激動のYahoo!-CEO更迭とMySpaceの買収話



 この1週間、米Yahoo!関連の大ニュースが次々に飛び出してきた。突然のトップ交代に続き、News Corp.との間でSNS世界最大手のMySpaceの売却について話し合いが行われていたことが明らかになった。老舗インターネットポータルは、メディア企業の再編と、インターネット企業の生き残りをかけた戦いの激動のさなかにある。


 Yahoo!は6月18日、同社を約6年間切り回してきたTerry Semel氏のCEO辞任を発表した。後任は共同創業者であるJerry Yang氏が引き継ぎ、前CFO(最高財務責任者)のSusan Decker氏が社長としてYang氏をサポートする。Semel氏は非常勤の会長専任に退き、今後はアドバイザーとしてかかわってゆくという。

 Semel氏は、エンターテインメント畑の経験が豊富で、Warner Brothersの会長兼共同CEOから2001年5月にYahooの会長兼CEOに転身。業績低迷で辞任した前任者Tim Koogle氏のあとを継ぎ、同社を建て直すことに成功した。

 しかし、ここ約1年半は業績不振に陥って株価は下落。そして検索サービスでは、トップのGoogleに大きく引き離され、期待の新広告プラットフォーム「Panama」も遅れた。直前の6月12日の株主総会でSemel氏は、株主から厳しく非難された。辞任は実質的な更迭とみられている。


 そして、その2日後、今度は“メディア王”Rupert Murdoch氏のNewsが傘下のMySpaceの買収をYahoo!に持ちかけていたことが明らかになった。予想外の展開だ。

 これを最初に報じたのは英The Timesと米The New York Timesで、NewsはMySpaceをYahoo!に譲渡するのと引き替えにYahoo!株25%の取得を提案したという。株価から計算した評価額は120億ドル以上。Newsは2005年夏に5億8000万ドルで買収したMySpaceに20倍の値を付けたのだ。

 22日付の英FT.comによると、この話し合いは、News側はMurdoch氏と、ナンバー2でCOO(最高業務責任者)のPeter Chernin氏、Yahoo!側はSemel氏によって行われていたという。ただし、「話し合い」(discussions)であって、「交渉」(negotiations)の段階までは到達しなかったとしている。

 Yahoo!は、もともとSNSに非常に強い興味を持っていた。ハイテクブログのTechCrunchは昨年末、SNS二番手のFacebookの買収を検討するためのYahoo!の内部文書を入手したと伝えている。この計画はYahoo!社内では「Project Fraternity」と呼ばれ、10億ドルでFacebookに買収をオファーしたが、拒否されたという。

 今回の話は、Yahoo!には一つのチャンスであったことは間違いない。ただ、The Timesによると、提案に対するYahoo!側の態度は明確ではなかったという。売却提案とトップ交代の間に、直接的な関係があったのか否かが分からないが、いずれにせよ売却の件は、仕切り直しになるだろう。


 このYahoo!をめぐる一連の動きの背景には、2つの流れがある。

 一つはメディア企業の再編だ。現在、多くの巨大メディア企業は、新聞からテレビ、ネットまでの多チャンネルで、コンテンツを活用・配信する「クロスメディアプラットフォーム」戦略を突き進んでいる。Newsはその代表格で、Yahoo!への提案と並行して、the Wall Street Journalを傘下に持つメディア大手Dow Jonesの買収に動いている。

 もうひとつはインターネット企業でのGoogleの独走だ。検索サービスとその広告の分野では、ライバルはじりじりとGoogleに引き離されており、各社とも挽回策を模索している。これには思い切った買収や提携も選択肢に入っている。5月に報じられたMicrosoftとYahoo!の提携の話(その後消滅)などは、その代表的なものだ。

 Yang新体制は、こうしたなかでスタートする。

 そのYang氏に対する評価だが、大半のアナリストは好意的に受け止めているようだ。

 Gartnerの副社長でメディアアナリストのAllen Weiner氏は、Newsweekのインタビューに対して「以前から、CEOに最もうってつけの人物は彼だと言ってきた」と述べ、「Yang氏には、非常に珍しい“右脳左脳”能力がある。これは成功したテクノロジー企業が必ず持っているもので、たとえば、Steve Jobs氏はビジネスのポテンシャルとともに、テクノロジーの持つ意味を理解している」と評している。

 また、少なくとも、インターネット業界の象徴的存在であるYang氏の登板で、Yahoo!の士気が高まるという点では、多くのアナリストの見方は一致している。

 ただ、Yahoo!は、Yang氏が20歳のときに作ったときとは違い、いまや従業員1万2000人で多方面に事業を展開している。この巨大企業を38歳のYang氏がどう運営していくかに、いやがうえにも注目は集まっている。

 Yahoo!は24日、広告セールス部門の再編を発表した。

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(行宮翔太=Infostand)
2007/6/25 09:00