「iCloud」がAzureとAWSクラウドを利用? 大きすぎるデータセンターにも関心


 Appleは今年6月、写真や音楽などのデータを保存するクラウドサービス「iCloud」を発表した。今後の製品・サービス戦略で重要な情報ハブの役割を果たすもので、8月になって開発者向けベータをスタートするなど、着実に進展しているようである。そのiCloudを巡って、Appleが、AmazonとMicrosoftというライバル2社のクラウドを利用すると報じられ、これを受けたさまざまな臆測が飛び交っている。

Apple自身がクラウドプロバイダーになる必要はない

 IT情報サイトのThe Registerは9月2日付で、iCloudがAmazon子会社のAmazon Web Services(AWS)とMicrosoftの「Azure」の両クラウドサービスを利用するとレポートした。これを書いたGavin Clarke氏は、The RegisterではMicrosoftを担当しており、MicrosoftウォッチャーのMary Jo Foley氏とMicrosoft情報のポッドキャストも配信している。Clarke氏は記事中、Microsoftに近い情報筋から得たとして、「AppleのiCloudはAzureとAmazonのクラウドで動く。顧客のデータは両サービス間で分けられる」と述べている。

 Clarke氏は、Appleがこの判断をするまでの流れとして、「最高のコンシューマーエクスペリエンスを構築する」ため、iCloudに必要な作業をアウトソースすることを決めたと述べている。さらに、サービスと成熟度が異なる2社を選択して、1社に依存するリスクの軽減を図ったとしている。「Appleがクラウドプロバイダーになることには意味がない」と判断した、というのだ。

 これに対するAppleとAmazonのコメントは得られていないが、Microsoftは「現時点では、AppleがWindows Azureの顧客かどうかについてコメントできない」と述べたという。

他社クラウド利用のレポートは6月にも

 実はiCloudがAzureとAmazonを利用するといううわさは、今年6月にも出ている。Apple情報サイトのInfinite Appleが、iCloudのメッセージサービス「iMessage」からHTTP通信をモニタリングするなどした結果、「Amazon S3」とAzureをデータストレージに利用している模様だと伝えている。煙が上がる元の火はあるのかもしれない。

 AppleはiCloudの前身となる「MobileMe」で失敗している。当時CEOを務めていたSteve Jobs氏は、iCloudを発表したWWDC(Worldwide Developers Conference)のステージでMobileMeの失敗を認め、iCloudは「ちゃんと動く」と繰り返し強調した。失敗が許されず、自分たちですべてやるよりも専門サービスにアウトソースするという決断であるとすれば、それもAppleの合理的な判断と言えそうだ。

 もちろん、Microsoftにとっては、極めて重要な顧客となる。Windows Azureを推進するにあたって、AppleがiCloudに採用したという事例は、クラウドに前向きなベンチャー企業から、懐疑的な大企業までを、一言で説得できる可能性がある。クラウドプロバイダーとして成功しているAmazonも同様だ。

巨大なデータセンターはどうなった?

 この話が真実だとすると、Appleが5億ドルを投じてノースキャロライナに構築したデータセンターなど、自前インフラを整備していることが疑問として浮上する。Jobs氏は、iCloudの発表でデータセンターの写真を見せながら、iCloudを支えるインフラとして紹介している。

 Clarke氏は、これについては、「iCloudを動かすのには十分すぎるキャパシティを持つようだ」と述べるにとどめている。代わりにBusiness Insiderが、The Registerの記事を紹介しながら、AWSとAzureを利用するのであれば、このデータセンターの役割はどうなるのかについて2つの可能性を挙げている。

 1つ目は、自社データセンターにコンテンツとユーザーデータを保存し、AWSとAzureはバックアップと一部の機能用とするというもの。2つ目は、当面は他社のサービスに依存するが、次第に自社データセンターのキャパシティと専門ノウハウへと移行してゆくというものだ。2つ目の方は、6月にInfinite Appleの記事が出た際に、Foley氏ら複数の業界通が予想していたシナリオでもある。

 iProgrammerは、The Registerの情報が事実ならば、「なぜAWSとAzureなのか?」と疑問を投げかける。AWSとAzureは技術的に異なるので、アプリをAzureで動かした後にAmazon EC2で動かすといった作業は容易ではないというのだ。

 また、The Registerが記しているようにAzureとAzure SQLを利用し、データを分け合うとしてもロードバランシングやEC2で利用するストレージなどについて明確ではないとも指摘。その上で、EC2のWindows仮想マシンを利用すれば簡素化できるかもしれないと予想しながら、2つのクラウドをどのように利用するのかが興味深いと述べている。

最初から空っぽ?

 なお、Appleのデータセンターについては「競合を威嚇するために空っぽの建物を構築した」という、ちょっとした冗談交じりの説もある。この説は、Appleの新しいデータセンターを訪問したという技術ブロガーRobert Cringely氏が6月に唱えたものだ。

 Cringely氏の計算によると、データセンターは100万平方フィートという巨大な敷地で、1Uサーバーが720万台以上は収容できるという。映画1本分の保存と配信に必要な台数は2000台といわれており、どう考えてもあまりにも大きすぎるというのだ。「(このデータセンターの)10分の1のワークロードすら、(発生することが)想像できない」とCringely氏は述べている。

 Business Insiderも3つ目の可能性として、Cringely氏の説を引用している。先のiProgrammerは、Cringely氏の説を紹介しながら、AppleはiCloudのためにデータセンターを設計したものの、方針変更したことも考えられる、と推測する。

 こうした憶測が飛び交うのも、Appleならではのことだろう。ともあれ、iCloudは年内に正式スタートする予定だ。AWSとAzure利用については、続報があるかもしれない。

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(岡田陽子=Infostand)
2011/9/12 09:06