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17歳の高校生の会社に3000万ドル Yahoo!が買ったもの

 17歳の英国の高校生の会社をYahoo!が巨額で買収したというニュースは、テクノロジー業界だけでなく一般向けにも大きく報じられた。モバイル向けにニュースを要約するアプリを提供する「Summly」と創業者Nick D'Aloisio氏の名は一躍知れ渡った。両社は買収額を公表していないが、メディアは3000万ドルに上ると伝えており、その破格の買値に驚き、真意を測ろうとしている。Yahoo!の勝算は何なのか、モバイルバブルなのか。

17歳の“子供”

 3月25日のYahoo!とSummlyの発表によると、Yahoo!はSummlyの技術、知的財産を完全に取得し、創業者のD'Aloisio氏と、開発チームを社員として迎え入れる。あわせて、アプリのSummlyの提供は終了する。これまでiOS向けに提供してきたアプリのSummlyは既にApp Storeから削除されている。Yahoo!は取得した技術を自社サービスに活用する考えで、「Summlyの技術は、近く、Yahoo!のモバイル体験の至るところに生かされるだろう」と説明している。

 Yahoo!のCEO Marissa Mayer氏は、昨年10月の業績報告で、将来のどこかの時点で「モバイルを主とする会社」になると宣言しており、今回の買収もその一環ということになる。Yahoo!は昨年10月にはStampedを、先月はJybeというモバイル関連企業を買収している。

 今回のSummlyの買収額は公表されていないが、All Things DigitalのKara Swisher氏が複数の関係者の話として伝えたところによると、Yahoo!が支払う額は3000万ドルで、9割は現金、残り1割が株式という。「17歳の子供(kid)に3000万ドル」という驚きをもって、ニュースは駆け巡った。

ベンチャーキャピタルから出資を受けた最年少の起業家

 Summlyは、Nick D'Aloisio氏が15歳のときに設立した会社(当初の名はTrimit)だ。D'Aloisio氏は12歳から独学でプログラミングを学び、RSSで取得したニュースを140文字から1000文字に要約するiPhone向けアプリを公開した。これに目をとめた香港の大富豪で実業家のLi Ka-shing(李嘉誠)氏が出資を申し出、30万ドルの資金を得て2011年9月に会社を設立した。

 D'Aloisio氏は、自然言語処理の専門家らを雇い入れながらアプリの改良を進め、Summlyのアプリを世に送り出した。ニュースを要約してスマートフォンなどのモバイルデバイスの画面で読むのに適した長さにする。技術面では、非営利研究機関のSRI Internationalからライセンスを受けているという。AppStoreでは100万弱のダウンロードを記録している。

 ベンチャーキャピタルから出資を受けた最年少の起業家は、それまで19歳の時にモバイル広告プラットフォームのKiip.meを共同創業したBrian Wong氏とされてきた。D'Aloisio氏はこれを抜いて最年少記録を更新する。ちなみにFacebookのMark Zuckerberg氏が最初に出資を受けたのは20歳の時だ。

 神童&ビジネスドリームの画期的な話だが、買収額を報じたAll Things Digitalの記事のコメント欄には、「Marissa Mayerの壮大な無駄遣い」「高価で派手なPRにすぎない」「大勢のYahoo!の社員のモラルを壊す」など批判的なものが多い。また、Yahoo!の狙いは、Summlyに出資している著名人(Rupert Murdoch氏、 俳優のAshton Kutcher氏、Yoko Ono氏、Zynga共同創業者のMark Pincus氏ら)との関係を狙ったものとの見方、はたまた、D'Aloisio氏の父が投資銀行Morgan Stanleyのヴァイスプレジデントであることを挙げたものもある。

 そして、メディアや専門家にも、この買収に疑問を投げかけるものは多い。

技術の取得? 著作権問題、Mayer氏の暴走

 プログラマーでコーネル大教授のEmin Gun Sirer氏は、創設者が高校生であるといったことは除外して、技術的側面のみから考えても、買収には疑問符が付くとブログで述べている。まずSummlyがコア技術を他社からライセンスしており、技術的には「追加」でしかないこと。また、Summlyには5人のエンジニアがいるが、D'Aloisio氏とともにYahoo!に行くのは2人だけだったことを挙げ、技術の獲得としてはおかしいと指摘する。

 一方、TIMEは、この技術についての著作権上の懸念を指摘する。通信社のAssociated Press(AP)がノルウェーのメディアモニタリングサービス、Meltwaterをニュース記事の著作権侵害で訴えていた訴訟で、ニューヨークの連邦地裁は先月21日、Meltwaterに損害賠償を命ずる判決を下した。

 Meltwaterは、記事の見出しと最初のパラグラフをメールで顧客に配信するサービスだが、判決では、ライセンスを受けずに記事のコア部分を配信しているとしてAP側の主張を認めた。TIMEは、これをメディア企業がコンテンツのコントロールを取り戻す闘いの勝利とした上で、今後、Summlyのようなニュース要約サービスに影響を与える可能性があるとしている。

 また、Washington Postは「Mayer氏の危険な動き」と題して評論。17歳の子供をモバイル戦略の顔にすることを、既存のYahoo!のモバイル開発者がどう思うか、と指摘した。シリコンバレーは30歳前で100万ドルの価値を持つ神童であふれている。が、17歳となると、あらゆる新しいレベルで、ねたみを引き起こすかもしれない、と言うのだ。

 Mayer氏の下で再建中のYahoo!は荒れ模様だ。3月だけで、Yahoo! News編集長のHillary Frey氏、Yahoo! mailとmessengerの責任者Vivek Sharma氏、コンシューマー&グローバルプラットフォーム担当シニア・ヴァイスプレジデントのJames Carroll氏ら、幹部級社員が相次いで退職している。

結局、この投資は見合うのか

 もちろん、モバイルサービスがYahoo!にとって、重要な要素であることも間違いない。Summlyの技術がどう活用されるかが分かるまでは、無駄遣いと判断することはできない。

 ただ、PR効果でいえば、確かに絶大だったと言える。All Things Digitalは、内情に詳しい人物が「Nickは、Mayer氏とYahoo!が最先端にあるように見せる効果がある」と語ったと伝えている。Yahoo!が変わったことを印象づけるにはもってこいの人材だということだ。

 ロンドンのテクノロジーベンチャーキャピタリスト、Robin Klein氏もYahoo!にとっての「戦略的投資価値」が重要なのであり、Facebookが10億ドルでInstagramを買収した例などを挙げながら、3000万ドルも、高すぎる買収ではないとWall Street Journalに語っている。

 「獲得する才能、技術、製品、戦略的価値、宣伝効果をひっくるめて考えれば、買収は帳尻が合う」とKlein氏は述べている。

(行宮翔太=Infostand)