企業向けのオンラインストレージ、Citrixが提供するShareFile


 前回は、サーバー向けのクラウドストレージサービスを紹介した。今回は、さまざまな端末からアクセスできるオンラインストレージを紹介していく。

 

身近になったオンラインストレージ

 現在、オンラインストレージは、有償/無償を問わずさまざまな企業がサービスを提供している。例えば、アップルのiCloud、マイクロソフトのSkyDrive、Sugarsync、Dropboxなどがある。また、単純なオンラインストレージとは異なるが、Evernoteもこの仲間に含まれるだろう。

 これだけいろいろなオンラインストレージサービスが提供されているため、読者の中でも一度はサービスを使ったことがあるのではないか。

 実際に使ってみると、クラウドにドキュメントやデータを保存するために、PCからだけでなく、スマートフォン、タブレットなどからもドキュメントにアクセスができ、非常に便利なサービスだ。

 ただしその問題点としては、多くのオンラインストレージサービスのほとんどが、個人を対象としたサービスということが挙げられる。

 個人が勝手にさまざまなオンラインストレージサービスを利用している場合、重要なデータが個人裁量のオンラインストレージに分散して保存されることになるため、企業にとっては大きな問題点をはらんでいる。もし、個人裁量のオンラインストレージで、個人のIDやパスワードが盗まれた場合、そこに保存されていた企業のドキュメントやデータはどうなるのだろうか?

 このようなことを考えると、アカウント管理やユーザーのストレージエリアの管理などを一括して行える、企業向けのオンラインストレージサービスが求められてくる。

 そうしたサービスを提供している例が、米Citrix Systems(以下、Citrix)のShareFileというサービスだ。

 

企業での利用に特化し、高いセキュリティを確保

ShareFileは、4つの料金プランを用意している。ただし、それぞれのプランで、ユーザー(Employee)の追加、ストレージの追加などがオプションで行える

 ShareFileはもともと、昨年にCitrixが買収した米ShareFileが提供していたオンラインストレージサービスだ。現在、日本法人からはサービス提供されていないが、クレジットカードなどがあれば、国内のユーザーもサービスを利用できる。

 ShareFileでは、ネットワーク接続はSSLの通信が標準となっているし、ShareFileにアップロードされたデータは、自動的に暗号化されて保存される(一部プランを除く)。こうしたことから、オンラインストレージサービスであっても高いセキュリティ性が保たれているという。

 また、個人が作成するフォルダごとに、アクセスできるユーザーを設定できるため、個人レベルでも高いセキュリティが保てる。もちろん、すべてのアカウントは管理者が一括管理でき、作成したユーザーがどのフォルダにアクセスできるか、どのユーザーのアカウントをオフにするか、などは簡単に行える。

 最上位プランのEnterprise Goldでは、企業内にあるID管理のActive Directoryと連携する機能も用意されている。

 加えて、自社のユーザーだけでなく、外部の顧客や取引先のユーザーともデータ共有が可能だ。ShareFileにデータがアップロードされると、メールでダウンロード先などの情報が送信される仕組みで、ダウンロード期限、回数などの制限も行える。これにより、ずっとファイルにアクセスできるという状況にはならない。

 さらにデータセンターについても、米国公認会計士協会が定めた内部統制基準のSAS70をクリアした施設を使用している。もちろん、個人ユーザーを対象とした無償のオンラインストレージサービスよりも高い稼働率を実現し、24時間365日の稼働を保証している。

 こういったセキュリティ性や可用性の高さからか、米国ではPepsi、NIKE、MetLife、携帯電話メーカーのHTC、通信キャリアのT-Mobileなどの大企業でもShareFileが採用されている。

 

多様な利用手段に対応

 ShareFileの特徴としては、多くの端末や環境に対応した利用手段が提供されている、高い利便性が挙げられるだろう。

 基本として、Webブラウザでのアクセスが用意されており、Webブラウザを経由してファイルをアップロードできる。

 また、PCに追加ソフトを導入すれば、デスクトップ上にShareFileに共有フォルダを作成することも可能。この共有フォルダにファイルをドラッグ&ドロップすれば、自動的にShareFileにアップロードされる。さらに、同じオンラインフォルダを共有しているユーザーのデスクトップにも、新しいファイルが追加される。現在、WindowsとMac用のソフトが提供されている。

 さらに、Microsoft Outlook用のプラグインが提供されている。容量の大きな添付ファイルを自動的にShareFileにアップロードし、メールの受信者にはダウンロード用のURLをメールに挿入することで、簡便な受け渡しを実現する。

 プロバイダーや企業によっては、メールサーバーで扱える添付ファイルのサイズを決めているため、大容量の添付ファイルを送信すると、送信不可で戻ってくることがある。このプラグインを利用すれば、サイズの大きな添付ファイルもネットワークを圧迫せずに届けることができる。

 このほか、ShareFileのオンラインストレージをPCのストレージとして利用できるようにするDrive Mappingソフトも用意されている。

 ただし、これらのツールは、料金プラン別に利用できるかどうか決まっているので注意が必要だ。

 PC用以外では、iOS(iPhone/iPad)、Android、BlackBerry、Windows Phone向けのアプリが提供され、スマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスからのアクセスを可能にしている。

 今後は、Citrixのクライアント向けのアプリであるCitrix Receiverに、ShareFileへのアクセス機能が統合される予定で、これが実現すると、スマートデバイスのユーザーは、Citrix Receiverを利用する中でShareFileへのアクセス機能も利用できるようになる。

 現在、ShareFile対応のCitrix Receiverとしては、Windows、Mac、iOS(iPhone/iPad)、Android用のテクニカルプレビューが行われている。

 

アカウントを作成する

 では、実際にShareFileを試してみよう。

 ShareFileは30日間の試用アカウントが用意されており、ShareFileが用意しているBasic、Professional、Enterprise、Enterprise Goldの4つのプランから選択できる。

 各プランは、ユーザー数やストレージ容量などが異なるほか、付加機能が異なる。ShareFileが薦めているのはProfessionalプランで、10ユーザー、10GBストレージで月額59.95ドルとなっている。

 ただし、オンラインストレージをPCのドライブとして使用するDrive Mapping機能は利用できない。もし、この機能が利用したい場合は、1つ上のEnterpriseプランを使用する必要がある。また、社内のActive Directoryとの連携機能は、最上位のEnterprise Goldしか利用できない。

 なお現在、ShareFileは米国のCitrixから提供されているため、Web UIの日本語化などは行われていない。また、サポートもCitrixからとなる。


Trialの登録は、ユーザー名とメールアドレスなどを入力するだけでOKShareFileのWebサイト。Trialで30日間、無料で利用できるTrailでは、4つの料金プランから選択できる。作成したTrailアカウントは、無料期間(30日間)後、有償アカウントに移行できる。このため、ユーザーの環境にぴったりなプランを選択する必要がある
ShareFileにアクセスするためのサブドメイン名を指定する管理ユーザーの名前、パスワードを入力。タイムゾーン、ファイルの日時表示のフォーマットをしている項目もあるこれで、Trailアカウントが作成された

 

利用ユーザーとフォルダを設定する


管理ユーザーのIDとパスワードでアクセスすると、管理画面が表示されるManage Usersで、ユーザーを作成する。Employeeは、ユーザーとしてShareFileにアカウントが作成される。Employeeは、フォルダを作成したり、ファイルをアップロードできる。Clientは、ファイルをダウンロードするのみのアカウントEmployeeの作成では、単にユーザーアカウントを作成するだけでなく、管理権限を持つ設定も可能
作成したEmployeeが使用できるフォルダの作成作成したEmployeeには、メールでログインURLやパスワードが送信される作成したEmployeeでログインすると、管理ユーザーが作成したフォルダが表示されている

 

ファイルをアップロードしよう!


作成されているフォルダにファイルをアップロードする。Web UIからアップロードできるWeb UIよりも便利なのは、Javaアプレットのアップロードツールだ。エクスプローラからドラッグ&ドロップでファイルのアップロードが行えるアップロードしたファイルのURLなどをメールで知らせる。Web UIは英語だが、メッセージやサブジェクトには日本語が利用できる
メールでファイルのダウンロードURLを送る場合、ファイルを削除する期間が指定できるさらに、何度ファイルをダウンロードできるかという回数も指定可能。今回は1回を設定メールで送信されたダウンロードURL。このURLをクリックするだけで、ShareFileにアクセスできる
ShareFileにアクセスすると、ダウンロードするファイルが表示されている。今回は、JPGファイルのため、サムネイルが表示されているダウンロードできる回数が1回に設定されていたため、ダウンロード後に、再度アクセスすると、エラーになるファイルがダウンロードされると、ファイルを送信したユーザーに、ダウンロード確認のメールが送信される

 

AndroidタブレットからShareFileを試す

 今回は、レノボのThinkPad Tabletをお借りしたので、このタブレットにShareFileのアプリとCitrix Receiverのテクニカルプレビューをインストールし、試してみた。

 実際にThinkPad Tabletで試してみると、ShareFileは非常に使い勝手がいい。オンラインストレージにアップしたファイルをネット経由で簡単にダウンロードすることができる。ただ、Excel、Word、PDFなどのファイルは、ビューアとなるソフトが端末側にインストールされている必要がある。ちなみに、ThinkPad Tabletには、Docs To Goというアプリがプリインストールされている。

 このアプリを利用すれば、Excel、Word、PDFなどのファイルをThinkPad Tabletで見ることができる。JPGファイルなどは、ダウンロードする前にサムネイル表示も行える。


多くのタブレットとは異なり、企業での利用を前提にして設計されている。このため、Thinkpadの名称が採用されている。Androidは3.1を搭載ThinkPad Tabletのホーム画面

Androidマーケットから、ShareFileのアプリをインストールするThinkPad TabletにShareFileとCitrix ReceiverのアプリがインストールされたShareFileアプリでオンラインストレージにアクセスすれば、アップロードしたファイルが表示される
PCでのアクセスと同じように、JPGファイルはサムネイルが表示されているSheet To Goを使えば、ExcelファイルやWord、PDFなども開くことができるExcelファイルは、アイコンが表示されている
Excelファイルをダウンロード後、Openすると、ThinkPad TabletにインストールされているSheet To Goでオープンするかどうか確認してくるPDFファイルもサムネイルが表示されるので、中身が簡単に確認できる

 

Citrix Receiverからアクセスする

 テクニカルプレビューのCitrix Receiverを利用すれば、Citrix Receiverの中からShareFileにアクセスしてファイルのダウンロードや閲覧も可能だ。さらに、Citrix Receiverからクラウドの仮想デスクトップ環境にアクセスして、ThinkPad Tablet上でWindowsデスクトップを操作することが可能になる。ここまでくれば、Mac、iOS、Androidなど、どんなモバイル環境からもクラウド上の仮想デスクトップ環境が利用できるようになる。

 少し残念だったのは、ShareFileからダウンロードしたExcelやWord、PowerPointなどのファイルを仮想デスクトップ環境のMicrosoft Officeで編集したり、閲覧したりできなかったことだ。できれば、このあたりがシームレスに利用できるようになると、非常に便利になるだろう。

 Citrix Receiverに関しては、テクニカルプレビューのため、インプリメントされていない機能もあるため、正式版で多くの機能がサポートされることを期待したい。


AndroidマーケットからCitrix ReceiverのBeta版をインストールするCitrix Receiverを使ってアクセスする。Citrix Receiverでは、仮想デスクトップ環境へのアクセス機能が用意されているため、今回はデモ環境を使用した左側のタブにDocsという項目がある。Docsにアクセスすると、ShareFileにログオン画面が表示される
まだ、既存のShareFile環境と連携していないため、デモ環境にあらかじめ用意されたPDFファイルを表示するPDFファイルの中身をサムネイル画面で表示されている実際にPDFファイルにアクセスするには、ThinkPad TabletのPDF To Goを利用する
PDF To Goで表示したPDFファイルCitrix Receiverを使えば仮想デスクトップ環境のデスクトップ画面をThinkPad Tabletに表示できるデモ環境のデスクトップ画面を表示してみた。デモ環境のOSは、Windows Server 2008 R2だ
リモートデスクトップでも、ThinkPad Tabletのジェスチャが利用できる画面だけを見ていると、ThinkPad Tabletとは思えない。Windowsデスクトップそのままだデモ環境にインストールされていたPowerPointを起動。今回はWiFi環境でアクセスしたが、3G環境でもある程度のレスポンスで利用できる。できれば、LTEやWiMAXなどの高速回線で利用できれば、外出先でも自分のデスクトップ環境が常に利用可能になる

 

多様化する個人のIT環境をクラウドが支える

 ShareFileなどのオンラインストレージを使ってみて分かったのは、多様化する個人のIT環境に、サービスが追いついてきていることだ。

 筆者自身は、事務所ではWindowsデスクトップを使用しているが、モバイル環境としてはiPad2を利用している。外出先は、発表会や打ち合わせがほとんどのため、iPad2では資料を見たり、Webサイトを見たり、メールをチェックすることがほとんどだ。また携帯電話には、Windows Phone 7を利用している。

 こういったマルチデバイス環境を考えれば、データがクラウドに一元化されているというのは、大きなメリットだ。最新のデータが、さまざまなデバイスに分散してしまうこともないし、持ち帰ったデバイスをいちいち事務所で同期することもない。

 そして現実的に、ShareFileではこうした環境に対応できる。

 今後、このようなクラウドサービスの重要性が増していくことになるだろう。

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