Microsoftの方針大転換 3つの戦いに終止符?
Microsoftが「オープン」を掲げて大きくかじを切った。同社が開発する企業向け製品のAPIや、これまで機密保持契約でガードを固めてきたプロトコル情報などを無償で公開する。“プロプライエタリ”の代名詞のように名指しされてきた同社がドラスティックに変わろうとしているのか、それとも―。
21日に開かれた電話会見には、CEOのSteve Ballmer氏とチーフ・ソフトウェア・アーキテクトのRay Ozzie氏、上級副社長のBob Muglia氏、Brad Smith氏らが参加。Ballmer氏が「テクノロジー、ビジネス慣行でのかなり広範な変更」として、製品のオープン性をより高めるための4つの「相互運用性の原則」を発表した。
4つの原則は「open connections」(オープンな接続の保証)、「data portability」(データの可搬性向上の推進)、「standards」(業界標準のサポート強化)、「industry engagement(顧客ならびにオープンソースコミュニティを含む業界内組織とのよりオープンな関係の構築)、からなる。そして今回、これらの下に実施する具体的な施策は、主に次の3つだ。
1)APIとプロトコルの公開
2)Office 2007への新APIの導入
3)特許情報の公開とライセンスの柔軟化
1)は、他社製品との接続で利用されている全APIとコミュニケーションプロトコルについて、Windows、Office製品の将来バージョンにわたって技術文書を公開する。2)は、Word、Excel、PowerPointに新たな文書フォーマットをプラグインとして追加できるようにする。
3)は公開したプロトコルに関連する特許情報(出願中も含む)など、これまで機密保持契約でガードを固めていた情報を無償公開する。また、オープンソース開発者が、これらのプロトコルの実装を開発、ないしは非商用目的で配布する限り、その行為を提訴しないと約束する。
これらをみていくと、いずれも同社がこれまで抱えてきた戦いに関係した内容であることが分かる。1)は、独禁法での欧州連合(EU)との戦い。発表した内容は、昨年10月に受け入れを決めたWindowsワークグループサーバーの互換性情報開示命令に沿った内容で、今回、他のクライアント製品も含む広範囲の製品が追加されている。
2)は、同社の推進する「Office Open XML(OOXML)」とIBMやSun Microsystemsなどが推す「Open Document Format(ODF)」とのオフィス文書フォーマットをめぐる戦い。OOXMLはISOの承認で後れをとっており、標準化がかかった投票結果調停会議(BRM)を今週に控えている。
3)は、知的所有権をめぐるオープンソースコミュニティとの戦い。同社はオープンソースソフトが自社の235件の特許権を侵害しているとして、コミュニティをけん制してきた。
会見でBallmer CEOは「Microsoftの長期にわたる成功は、オープンで、柔軟なソフトウェアとサービスプラットフォームを提供する能力に負っている」と胸を張った。同社の柔軟さを立証する方向転換ということだ。
ただ、今回の戦略転換には、あまり旗色のよくない戦いを打開したいとの意図があるように見える。少なくとも「4つの原則」というセットにすることで変化を印象づけることができる。Microsoftは、もう一方で、Yahoo!買収、つまりオンラインサービスの確立という大きな戦いを繰り広げており、ほかの戦いに決着をつけたいと考えているのかもしれない。
業界やアナリストの反応はどうだろう。
MicrosoftウォッチャーのMary Jo Foley氏はZDNetでのブログ「All About Microsoft」で、「Microsoftの“重要な”発表は、そんな重要なものではなかった」と切り捨てた。
同氏は「またしても、自社と他社の製品の相互運用性に必要なすべてのプロトコルとプログラミングインターフェイスを共有するという約束を発表した」と指摘。OOXMLの標準化がかかったBRMの審議が近いことが関係しているとみている。
またEUも、この発表には新味がないと考えているようだ。即日発表したコメントで「相互運用性の実現に向けた動きは歓迎する」としながら、「発表は、少なくともMicrosoftが相互運用性の重要性に言及した過去の声明に類似している」と指摘。今後の動きを注視していくと述べている。
そして、長らく戦いを続けているオープンソースコミュニティでは、訴えない対象が「非商用利用」に限られていることに疑念と不満を持つ声が出ている。
Red Hatの法務担当上級副社長Michael Cunningham氏は21日付のブログで、「オープンソースコミュニティとの競争を妨害するよう、うまく偽装されているように思われる。“オープンソース開発者を訴えない約束”が、開発ないしは非商用目的の実装を開発・配布する限りにおいて、とは、どう説明できるのか」と言う。「これはまったく陰険だ」とも。
だが評価はともあれ、知的所有権をビジネスの中核にすえ、ライセンスで大きくなった同社が、これまでの慣行を変えようと努力していることは間違いないのではないか。Microsoft自身のとまどいが、電話会見でのこんなやり取りから、うかがわれる。
Brad Smith氏:他のディストリビューターやユーザーに対する明確なメッセージは、特許ライセンスが無料で利用できるということです。
Steve Ballmer氏:特許は、無料ではなく、利用できるということ、だよ。
Brad Smith氏:簡単に利用できる。
Steve Ballmer氏:権利料を払うことで簡単に利用できる、だ。