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驚異のAR企業 5.4億ドルの出資を受けたMagic Leap

 Googleを中心とするベンチャーキャピタルが、Magic Leapというなじみのないベンチャー企業に5億4200万ドルを出資した。Magic LeapはAR(Augmented Reality、拡張現実)を専門とするというほか、具体的な製品もユーザーベースも持っていないという“謎の企業”だ。この出資は業界を驚かせたが、その後のMagic Leapの特許の分析などから、どんな会社なのかが分かってきた。

企業評価20億ドル、破格の扱い

 Magic Leapはフロリダにある従業員100人あまりの新企業だ。同社の10月21日の発表によると、出資はシリーズB(第2ラウンド)で、Googleの主導の下、「パシフィック・リム」や「GODZILLA ゴジラ」で一躍有名になった映画製作会社Legendary Entertainment(CEOの Thomas Tull氏は個人でも出資する)、 Qualcommのベンチャーキャピタル部門、Marc Andreessen氏のAndreessen Horowitzなどが参加している。Magic Leapはこの資金を、製品開発、ソフト開発キットのリリース、コンテンツ・エコシステムの拡大、モバイルウェアラブルシステムの商品化加速のために活用すると説明している。

 Wall Street Journalによると、5億4200万ドルという額は1992年以降のベンチャーキャピタルの出資額で5番目。4位Western Integratedの8億8900万ドル(1999年)に次ぐ規模だ。なお最高はFacebookの15億ドル(2010年)。Magic Leapの企業評価額は20億ドル弱に相当し、FacebookがVRヘッドセットのOculus Riftを買収した際の額に匹敵する。

 特徴的なのは、Googleが傘下のコーポレートベンチャーキャピタルGoogle Venturesからではなく、直接出資したこと、また自社の幹部を役員として送り込んだことだ。それもAndroidやChromeを担当するシニアバイスプレジデントのSundar Pichai氏が直接乗り込む。

 10月24日にはRe/codeのスクープで、Pichai氏が共同創業者でCEOのLarry Page氏の指示で、Googleの全コア製品(検索、マップ、Google+、インフラ、広告)の責任者に昇格することが判明している。事実上の製品最高責任者であるPichai氏が参加する企業となると、ますますMagic Leapのポジションが重要であることがうかがわれる。

 ARは、現実の世界に情報を付加し、実際にはそこにない物を、現実の風景の中で、あたかも存在するように見せることができる。Magic LeapのWebサイトのトップには、立体CGの小さな象が、手のひらの上で踊る、短いデモ動画が掲載されている。かなりリアルで、エキサイティングなものだ。サイト内には、教室で机の上のぽっかり浮かぶタツノオトシゴ、人が行き交う街の空中に出現した「イエローサブマリン」、海岸の上空を飛ぶクジラなどのイメージ写真も公開されている。

 出資者であるLegendary EntertainmentのThomas Tull氏は、その技術を見た数少ない人物で、感想をWall Street Journalに次のように語っている。「信じられないぐらい自然で、ほとんど不快に感じるくらいだった。部屋の中をドラゴンが飛び回るんだ。開いた口がふさがらず、私は笑いを抑えられなかった」

 この発表時は不明点の多いMagic Leapのテクノロジーだったが、MIT Technology Reviewなどが同社の特許を分析して、カギになる部分が明らかになってきた。ヘッドマウント型の3Dディスプレイで現実の世界に仮想オブジェクトを重ね合わせるウェアラブルで、これまでにないリアルさで、仮想オブジェクトを見せることができるシステムだ。

(行宮翔太=Infostand)