OpenSolarisプロジェクトが終了? Oracleのオープンソース戦略への危機感


 OracleのSun Microsystems買収から約7カ月。Sunから引き継がれたオープンソース関連のプロジェクトで波乱が起きている。Javaの利用を巡る対Googleの特許訴訟、そしてOpenSolarisの方針転換が相次ぎ、オープンソースコミュニティの中では、くすぶっていた不安が現実のものになったと受け止められている。とくにOpenSolarisの件は、Oracleの今後の姿勢がうかがわれる例とみられているようだ。

新方針では、OpenSolarisディストリビューション配布が打ち切りに

 OpenSolarisは、「Solaris」をベースとしたオープンソースプロジェクトで、2005年1月にSunの手で開始された。その中からは、モニタリングの「DTrace」やファイルシステムの「ZFS」などの技術が生まれ、2008年5月以降は、オープンソース版Solarisのディストリビューション公開も継続的に行われている。

 その方針転換が明らかになったのは、Oracleからリークした8月13日付の社内メールからだ。Oracle社内のSolaris開発者3人の連名で送られたメールは、OpenSolaris開発者の個人ブログで公開された後、OpenSolarisのフォーラムに転載されて、あっという間に広まった。

 内容は、(1)Solarisは有償のエンタープライズエディションを先にリリースし、その後オープンソースライセンス(CDDL)の下でコードを公開する(2)他のオープンソース版のバイナリ配布やビルド提供は中止する(3)2011年の「Solaris 11」リリース公開前に、開発者向けに「Solaris 11 Express」(プレビュー版)を公開する――などである。なお、Oracleはこのメールの真偽についてコメントしていない。

 新方針では、OpenSolarisディストリビューションの配布が打ち切りになるが、オープンソースプロジェクトがなくなるわけではなく、コードの公開は続く。しかし、Solaris 11以降は「有償のエンタープライズエディションの後」となるため、コミュニティは最初に新機能を利用することができなくなる。開発者たちはコミュニティ主導での開発は難しくなると感じた。

OracleのSun買収以後、コミュニティでつのる不満や懐疑論

 OracleのSun買収で、コミュニティの中には、Sunがサポートしてきたオープンソースプロジェクトの将来への不安も広がっていた。今回の方針転換も、これまでのOracleの態度から、ある程度予想されていたようだ。買収完了から、これまでに、OpenSolaris関連では次のような動きがあった。

 2月中旬、OpenSolarisの組織運営を監督するGoverning BoardのPeter Tribble氏が、Oracle側と連絡が取れない、とブログ上で不満を漏らした。Oracleの窓口が不在のままで、コミュニケーションがとれていないことにいらだちを感じていたのだ。このときは、OracleのDan Roberts氏がコミュニティのオンライン年次ミーティングで「今後もOpenSolarisをオープンソースとして提供し、コミュニティに参加する」と確認することでいったん収まった。

 しかし、4月中旬にOracleがOpenSolarisの無償CD配布を停止したことで、再びコミュニティから、不満や懐疑論がわき上がった。Governing Boardは7月、Oracleとの連絡がうまくいかないことに業を煮やして、8月16日までに窓口担当を置かなければ、Governing Boardを解散する、と同社に通告した。

コミュニティの最終通告にも回答はないまま、方針転換メールが漏れる

 だが、Oracleからの回答はないままで、Solaris関連の製品ロードマップ発表を迎える。同社は8月10日、次期版「Solaris 11」を2011年後半に提供することを表明した。しかし、その際もOpenSolarisへの言及はほとんどなく、コミュニティの不満は相当に高まっていた。方針転換メールのリークはその3日後というタイミングで起こったものだ。

 これを受けて、オープンソース派のメディアからはOracle非難がわき上がった。ZDNetでオープンソースブログを執筆するDana Blankenhorn氏は「Oracleはオープンソースソフト産業の破壊をもくろむ」というエントリーで、同社を批判した。

 Blankenhorn氏は、OracleはSun買収後初年度にハードウェアだけで25億ドルの売り上げが見込めることから、買収額の74億ドルは3年で元がとれると計算。ソフトウェア資産の方はタダで手に入れたようなものだと指摘した。

 そして、そう考えると、方向転換は、買収額に見合わなかったためではなく、企業顧客をオープンソースから遠ざけることが目的だと推測する。そして今後、「MySQL」や「OpenOffice.org」など他のオープンソースプロジェクトにも同じようなことが起こるのではないかとも危惧している。また同氏は別の記事で、「Bill Gates氏が一線から退いた後、ハイテク業界の悪役は(Oracleの会長兼CEOの)Larry Ellison氏だ」とも記している。

 同じくComputerworldのSteven J Vaughan-Nicholas氏は、2006年のFinancial Times紙のEllison氏へのインタビューから、「予想されたこと」とした。Ellison氏はインタビューで「オープンソース製品が成熟すれば、われわれはそれを利用するだけ」「オープンソースの素晴らしいところは、誰も所有していないこと。Oracleのような企業はタダで利用できる」と述べていた。

コミュニティはOpenSolarisをベースにした開発プロジェクトを立ち上げる

 コミュニティにも、怒りの声はあるが、どちらかというと冷静な受け止め方をしているようだ。OpenSolarisフォーラムでは、Oracleの動きを、開発者やパートナーへの裏切りとする意見もあれば、OracleのLinuxへの貢献を挙げながら、何らかの事情があったのだろう、とする意見もある。

 一方、こうした事態を見込んでいたのか、コミュニティのメンバーの一部が8月3日、OpenSolarisをベースにした開発プロジェクト「Illumos Project」を新たに立ち上げている。元Sun社員のGarette d'amore氏が移籍した米Nexanta(OpenSolarisベースのディストリビューションを開発するベンダー)の支援を受けたプロジェクトで、ZFS開発者のBrian Cantrill氏ら主要な開発者がサポートしている。

 コミュニティの中にはこのIllumosに期待を寄せる声も多い。OracleとOpenSolarisコミュニティとの関係も変わらざるを得ないようだ。

関連情報
(岡田陽子=Infostand)
2010/8/23 09:50