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クラウドは“偽りの光”? 
〜クラウドで5年間に1380万人の雇用が生まれるとの調査


 クラウドコンピューティングがビジネスにどんなインパクトを与えるかは、多くの人が語り、さまざまな予測をしてきた。どれだけの雇用を生み、経済効果をもたらすかへの関心も高い。IDCが先ごろまとめたレポートによると、クラウドによって世界で2015年までの5年間に1380万人分の雇用が生み出されるという。バラ色の未来のように見えるのだが――。

5年間で1380万人分の雇用、年間1兆1000億ドルの新規事業

 調査はMicrosoftがIDCに委託して行ったもので3月5日に発表された。クラウドが生む世界の雇用は2012年に670万人、2013年に880万、2014年で1130万へと増加し、2015年には1380万人になると予測している。

 企業の規模別でみると、従業員500人以上の企業と500人未満の企業で、ほぼ同じだけの仕事を創出する。どれくらいの雇用が生まれるかは業種によってばらつきがあり、より増える業種として、コミュニケーション・通信(240万人)、金融(140万人)、組み立て製造業(130万人)などを挙げている。また、プライベートクラウドよりもパブリッククラウドへの投資が成長をけん引する。

 さらに企業はITの導入や管理に頭を悩ませずに済むようになって、労働コストが下がり、小規模企業にビジネスチャンスも生まれる。こうして、世界で年間1兆1000億ドルの新規事業が生まれるいう。

 IDCのチーフ・リサーチ・オフィサーで上級副社長のJohn F. Gantz氏は「一般的に、クラウドコンピューティングは雇用を奪うと感覚的に考えられているが、実際には雇用を創出するものであり、しかも創出の主要な要素である」と述べている。

 地域別では新興市場の拡大が圧倒的だ。5年間に生まれる雇用1380万のうち、アジア・太平洋地域が960万を占め、さらにその7割に当たる675万人が中国とインドの2国の分だ。中国は463万人、インドは212万人で、両国で全体の半分を占める。

 3位以下は、米国の110万人、インドネシアの92万人、ブラジルの41万人と続き、日本は5番目で26万人とされている。


Appleに対抗した発表?

 この発表のタイミングがおもしろい。実はAppleも、これに先立つ3月2日に雇用についての調査結果を発表している。自社が米国内で生み出している雇用が51万4000人分以上になるというもので、内訳は、Apple製品関連(自社従業員4万7000人、関連サービス25万7000人などを含む)が30万4000、iOSアプリ開発関連が21万などとなっている。

 iPhoneやiPadを製造している中国のFoxconn(富士康)の工場の状況がメディアで取り上げられて問題になっているが、同時にほぼ全Apple製品が米国外で生産されていることが、高失業率下の米国で非難を浴びている。発表は、こうした批判をかわすことを狙ったものだとメディアはみている。このデータは、Appleが米国人の仕事を奪っているのではなく、雇用創出に貢献していることを強調するものだ。

 その3日後に発表されたIDCとMicrosoftのレポートは、Appleの主張にぶつけたものだ。Microsoftは、Windows Azureをはじめとするクラウド製品を通して世界の雇用を生み、莫大な経済効果をもたらす。そして米国にも、はるかに大きなメリットがある――と言いたいわけだ。

 雇用は、今の米国で最大の関心事であり、大統領選の争点にもなっている。IT業界も含め、国中が雇用拡大に期待するなかで、両社がそれぞれ調査を駆使して、自社がいかに米国や世界に貢献しているかをアピールしているのだ。


調査レポートのワナ

 しかし、いくつかのメディアは、IDCとMicrosoftのレポートにもおかしいところがある、と指摘している。

 「そもそもクラウドは社内のIT担当者の労働コストを減らし、外部のサービスに移すものではなかったか」とITworldは疑問を投げかけ、クラウド移行によって社内IT関連雇用が減少することをレポートが無視していると指摘する。

 また、雇用増はIT業界ではなく他の業種に起こるのだと説明する。「実際、新しい調査は、ITでの雇用が増えるとは一言も言っていない」(ITworld)のだ。そして、恩恵を受けるのは主に、コミュニケーション・通信や金融業会にサービスを提供する小規模企業だとしている。

 英国のテクノロジーニュースサイトTechEyeも、このレポートにはミスリーディングな部分があると指摘し、匿名のアナリストの次のようなコメントを紹介している。

 「途上国で大きなITの雇用が生まれることは、インドのクラウドの活気をみてもわかる。だが、米国のような先進国では、肉体労働者の仕事が機械で置き換えられていったように、ITの雇用は減少してゆく。これは既知のことであり、まさに進行中の事実なのだ」

 そして、このアナリストは、こうも述べている。「クラウドコンピューティングを“奇跡の”ソリューションとして勧めるのは無責任なことだ。それはトンネルの先に、偽りの光明を見せることにもなる」。調査の数字はさまざまな角度から検討すべきなのである。


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(行宮翔太=Infostand)
2012/3/12 10:24