellは、お客さま中心主義であることに変わりはありません。より多くの選択肢を提供し、オープンなソリューションを提供するという姿勢は、クラウド・コンピューティングの世界や、バーチャル時代になっても変わることはありません。

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