攻めに入るLinkedIn-SNSの主戦場はビジネスへ



 SNS業界の動きが活発化している。Yahoo!の「OpenSocial」参加、MicrosoftのSNS 5社との提携など、業界の統合・再編につながりそうな発表が相次いでいる。こうした中で、独特の動きをみせているのが、ビジネスプロフェッショナルに対象を絞り込んだLinkedInだ。LinkedInは次々と機能強化を発表しているが、本当に使えるビジネスSNSを提供できるのだろうか?


 LinkedInの創業は2003年。SNSでは老舗といえる。開始当初からビジネスプロフェッショナルにフォーカスしてサービスを展開。MySpaceやFacebookが広く話題になっても、そのポジショニングはいささかも揺るぐことはなかった。その分、機能強化のペースもどちらかといえば地味だった。

 そのLinkedInが、今年に入って、相次いで新機能を発表し、攻めの姿勢を鮮明にしている。まずは2月にホームページをリニューアルして、ユーザーが自分の状態を表示できるステータス機能を追加した。次に、「iPhone」などモバイル対応を発表した。これはちょうどAppleがiPhoneのSDKを発表する前で、ビジネスでの利用に注目が集まっていたタイミングだ。モバイル対応を発表した同社のブログには、ユーザーの歓迎のコメントが多数寄せられている。

 3月27日には、BusinessWeek誌と求人サイトのSimplyHiredの2つのWebサイトに、LinkedInのボタンを組み込んだ。これによってLinkedInのメンバーは、そのトピックスに関連したメンバーなどの情報を閲覧できるようになった。その前、Bill Gates氏がLinkedInに登場し、他のメンバーの質問を受けるというイベントも話題となった。


 こうしたなかで最大のニュースは、企業ディレクトリ「LinkedIn Company」のローンチである。3月20日にベータ版としてスタートした同機能は、企業に関する情報を表示する。BusinessWeekなどサードパーティの情報とLinkedInのメンバーからの情報を集め、その企業に最近入社した人、従業員の職歴、社内歴、どの会社から来て、どこへ移ったかなどの情報を把握できる。すでに、約150業種から16万社の情報がリストされているという。

 企業間の人の動きなどは、通常、断片的にしか分からず、全貌はつかみにくい。LinkdIn Companyでは、整理された情報が得られることなどが高く評価されている。たとえば、Googleの従業員をみると、Microsoft、IBM、Sun Microsystems、Oracle、Yahoo!などの出身者が多く、Google従業員の転職先は、Yahoo!、Microsoft、Facebook、Cisco Systems、Appleが多い(Seatlle Post Intelligencerの記事)という。これは、その企業やライバル企業に就職を考えている人はもちろん、取り引きのきっかけ作ろうとする場合などに役立つだろう。サードパーティの情報は、ビジネスパートナーや顧客の信用調査のツールとしても使えそうだ。

 CNETのブログは、「退屈なSNSが、やっと注目に値する機能を提供した」と、これを賞賛している。

 だが、懸念される部分もある。The Wall Street Journalのテクノロジーブログは、LinkdIn Companyが魅力的な機能であることを認めたうえで、こうした情報が開示されることを嫌う企業もあるだろうと指摘している。人事情報などの開示は、従来、企業がコントロールしてきた。「ボトムアップで従業員が自社についての情報を公開することには慣れていない」と言う。

 LinkedInも、この点は分かっており、現時点ではサービスを限定的なものにとどめて動向を見る姿勢のようだ。LinkedInの担当者によると、現在、最新の雇用と職歴の情報が5つしかリストされないのはそのためだという。


 LinkedIn Companyの登場で、Facebook対LinkedInという構図が強まったという見方も多い。

 SNSに特化したブログであるSocialTimesは、この新機能とFacebookのネットワークページとの類似性を指摘している。LinkedInは昨年12月、開発者向けのプラットフォームを公開しており、このことも対Facebookと解釈できる。一方、Facebookは、多機能ではあるがビジネスにフォーカスしているわけではない。従業員にFacebookの利用を禁止する企業もあり、企業からの評判は必ずしもよくない。

 そもそも、LinkedInのビジネスモデルは、広告よりも求人の仲介やプレミアムサービスから収益を上げるもので、FacebookやMySpaceとは一線を画している。常に収益性が問題になるSNSのなかで、LinkedInは2006年、いち早く黒字化を果たしている。

 このところのLinkedInの機能強化には、成熟期に入ったSNSで、同社がビジネス向けというポジショニングの確保を狙ったものとみえる。今年1月には、英国に初の米国外オフィスを開設して国際展開も着々と進めている。

 “Facebookブーム”が一段落して、SNSそのものの新規さが薄れたとき、LinkedInには絶好のチャンスになるかもしれない。

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(岡田陽子=Infostand)
2008/3/31 09:05