HPのHurd氏がセクハラ疑惑で辞任~HPブランドを守る対応か


 Hewlett-Packard(HP)のCEO、Mark Hurd氏が突然辞任した。元契約社員が持ち出したセクハラ疑惑から始まったものだが、この女性が元女優で、テレビなどに出演していたこともあって、メディアでは、写真を入れるなどして大きく報じている。巨大企業のかじ取りで評価を得ていたHurd氏の辞任に業界は驚いたが、これでHPブランドを守ることができたという見方もある。

セクハラはなかったが、業務基準違反で辞任へ~HPが内部調査公表

 Hurd氏は2005年4月、ハードからソフトまで幅広い製品・技術を抱える巨大企業HPのCEOに就任した。前CEOのCarly Fiorina氏の下で低迷していた業績を成長路線に戻し、組織再編やリストラ、賃金カットなどの大胆な内部改革を実行。また、2008年のEDS買収によるサービス強化など事業戦略でも実行力を発揮した。直近ではPalmの買収を行った。PCでは、Dell、サーバーではIBM、とライバル企業との戦いを優位に進めており、現在株価はHurd氏の就任時の約2倍に上昇している。

 そんなHurd氏辞任のニュースは、業界でも“寝耳に水”だった。

 同氏をセクハラで訴えた女性、Jodie Fisherさんは現在50歳。女優として活動した経歴があり、1990年代にはR指定映画に出演したこともあるという。その後、マーケティングコンサルタントに転身したようだ。Wall Street Journalによると、FisherさんがHPとかかわっていたのは2007年後半から2年程度。主として顧客向けイベントを担当し、Hurd氏とともに出張することもあったという。

 HPは、内部調査で、Hurd氏に自社セクハラ規定に違反するような行為はなかったが、業務基準に違反していたと報告した。Hurd氏が女性との関係を隠すために、不適切な経費請求を行ったことが辞任の直接の原因になったとされる。当のHurd氏は「苦しい決断だが、このままCEOの座にとどまることは難しいと判断した」と辞任の理由を述べている。

 こうしたHurd氏の辞任に、声高に異を唱える人物もいる。HPのパートナー企業であるOracleのCEO、Larry Ellison氏は、この件について、New York Timesに電子メールで自身の見解を伝えた。Ellison氏はプライベートでもHurd氏と親交があるという。

 Ellison氏は、Hurd氏辞任を認めたHPの取締役会の判断について「Appleの愚か者たちがSteve Jobs氏解任を決定して以来の最悪の人事判断」と酷評。内部調査ではセクハラ規定に反していなかったことなどを挙げ、「従業員、株式、顧客、パートナー企業の利益に反する」と批判した。

 一方でHPの取締役会は、株主からも訴えられている。株主たちは、Hurd氏の辞任報告でHPの信頼が失墜し、株価が下落したため損害を被ったと主張。取締役会が忠実義務に違反しているとして、賠償を求めている。

今回の問題はきっかけにすぎないとの見方も

 そんな批判にさらられる社の取締役たちだが、Hurd氏を辞めさせたのは、今回の問題を契機としたにすぎないとの見方もある。Computerweekは、考えられる本当の理由として、(1)取締役会がリーダー変更を望んでいた、(2)強いCEO兼会長モデルがうまくいっていなかった、(3)企業イメージの保護――などを挙げている。中でも、2009年に取締役に就いたMark Andreessen氏が、Hurd氏の退任を強く望んでいたとの見方がある。

 実際、Hurd氏の退任を惜しむ声は内部でも少ないと複数の報道が伝えている。現社員、元社員の声を拾ったThe Mercury Newsの記事からは、従業員解雇やミーティングでの、きつく傲慢な態度などが内部では嫌がられていたことがうかがわれる。

 TheStreetも、従業員には賃金カットを強いる一方で幹部の報酬が増えたことなどを挙げ、Hurd氏は“裸の王様”だったとしている。TechCrunchは、Glassdoor.comによる社内評価で、HP/Hurd氏は大手IT企業8社中、支持率が最下位(支持34%、不支持66%)で、唯一半数にも達しなかったと伝えている。

NY Times「ブランド保護の観点からは最善策」

 また、New York Timesは、HPの取締役会がPR会社のアドバイスを受け、PRとブランド保護の観点から事件を公開してHurd氏が辞任することが最善策と判断したと報じている。

 企業の評判やうわさは、インターネット、なかでもTwitterなどの新しいコミュニケーションの普及で、あっという間に世界に広まる。メキシコ湾での石油流出事故の収集に手間取り、事件発生後3カ月が経過してCEO辞任を発表した石油大手のBP、あるいは女性スキャンダルで評判を落としたゴルフのTiger Woods選手などの例がある。

 New York Timesは、辞任は過剰反応だという意見に対して、HPの取締役会は勇気ある決断を下し、迅速に動いたと評価するマネジメント専門家Jeffrey Sonnenfeld氏の見解を紹介している。

 ともあれ、Hurd氏は辞任した。現在、HPはCFOのCathie Lesjak氏を暫定CEOとして、後任探しに入っている。eWeekはHurd氏が去った後のHPの課題(Palm買収、Acerとの競合、Microsoftとの力関係など)を挙げ、早急に後任を決めねばならないと分析している。

 なお、BloombergはHurd氏が投資会社などに勤務する可能性があると報じており、Wall Street Journalは、Fisherさんが東海岸に拠点を移し、母親の関係の事業で再出発しているらしいと伝えている。

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(岡田陽子=Infostand)
2010/8/17 06:00