Windows Vista、売らない新製品「Enterprise」の役割



 Windows新バージョン「Vista」は年内のリリースへ向けて最終段階に入ろうとしている。製品ラインアップも正式発表となり、各メディアでは、5年ぶりのWindowsへのアップグレードの是非や課題が頻繁に取り上げられるようになった。そこで注目を浴びているのが、Vistaと「SA」の関係だ。


 Vistaには6種類のバージョンが用意される。企業向けは「Business」と「Enterprise」の2種類、ホーム向けは「Home Basic」「Home Premium」「Ultimate」の3種類で、Ultimateは企業向けが持つすべての機能まで取り込んだ最上位の位置づけだ。さらに、Windows XPで導入された途上国向け版「Starter」を地域によっては販売する。製品としては6種類だが、欧州連合(EU)との独禁法訴訟の展開次第では、メディアプレーヤーを省略した版も投入されることになる。

 これらのWindowsのうち、パッケージで販売されるのは5種類だ。企業向けの「Enterprise」が、Microsoftのソフトウェア・メンテナンス・プログラム「Software Assurance」(SA)の顧客のみに提供されるためである。この非売版Windowsについて、米Gartnerは企業向けライセンス契約の拡大を狙ったものだとみている。

 Enterpriseの提供条件であるSAは、契約期間内のアップグレードを無償にするプログラムで、企業ライセンスと統合あるいはオプションとして提供されている。たとえば3年契約であれば、その間にリリースされたすべての新バージョンへ何度でも無償アップグレードできる。企業は、一定額を払い続けていれは、バージョンアップのたびに購入せずに済み、お得となる契約だ。

 ところが、Windows Vistaのリリースは2006年後半の予定で、現行製品Windows XPの発売から5年が経つ。このためSA契約企業は、その間アップグレード権を行使することなく料金を払い続けてきた。また、リリース時にXPの採用を見送った企業も少なからずあり、「Windows 2000から一気にLonghornに切り替える」企業には、SAの恩恵はさらに薄くなる。

 SAに対する企業の風当たりは強い。MicrosoftがVistaのリリースを正式に「2006年」と発表したのは2004年8月だが、この時、“目玉機能”となるはずだった次世代ストレージ・サブシステム「WinFS」の搭載を見送ることもあわせて発表した。Gartnerなどは、この決断が、SA顧客の不満を抑えるためとみている。Vistaのリリースを2006年より後に延ばすことはできないため、WinFSを犠牲にせざるを得なかった、ということである。

 Vista Enterpriseは、契約企業の不満を和らげ、同時にSA契約の獲得を増やす大事な特典なのだ。


 Gartnerが3月6日に発表したレポート「Microsoft Pushes SA With Exclusive Content in Windows Vista」によると、これまでSAを契約していなかった企業ユーザーの多くが、「Enterprise」によってSAの再評価を迫られることになるという。

 「Enterprise」には、「ハードディスク暗号化ツール」「多言語対応ユーザーインターフェイス(MUI)キット」「Virtual PC Express」「UNIXアプリケーション用サブシステム」の4つの機能が追加されている。このうち暗号化などいくつかは、サードパーティーからも同様の機能を持った製品が出ている。

 しかし、MUIパックだけは他では手に入らない。ユーザー企業はSAを選ぶか、パッケージで購入した製品からMUIパックのイメージを手間と費用をかけて作成し、新しいOSに展開していくかを選ばなければならないのだ。この結果、「Enterprise」効果として、「1000台以上のPCを持ち、SAを購入していなかった顧客の30%が、MUIのためにSAを購入するだろう」とGartnerはみている。

 このレポートの著者の1人でGartnerリサーチバイスプレジデントのMichael Silver氏は米『InformationWeek』に対して、「Microsoftはあらかじめ予測できる売り上げを必要としている」と指摘、同社には「SAの価値を高める、あるいは、より魅力的な機能を備えたSA顧客限定のVistaのパッケージをつくる、という2つの方法があったが、Microsoftは後者を選んだ」と解説している。Microsoftが、ビジネスユーザー向けOSで、機能を抑えたバージョンを作ったのは、これが初めてだという。

 Microsoftは昨年9月、SAプログラムを改訂して、導入支援やサポートを強化すると発表した。新しいプログラム「Software Assurance 2006」はこの3月から適用になる。まもなく新しいSAの詳細が発表されるとみられている。

関連情報
(行宮翔太=Infostand)
2006/3/13 09:00