“GeoHot”がFacebookに入社 腕利きハッカーの就職


 iPhoneや「PlayStation 3(PS3)」のハッキングで世界にその名を知られた少年ハッカー“GeoHot”ことGeorge Hotz氏がFacebookに就職していたことが分かった。ニュースは6月25日に報じられたが、実際は既に5月上旬から働いていたのだという。ソニーと戦いを繰り広げたGeoHotは、ソーシャルサービスの世界に華麗に転身した。Facebookでの役割も気になるところだ。

 

PS3ハッカー“GeoHot”

 最初にGeoHotが主要メディアに登場したのは2007年夏。当時まだ17歳だったHotz氏は、iPhoneのロックを解除し、市価2万8000ドルといわれる日産自動車のフェアレディZと「iPhone」(8GBモデル)3台と交換したといわれている。iPhoneの制限を解除して、認可されていないアプリが動くようにする「脱獄」(jailbreak)のはしりである。

 しかし、Hotz氏を有名にしたのは、なんと言っても、PS3を巡るソニーとの確執だろう。Hotz氏は2009年、難攻不落といわれたPS3のハッキングを開始。2010年1月に成功したと報告した。これが契機となり、ソニーは同3月末、PS3の「その他のシステムのインストール」として提供してきた機能をファームウェアアップデートにより削除する計画を発表した。

 PS3はLinuxを動作させられることから開発者の人気が高かったが、Linuxをインストールするのに、「その他のシステムのインストール」の機能を利用していたため、ソニーの措置にブーイングが起こった。Hotz氏はすぐさまこれに反応。自身のブログで、「安全な方法でこの機能を維持する方法を見つけてみせる」と宣言し、それから10日もしないうちに独自開発したファームウェアのプレビューを公開した。

 その後もHotz氏はブログやYou Tubeなどでハッキングの成果を報告。今年1月、ついにPS3上で任意のプログラムの実行が可能になるルートキーを公開。これを受け、ソニー(米Sony Computer Entertainment America)は、ついに訴訟に踏み切った。

 ただし両者の対立は長くは続かず、3月末に和解した。その間、ソニーはHotz氏のコンピュータの押収や氏のブログにアクセスしたIPアドレス情報にアクセスする権限などを得ている。Hotz氏は和解を報告する共同声明文で、「ユーザーにトラブルを生じさせることや海賊行為を容易にすることは、自分の意図することではなかった」と記している。

 だが、ハッカーコミュニティでは反ソニームードが高まり、ソニーのWebサイトやサービスをターゲットにする傾向が強まった。Anonymousや、Lulz Security(LulzSec)のソニーに対する攻撃も、その流れにある。

 なお、Hotz氏は和解の共同声明文で、ソニーに対する攻撃に関与していないことを強調していたが、自身のブログでは、ソニーを非難し、ボイコットを呼びかけていた。

 

著名ハッカーのその後

 そのHotz氏がFacebookで働いていることが分かったのは6月25日にTechUnwrappedが報じたことからだ。「脱獄」を得意とするハッカー集団Chronic-Dev TeamのメンバーがHotz氏に「iPad 2」のハッキング関連のチャレンジを持ちかけた時、判明したという。

 Hotz氏は、注目されたくない、と機嫌を悪くし、Facebookでの勤務のため、参加を断ったという。その後、Hotz氏のFacebookページの存在や、Hotz氏がFacebookの友人に対しては6月17日に就職を報告していたこと、Facebook入りは5月7日だったことなどが分かった。Facebook側もHotz氏の在籍を認めている。

 Hotz氏のように、ハッカーがその腕を買われて職を得るケースは少なくない。

 PC MagとPC Worldが、いくつか例を挙げている。例えば、任天堂の「Wii」のハッキングの後、Microsoftに就職し、その後Googleに転職したJohnny Chung Lee氏。17歳でTwitterワームを作成し、Twitterに就職したMichael “Mikevy” Mooney氏。21歳でiPhoneワームを作成し、iPhoneアプリ開発企業に就職したAshley Towns氏などなど、優秀なハッカーは引く手あまただ。Facebookも、大学生の時にFacebookワームを作成したChris Putnam氏をスカウトした前例がある。Putnam氏はFacebookで、ビデオアプリなどを手がけたという。

 起業家となった者もいる。1990年代の最も有名なハッカーKevin Mitnick氏は“塀の中”生活を経験した後、セキュリティ企業を立ち上げている。わずか15歳でDVDのコピー保護技術を破って有名になった“DVD Jon”こと、ノルウェーのJon Lech Johansen氏も、モバイルアプリ企業doubleTwistを共同設立している。

 彼らの多くは、若い時に、ハッキングを通じて企業や政府など大人社会に対する反抗を経た後に、現実との折り合いをつけているように見える。そして、企業も、優れたスキルを持つ若者を獲得したがっている。Hotz氏と全面対立したソニーはともかくとしても、Facebookのほかにオファーがあったとしても不思議ではない。ハッカーを採用する企業は、ハッカーとの対立よりもそのスキルをうまく活用しようと考えており、今後もこのトレンドは続くだろう。

 一方、同じくソニーに訴えられたドイツのハッカーAlexander “Graf Chokolo” Egorenkov氏は、刑務所に行く決意をしているとブログに記している。fail0verflowの一員だった同氏は、Hotz氏と同じようにPS3ハッキングを通じてセキュリティシステムを破った。ブログ上で寄付を募っているが、訴訟費用も工面できず、和解交渉も進んでいないとみられる。Hotz氏が寄付を集めて訴訟を乗り切り、残った額をElectronic Frontier Foundation(EFF)に寄付。ソニーと和解して、さらに人気企業に職を得たのとは対照的だ。

 

iPadアプリ、セキュリティ、HTML5プラットフォーム…

 気になるのは、Hotz氏がFacebookで何をしているかだ。TechUnwrappedは、Facebookがプロジェクトの存在を認めているiPadアプリ開発ではないかと予想。CBS Newsは、やはりセキュリティ関係ではないかとしている。そのタイミングから、ZDNetなど複数のメディアは、少し前に浮上したFacebookが開発中とされるHTML5プラットフォーム「Project Spartan」を挙げている。

 Hotz氏はFacebookで、Facebookでの仕事について、「働くのに素晴らしい場所だ。初回の『ハッカソン』(開発者イベント)が終わったところ」と投稿しているとのことで、まずは現状に満足のようだ。

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(岡田陽子=Infostand)
2011/7/4 11:28