“秘密”のIntelデータセンターをレポート、集約でコスト削減やグリーン環境を実現


 多くのサーバーが設置されているデータセンターは、クラウド時代を支えるインフラとして最近注目を集める存在となっている。Appleがオレゴンにデータセンターを建設中とか、Amazonが東京にもデータセンターを開設するとかいったデータセンターがらみのニュースを最近ではよく耳にするようになった。コンシューマ機器でも最近はローカルストレージを小さくして、クラウド側のサービスを利用する例が増えており、データセンターはもはや社会のインフラの1つになりつつあると言っていいだろう。

 世界最大の半導体メーカーであるIntelも、データセンターを強化している企業の1つだ。同社は世界中のコンピュータメーカーや代理店など多数の顧客を抱えているほか、全世界で8万人近い社員を雇用しており、それらの社員に対してITサービスを提供するだけでも大規模なシステムが必要になる。

 同社では数年前に、重要拠点の1つである米国オレゴン州ヒルズボロ市に大型データセンターを建設しており、以前はあちこちに散らばっていたデータセンターを集約して大幅なコスト削減を実現している。今回、特別にそうしたデータセンターを取材する機会を得たので、その模様をお伝えしていきたい。

 

巨大な“ITサービス企業”Intel、8万人の従業員とパートナー企業にITサービスを提供

 Amazon、Google、Apple、Microsoftなど、米国のIT業界では誰がどんなデータセンターを建設したかということが取り上げられることが多い。というのも、時代の動向は、従来のローカルアプリケーションからWebサービスを組み合わせたクラウドへと移行が進んでおり、そうしたサービスをB2CなりB2Bで提供するには、安定したITのインフラが重要になるので、データセンターの重要性は以前に比べて増していると言える。データセンターといっても既存の建物の中にサーバーを設置しているものもあるが、現在話題になっているのは、建物そのものをデータセンター用として建設し、管理運用していくという大規模なデータセンターのことだ。

Intel Industry and Engagement事業部 部長のスティーブ・コリン氏
IntelのITの現状を説明するスライド

 読者にとってIntelと言えば、なんと言ってもサーバーやクライアントPCのマイクロプロセッサを提供するベンダという印象だろう。確かにその通りで、Intelは世界最大の半導体メーカーであり、そのポジションはもはや不動のモノと言っていいほど2位以下を大きく引き離している。

 しかし、実のところIntelはハードウェアだけでなく、多数のWebサービスをその顧客に提供しているのだ。有名なところでは、Intel Business Link(IBL)という仕組みを10年以上前から同社の顧客になるOEMメーカーや流通事業者向けに提供しており、同社の最新のロードマップやデータシートなどをダウンロードして自社製品の開発に役立てることができる仕組みを用意している。

 そのほかにも、Intelにはワールドワイドで実に8万人近い従業員がいる。この従業員は、それぞれPCを与えられており、それぞれにさまざまな社内のサービスを利用している。Intel Industry and Engagement事業部 部長のスティーブ・コリン氏は「このうち80%がノートブックPCで、最近では従業員が自身で所有しているスマートフォンなどのサポートにも対応する必要があるなどITシステムの複雑性は増している」と、年々ITにかかるコストは上昇し、かつそのリソースも増やしていく必要があるという。

 そうしていくと問題になるのは、いかに高度なセキュリティを確保しながら、ITにかかるコストを削減していくか、ということだろう。また、リソースを増やしていくのはいいが、責任ある企業としては環境面への配慮も同時に実現していく必要がある。単にやみくもにサーバーを増やしていって、消費電力が増えて結果的にCO2排出量を増やしてしまうというような対応はもはやできる時代ではないのだ。

 

サーバーの70%は研究開発部門が活用、エンタープライズ部門は仮想化への転換進む

 そうした中でのIntelのIT部門の現状だが、ワールドワイドで約78,900人の従業員に対して1割弱の6,500人がIT担当としての従業員になるという。社内のネットワークに接続できるデバイスは、105,000台を超えており、その中には90,000台を超えるPC(うち80%はノートPC)と14,000台を超えるスマートフォンなどが含まれているという。

Intelのデータセンターは4つの分野に主に利用されている

 Intelのコリン氏によれば、IntelのITシステムでは4つの分野の用途に分類できるという。

(1)製品開発
(2)一般的なオフィス利用
(3)製造拠点のサポート
(4)エンタープライズシステム

このうち利用率が最も高いのが(1)の製品開発であり、IntelのITが管理しているサーバーのうち70%ものサーバーがこの用途に利用されているという。

 具体的にどんなことに利用しているのかと言えば、例えば新しいマイクロアーキテクチャのプロセッサを開発する場合に、シミュレーションを利用して設計した通りに動くかどうかを確認する。これには、プロセッサに対して大きな負荷がかかり、処理を終了するまでにそれこそ数日単位で動かしたりすることになる。コリン氏によれば、処理はバッチで行っているとのことだが、現代のプロセッサが非常に複雑になっていることを考えれば、こうしたシミュレーションがITシステム全体の大きな負担になっているのは容易に想像できるだろう。なお、プロセッサへの負荷という意味では80-90%を占めているのだという。

 (2)マーケティング部門のオフィスアプリケーション利用と(4)業務系などのエンタープライズのシステム全体への負荷はあまり大きくないが、それでも止まらないということは重要であり、システムの設計としてはそちらに重点が置かれているという。この分野に関しては仮想化への移行がすでに始まっており、多くの部分が仮想化されてハードウェアに何かあればすぐにサーバーが移動して別の場所で動かすといった環境が可能になっている。

 そして、半導体メーカーにとっては、製造施設で問題を起こすことなく製造を続けることは、ほかのどんなことよりも重要なミッションだが、(3)の製造施設におけるITシステムも非常に重要な要素になっている。Intelでは世界中に複数の製造施設を所有しているが、すべての製造施設に専用のデータセンターが用意されているという。これは仮に外部とネットワークが遮断されても動作するようにと考えられての措置である。

 余談になるがIntelは製造施設を造る際には、まずテストヘッドとなる米国の工場で完全に動作することを確認してから、建物の構造も含めてそのまま別の工場にコピーするというコピーイグザクトリー(完全コピー)という戦略をとっており、新しい工場を建てる際のリスクをできるだけ低くする取り組みが行われている。このため、データセンターに関しても各工場で同じものが利用されているのだ。

 

最新のプロセッサを積極的に採用していくことで効率を改善する

 そうした状況に置かれているIntelのITだが、どのような戦略でデータセンターを構築しているのだろうか?

 コリン氏によれば複数の方針があるが、大きく言えばコスト削減、環境への配慮、効率改善などをターゲットにして戦略を組んでいるのだという。

 効率の改善という意味では、積極的に最新のプロセッサを採用することで、電力あたりの性能を改善していっているという。コリン氏によれば、IntelのITではサーバーは4年ごとにリフレッシュしており、そのたびに最新のプロセッサを採用していくことで効率を改善しているそうだ。例えば今年の例でいえば2006年に導入したシングルコアのXeonのラックサーバーを6コアのXeon 5600ベースのラックサーバーに置き換えると、従来は16ラックが必要だったのが1ラックで同じだけの処理能力を実現できるようになっているという。それにより、スペースだけでなく消費電力も削減できるので、ランニングコスト削減にもつながるし、何よりも設置スペースを有効に利用することができるようになるので、大きな効果があるのだ。

4年に一度行われるサーバーの更新では最新のプロセッサに更新することで電力あたりの性能を更新することで、データセンターのサイズを小さくすることに貢献しているデータセンター自体の最適化や環境技術の導入により、電力効率を改善してコスト削減を実現している
データセンター自体を効率化することにより、CO2排出量の削減にもつながっている

 2つめは環境への配慮の実現だ。例えばデータセンターを最初から環境に配慮した設計にすることで、結果的に電気代の削減につながりより効率性をあげることが可能になる。「Intelがイスラエルのハイファに今年開設したデータセンターは、最初から環境に配慮した設計がされている。例えば、データセンターのサーバーからの熱は水をお湯にするのに利用したりとリサイクルを意識して設計されている」(コリン氏)と、効率性と環境への配慮を両立する設計が意識づけられているのだ。

 コリン氏によれば、以前Intelのデータセンターはワールドワイドで150カ所近くあったそうだが、現在では全体の処理能力は向上したのに95カ所に削減され、CO2の排出量は2008年に比べて9%も削減されるなどの効果があったということだ。

 

Intelのデータセンターの中で最大となるヒルズボロのデータセンター

 そうした設計思想で作られているIntelのデータセンターだが、オレゴン州ヒルズボロに設置されているデータセンターは、95あるIntelのデータセンターの中でも最大級のものになるという。なお、オレゴン州ヒルズボロは、第2のIntelの本社(Intelの本社はカリフォルニア州サンタクララ)とも言ってよい場所で、サーバーやクライアント向けマイクロプロセッサの設計を行う部隊、マーケティング、セールスなどの多くの関係者が集まっている、Intelの最大の拠点と言ってもよい。

 ただし、データセンターがヒルズボロのどこにあるのかは、非公開になっている(外観の写真がないのはそのためだ)。これはもちろんセキュリティのためで、何らかの攻撃対象になることを防ぐための措置だ。今回取材したわれわれも場所に到着するまでは目隠しをさせられて車に乗せられた…というのはもちろん冗談だが、実のところ多くのIntelの社員もそこがデータセンターであることすら知らないのだという。データセンターが企業にとって非常に重要な情報やミッションクリティカルな業務システムが動いていることをなどを考えれば当然の措置だろう。

 余談になるが、Intelも米国の会社の例に漏れず、RFIDのようなチップが内蔵された社員証を配布しており、その社員証で入れるエリアをコントロールしているのだが、データセンターの入り口でその社員証をリーダーにかざしても、ゲートは開かないのだという。つまり、一般の社員の権限では、入ることができないのだ。

 今回のガイドをしてくれたデータセンターを管理する関係者によれば、完成したのは4年ほど前で、現在は全体の40%程度しか使われていないのだという。では残りの60%はどうしているのかと言えば、現在は空いており、将来よりキャパシティが必要になり拡張する必要がでてきた時に利用するのだという。後述する冷却システムなどには、将来拡張できるように拡張用のパイプなども用意されており、当初から拡張する可能性があることを前提の設計が施されている。

 

リサイクル可能な水冷による冷風を利用した環境にも配慮したデータセンター

 今回取材したデータセンターは複数のフロアが用意されており、それぞれ目的別に利用されている。下層のフロアには、UPSや変電施設が用意されている。

 その1つの上のフロアには、サーバーが実際に置かれるサーバー室が用意されている。Intelのデータセンターがユニークなのは、床が格子状になっており、下層のフロアから風が吹き抜けるようになっていることだ。さらにサーバーの背面と前面はパーティションに区切られており風がサーバーの前面から背面へとながれるように工夫されている。つまり、サーバーの前面は冷たい空気の部屋に、背面は排出された空気の部屋にとつながっており、ちょうどサーバーの内部が空気の通り道になっているのだ。サーバーの背面から排出された空気は下層フロアに再度送られ、データセンター内を循環している水により冷却され再びサーバールームへと送られるという仕組みになっている(図参照)。


データセンターの下層フロアに設置されているUPS。同時に電力供給の仕組みも用意されている。なお、UPSは最低5分は持つように設計されているという。発電機は現時点では備えていないが、必要になれば備えられるような設計が行われている(提供:Intel)サーバールームの様子。手前はサーバーの手前側で、パーティションで仕切られた部屋の中にサーバーの背面があり、部屋の中はやや高温になっている(提供:Intel)
サーバールームの床はこのように格子状になっており、下層のフロアから涼風が送られてくる(提供:Intel)サーバールームのパーティションで仕切られた部屋。サーバーの背面部から熱風がでてきている。こちらの空気は別のパイプを通じて階下の部屋に送られる(提供:Intel)
ヒルズボロのデータセンターの仕組み。循環水を利用した冷却システムを採用している(筆者作成)

 なお冷却に利用する水は、データセンター外に送られ外気などを利用して冷却され再利用される。基本的に水は循環しており、循環しているうちにロスする分を若干外部から給水する以外は再利用される仕組みになっている。要するに、たとえは悪いが、建物全体が水冷装置のようなものだと考えればわかりやすいだろう。基本的には、自然の力を利用して冷却しているので、単にファンを回したり、エアコンを利用したりするだけのシステムに比べると電力消費量は大幅に削減することができているという。

 また、コリン氏によれば、設置されているサーバーの多くは2PのXeonが採用されているという。これはデータセンターを設計する時に、2Pサーバーを前提にラックを設置しているためで、一部に4Pも存在しているそうだが、多くは2Pだという。OSは多くがLinuxベースだという。特にシミュレーションなどに利用される用途では性能が優先になるため、仮想化ではなくネイティブのLinuxを利用しているとのことだ。なお、エンタープライズやオフィス向けのサーバーでは仮想化への移行を進めているとのことだった。

部屋を冷やすためのヒートシンク(提供:Intel)冷却水を循環するためのパイプ(提供:Intel)

 

Intelの顧客にとって参考になるようなデータセンターを目指す

 なお、このIntelのデータセンターは、Intelの顧客やパートナー企業であれば、NDA(秘密保持契約)ベースで見学が可能だという。つまり、Intelの顧客がデータセンターを構築しようとする時に、お手本となるようにという存在でもある訳だ。

 今後、B2Cでも、B2BでもクラウドによるWebサービスの提供はより増えていくだろうし、今後はクライアントではできないような重たい処理をクラウド側で行うことは増えていくだろう。そうなると、データセンターを強化することは、企業にとって戦略の正否を左右することになるのではないだろうか。そうした企業にとって、Intelのデータセンターのように、環境にも配慮しつつ、かつコストダウンという実利も目指している施設は非常に参考になる例の1つだと言っていいのではないだろうか。

関連情報
(笠原 一輝)
2010/10/15 00:00