「ハイテクバブル2.0」? Facebookの評価額500億ドルの波紋
2011年の干支はうさぎ年だ。日本の金融業界では「うさぎ年には株が跳ねる(上がる)」といわれているそうで、実際、日本や米国の株式相場は好調な幕開けを迎えた。ハイテク分野でも、新年を迎えてすぐにFacebookが5億ドルを調達という明るいニュースが流れた。投資したGoldman SachsのFacebookの評価額は500億ドル! これには新たな「ハイテクバブル」との見方も出ている。
■特別目的会社を設立、株主500人ルールの規制を回避するGoldman
新年早々の1月2日、New York Timesは、Goldman SachsとロシアのベンチャーキャピタルDigital Sky Technologies(DST)がFacebookに5億ドルを出資すると報じた。内訳は、Goldmanが4億5000万ドル、DSTが5000万ドル。またGoldmanは最大7500万ドル相当をDSTに売却する権利を有するという。この際にGoldmanらがFacebookに付けた評価額500億ドルは、Amazon、Yahoo!など他のネット大手を大きく上回るものだ。
またGoldmanは、この取引の一部として、特別目的会社(SPV:Special Purpose Vehicle)を設立し、自社の富裕層顧客が、SPVを通じてFacebookの未公開株を購入できるようにする。GoldmanはSPVから最大15億ドルを得る計画という。1月2日に得意先に案内のメールを送り、これに申し込みが殺到したと伝えられている。
GoldmanがSPVを設立するのは、米証券取引委員会(SEC)の規制をかわす狙いがある。米国では未上場企業であっても株主が500人以上になると公開企業と同様に財務情報を開示しなければならない。Facebookは2008年に、自社株保有者の多くが従業員であることを理由に例外を認められたが、実際は公開規制に該当する、あるいはそれに近い状態であるとみられている。
だがSPVを“1人の株主”扱いすることで開示義務の対象にならず、“株主500人ルール”の規制を回避することができる。Facebook株は、未公開株式取引所のSecondMarketなどで取引されており、500億ドルは、未公開株式取引所での評価額と同じレベルという。Goldmanにしてみれば、今回の取引で、2012年とされるFacebookのIPO(新規株式公開)の際、主幹事を務められる可能性が高くなる。一方のSEC側は透明性確保の観点から今回の動きを問題視しており、調査を開始したところだ。
■500億ドルの衝撃~ハイテクバブルの再来?
こうしたGoldmanやFacebookの手段や思惑はさておき、Facebookの500億ドルという評価額は経済界に衝撃を与えた。「ハイテクバブルが再来した」と見る向きも多い。
まず、Facebookに500億ドルの価値はあるのだろうか? Facebookは、SNSプラットフォームとして世界で5億人のユーザーを獲得し、米国では2010年にページビューでGoogleを抜いた。だが、いまだビジネスモデルは固まっていない。現在の収益は主に広告からで、2010年の売上高は推定約20億ドルとされている。
Business Insiderは、20億ドルの売上に対し純利益率を(多く見積もって)25%とした場合、評価額500億ドルとなるための株価収益率を100倍と割り出す。これは、Appleの22倍、Googleの24倍、Baiduの83倍をも上回るもので、Business InsiderはFacebookへの過大評価を暗に指摘する。TechCrunchも、FacebookとGoogleの売上高と評価額の割合を比較し、売上高の25倍(Googleでは9倍)と評価されたFacebookに、その価値があるのかとの疑念を隠さない。
Gurdianの金融エディター、Nils Pratley氏は、この評価額を「ばかばかしい」と一蹴。Facebookと同じ評価額500億ドルで取引されている小売大手のTescoを引き合いに出す。Tescoの純利益が約57億ドルであるのに対し、Facebookは(純利益ではなく)売り上げで20億ドルに達したに過ぎない。「2つの企業に同じ評価額をつけることは、どう考えても不可能だ」として、「Facebookの株を買うならTescoを買うべき」と投資家にアドバイスしている。
実際、1月6日付のNew York Timesによると、Goldman傘下のGoldman Sachs Capital Partnersでさえ、Facebook株の購入を「過大評価」「投資基準と合致しない」などの理由から断ったという。
■強いビジネスモデルを持つ企業の株高騰はバブルではないとの指摘も
ハイテク業界では、このところGrouponやTwitterなどのベンチャーが大型の資金調達を行ったというニュースが相次いでいる。未公開株の取引も活発化しており、非公開企業の時価総額が短期間で急騰するケースも出ている。かつてのバブルを思わせるこうした動きに警戒感が漂う一方で、これはバブルとは違うとの見方も多い。
Venture Beatの編集者はThe Wrapに対し、「強いビジネスモデルを持つ一部の企業を指差して、バブルというのは無知だし、ばかげている」とコメント。その理由として、1990年代後半のネットバブル時のネットベンチャーと比較すると、現在のベンチャー投資はリスクも低く、売り上げも本物だとしている。
■未公開株式取引所で資金調達するネットベンチャー
The WrapやNew York Timesは関連して、ネットベンチャーの新しいトレンドも指摘する。1990年代後半のネットバブルを見てきた若い起業家は、当時の経営者のようにIPOを急がず、できるだけ長く未公開企業の状態を引っ張り、その間に確固たる基盤を築こうとしているというのだ。
それを可能にしているのが、未公開株式取引所だ。これは同時に、目をつけた企業に早期に投資したいという投資家のニーズも満たすことができる。今日のベンチャー企業は資金調達にあたって、1990年代後半のネットバブル期のベンチャーとは違う道を選べるようになった。外部からの厳しい精査の目を避けられるだけでなく、財務情報公開のコストも節約できる。
だが一方で、投資参加への敷居は高くなり、出資を受けられる企業も限定されてくる。投資する側も受ける側も少なくなることが、経済に与える影響も懸念される。
Facebookのニュースに次いで、Grouponが老舗Kleiner Perkins Caufield&Byersから9億5000万ドルを調達したとの報道や、LinkedInが今年IPOするという憶測も出ている。今年が、うさぎ年にふさわしいスタートになったことは間違いないようだが、問題はどこへ向かってはねるのかということだろう。