広告付き無料Windows? Web 2.0を探るMicrosoft



 米Microsoftがデスクトップソフトの無料提供を検討している―。先週、米CNETがこう報じた。一部のデスクトップソフトについて広告を表示して無料で利用できるバージョンをつくるというものだ。それもアプリケーションだけではなく、Windows OSまでも対象に検討しているという。突飛に感じられるが、ありえないことではない。


 このニュースは、CNETが入手したMicrosoftの内部リポートに基づくものだという。Bill Gates会長ら幹部が社の方向性を話し合う「Thinkweek」というミーティングのために、社内研究者らが書いたものとされる。レポートは「一部製品の広告入りバージョン」について検討するよう提言し、家庭向け統合ソフト「Works」や個人マネー管理ソフト「Money」、さらにはWindows OSについても、広告モデルを考えるべきだとしているという。

 衝撃的なニュースではあるが、他メディアの反応は鈍かった。CNETを引用して報じたメディアがいくつかあった程度で、ストレートに追随したものはなかったようだ。他社がまったくレポートを入手できなかったとは考えにくい。現時点では、決定したこと、あるいは重要な内容ではないと判断したと考えられる。このレポートは、さまざまな可能性を探るための社内資料とみるのが妥当だろう。

 しかし、この話が荒唐無稽かというと、あながちそうでもない。同社は広告モデルをいま強力に推進しようとしている。

 Microsoftは11月1日、広告モデルを取り入れた新サービス「Windows Live」「Microsoft Office Live」を発表した。個人向けのメールやインスタントメッセージ、また企業向けの業務ツールをオンラインサービスとして提供するものだ、基本的な機能は無料で、さらに高度な機能をサブスクリプション方式で利用できる。同社は「WindowsやMicrosoft Officeを置き換えるものではなく、連携して機能を拡張するもの」と説明している。

 Microsoftは、パッケージソフトの販売に大きく依存する収益構造から、広告の比率を引き上げていきたいと考えている。オンラインサービスとソフトウェアを組み合わせた“Live software”戦略を掲げた。

 同社が本気であることは間違いない。


 「Windows Live」「Microsoft Office Live」の発表後、ゲイツ会長から同社の幹部らにあてたという電子メールが流出した。両サービスの発表前夜、10月31日夜の日付のメールは、次のように記している。

 「インターネットの広範でリッチな基盤は、膨大な数のユーザーがインターネット経由でアプリケーションや体験を得られる“サービスの波”を解き放った。ソフトウェアやサービスの開発・配布の資金を直接的あるいは間接的にまかなう手段として、サブスクリプションやライセンスモデルと並んで、広告が登場したのだ」「この来るべき“サービスの波”は非常に破壊的なものになるだろう」。広告を収入源としたWebベースのサービスビジネスの台頭に大きな危機感を持っていることがうかがわれる。

 このメールには、Ray Ozzie CTO(最高技術責任者)の「The Internet Services Disruption」というメモが添付されていた。Ozzie氏は「いくつかの強力で確固とした競争者が、インターネットサービスとサービスを可能にするソフトウェアに的を絞って取り組んできた。その最も顕著なものがGoogleである」と述べている。サービスの波の到来、その波に乗って台頭したGoogleの挑戦という図が浮かび上がってくる。

 また、Ozzie氏のメモには、Ajax、RSS、検索など、最近、インターネット業界を席巻しているWeb 2.0を思わせるキーワードがちりばめられている。

 「Windows Live」「Microsoft Office Live」は、こうした中で投入するサービスであり、GoogleのAdSense広告の向こうを張った広告リスティングサービス「adCenter」と組み合わせて提供する。その志向するのは、Microsoft版「Web 2.0」サービスといってよい。

 Web 2.0という言葉は、最近、日本でも大ブームとなっているが、次世代インターネットの概念、ビジネスモデルなど、かならずしも皆の受け止め方が一致してはいない。現在、これを最も包括的に解説し、定義づけを試みているのは、O'Reilly MediaのCEO、Tim O'Reilly氏の論文「What Is Web 2.0」だ。

 O'Reilly氏は、この論文のなかで「プラットフォームとしてのWeb」や「集合知の活用」「ソフトウェア・リリース・サイクルの終焉」などWeb 2.0の7つの原則をあげ、次のように解説している。

 「Microsoftのビジネスモデルは、誰もが2、3年周期でコンピューティング環境をアップグレードするということに依存している。Googleのそれは、誰もが自分のコンピューティング環境に、新しい何かを毎日探すということに依存している」。Microsoftの新しい挑戦は、まさにこの部分だ。

 実は、O'Reilly氏は、「Windows Live」「Microsoft Office Live」の発表会にも出席していた。その感想をブログのなかで次のように記している。

 「私は本当に、このプレゼンテーションに元気づけられた。競争は産業にとっても、ユーザーにとってもすばらしい。Microsoftは1995年に初めてインターネットに登場した時のように、明らかにリセットされたスタートラインに並んでいる。すべては誰もに手の届くところにあるのだ」。

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(行宮翔太=Infostand)
2005/11/21 09:04