「social」vs「Knowledge」 次世代検索エンジンへの戦い


 今月に入って、検索サービスの大きな発表が相次いだ。Googleの牙城を崩すべく改良を続けているMicrosoftのBingが、サービス開始以来最大のアップデートを実施。ソーシャル検索を導入して、ユーザーインターフェイスを刷新した。一方のGoogleは、インテリジェントな新機能「Knowledge Graph」を導入した。次世代の検索エンジンに向けた戦いが再燃している。

ソーシャル検索を取り入れ、画面を刷新した新Bing

 Microsoftが5月10日に発表したアップデートは、Bingが3年前にスタートして以来、最大のものになるという。その中心がソーシャル検索だ。AOLの特許を売却するなどで関係を深めているFacebookのSNSのデータなどを活用して、新しい検索体験を提供するものだ。

 新しいユーザーインターフェイスでは画面を横に3つのコラムに分割した。左が従来型のWeb検索で、キーワードにマッチしたサイトの要約とリンクを表示する。真ん中は「Snapshot」と呼んでおり、キーワードに関連するサービスの情報をまとめて表示する。例えば、行きたい町のホテルを検索すると、その地図、電話番号、予約サービスなどの、より実用的な情報までに一気に到達できる。

 右側の「Sidebar」は、キーワードについての情報を持っていそうなSNSの友人をピックアップして表示する。例えば、「Hawaii」というキーワードであれば、ハワイに住んでいる、あるいは住んだ経験のある友人を自動的に選び出す。さらに、友人以外に、その分野に詳しいブロガーも探し出す。検索を人のつながりでサポートするという仕組みで、Facebookに加え、 LinkedIn、Foursquare 、Quoraなどのサービスのデータを活用している。


対Googleの切り札

 新Bingは6月初めには全米で利用可能になる予定だが、プレビューしたメディアの評価は上々のようだ。多くは、旧来の“乱雑”なユーザーインターフェイスを、すっきり整理させたことに注目している。

 Wall Street Journalは「よりクリーンに感じられ」「Web検索の孤独をグループアクティビティに変える可能性がある」と評し、Search Engine Landは「Bingには以前からソーシャル検索機能があったのだが、特にソーシャル要素を新しいSidebarエリアに分離することで、よくなろうとしている」と指摘している。

 また、Business Insiderは、Googleとは提携していない有力SNS企業と組んだサービスであることに注目。Microsoftが、ソーシャル検索を対Googleの切り札にしていると述べている。


Googleの「Knowledge Graph」

 一方、Googleは16日、新しい機能強化「Knowledge Graph」を発表した。検索キーワードに関連した情報を、BingのSidebarのような右側のコラムにまとめて表示するもので、Sidebarのクリックごとに対象が絞り込まれてゆく。Wikipediaの「あいまいさ回避」のような機能も持っている。

 例えば、「taj mahal」で検索すると、代表的インドイスラム建築のほかに、米国のブルース・ミュージシャンや、ニュージャージーのカジノ・リゾートも候補として表示する。このうちどれかを選ぶと、他の関連情報は全部カットして、必要なものに絞り込んでゆく。同時に豊富な関連情報のレコメンドも行い、ミュージシャンのTaj Mahalを選ぶと、Ry CooderやMuddy Watersら、他のブルースミュージシャンも挙げてくる。

 Knowledge Graphは、Facebookで有名になった「Social Graph」のもじりのようにも見えるが、決して思いつきではない。2010年夏に買収したセマンティック検索のMetawebも含め、Googleが2年間取り組んできた成果だと言える。

 Knowledge Graphを発表したGoogleの公式ブログには、「things, not strings」(文字列でなく、物事へ)というタイトルが付けられており、Knowledge Graphが、従来のような単なるキーワード文字列のマッチングではなく、検索エンジンが、「ユーザーの探しているものを理解する」第一歩だと説明している。


プライバシーポリシー変更が前提

 Googleによると、Knowledge Graphは、WikipediaやCIAワールドファクトブックなどオープンな情報ソースとともに、5億件を超える物、人、場所などの対象と、それらの関係についての350億件に上る情報を利用しているという。この膨大な関係データは、Googleが蓄積してきたものだ。

 このKnowledge Graphについて、ZDnetのブログ「Googling Google」がおもしろい指摘をしている。今年初め、物議を醸したGoogleのプライバシーポリシーの変更は、まさにKnowledge Graphのようなサービスを行うためのものだったというのだ。Googleは今年1月、サービス体験や品質(検索では検索結果の精度)を向上するため自社サービスの間でユーザーの個人情報を統合・共有すると発表している。

 Googling Googleは、「(Knowledge Graphは)Googleがユーザーについて知っているあらゆることに基づいて結果を表示するだけでなく、Web上のキー・データソースをインデックス化して、オンラインの他のノイズから分離することに役立てている」と解説。個人データの統合も今回の精度向上に生かされているとしている。

個人データがカギ

 Bing対Googleの今回の戦いのラウンドは、「social vs Knowledge」というかっこうになったが、勝敗を決めるのはユーザーだ。だが、どちらが勝っても戦いは終わりはしない。Googleも引き続きソーシャル検索の機能を取り込もうとするだろうし、Bingもセマンティック検索の技術を導入してゆくだろう。

 Googling Googleは、もう一つ大事な指摘をしている。すなわち「検索は何にもまして、インターネットのキラーアプリケーションであり続ける」ということだ。クラウドが一般化して、コンシューマーも自分のデータをクラウドに保存するようになれば、検索はやはり引き続きインターネットサービスの根幹であり続けるという。

 検索の質を高めるための個人データの使用について、今後も何度もクローズアップされるだろう。


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(行宮翔太=Infostand)
2012/5/21 09:40