Windows Server 2012研究所

Windows Storage Server 2012搭載NASとSMB 3.0を試す

 昨年末にアイ・オー・データ機器(以下、IODATA)が発売したHDL-Z2WMシリーズは、Windows Storage Server 2012を搭載するNASだ。今回は、IODATAよりHDL-Z2WMをお借りしたので、使い勝手や性能を紹介していく。

Atomプロセッサを搭載した小型NAS

 HDL-Z2WMは、IntelのAtomプロセッサ D510(1.66GHz)、2GBメモリ搭載するほか、フロントに2台のHDDが搭載できるようになっている。HDDはカートリッジ式で抜き差しが簡単にできるため、トラブルが起こっても簡単に交換できる(HDDは2TBと4TBのモデルが用意されている)。

 周辺インターフェイスは、Gigabit Ethernet(GbE)×2、USB 2.0ポート×5、eSATAポート×2、VGAコネクタ(画面表示用)などが用意されており、低価格のNASとしては多彩な種類を持つ。USB対応のプリンタを接続すれば、プリンタサーバーとしても利用できる(推奨5台まで)。

HDL-Z2WMのフロント。2台のHDDはカートリッジ式になっているが、専用の鍵が付いているため、勝手にHDDが取り外されることない。フロントには電源ボタン、ソフトウェアで設定できるファンクションボタン、USB 2.0ポートがある
背面には、VGA、Ethernetポート×2、USB 2.0ポート×4、eSATAポート×2がある。VGAとEthernetポートの間にはリセット用の穴がある

 サポートしているRAIDレベルは、HDDが2台しか搭載できないため、RAID 0/1/マルチディスクモードだけ(出荷時はRAID 1)。ただ、USBポートやeSATAポートに外付けのHDDを接続すれば、Windows Storage Server 2012が搭載している記憶域プール(ストレージプール)機能を使って、ディスク容量を拡張することができる。

 専用のRAIDカードは搭載されておらず、Windows Storage Server 2012のソフトウェアRAID機能を利用しているため、ハードウェアでRAID機能を実現している製品と比べると制限がある。もし追加でHDDを複数台接続できるなら、Windows Storage Server 2012の記憶域プールを使って可用性を高めた方が、機能的にも性能的にメリットがあると思う(ただ、USB 2.0接続では性能的にボトルネックになるだろうから、eSATAが望ましい)。

 ちなみに、HDDには、Western DigitalのNAS向けHDD「WD Red」を採用している。WD Redは、独自のNASwareテクノロジー(NAS用にチューニングされたファームウェア)を採用することで、長時間の動作でも高い信頼性を保つように作られている。さらに、消費電力面でも低消費電力化されているので、まさにNASに適しているといえよう。

 消費電力については、Atomを利用することで低消費電力化されている。電源に関してはDC12V 5AのACアダプタで供給され、消費電力は最大45Wと低い。実際にテストしたところ、アベレージでは30Wほどだった。これなら電源を入れっぱなしにしておいても、オフィスの邪魔にはならないだろう。プリンタサーバー機能を利用して、プリンタや複合機のサーバーとして利用してもいい。

電源にはACアダプタが利用されている。使用電力は最大45W、アベレージは30Wほどだった
HDDにはWD Redが使用されている。NAS用途にチューニングされているHDDドライブのため、NASのドライブとしては最適だ

 なおHDL-Z2WMを含むHDL-Z2WMシリーズの管理ソフトとしては、ZWS Managerがインストールされている。ZWS Managerでは、RAIDステータス、HDDアンプラグの状態、本体FANの回転数や内部温度、アラートを送信するメールの設定、本体前面に付いているファンクションボタンの機能設定などを行える。

IODATAのZWS Manager。RAIDステータスを表示してみた。RAIDモードや正常性などの状況が表示されている
ファン回転数、本体温度などもチェックできる
ファンクションボタンの設定では、ファンクションボタンを押したときに、どのアプリケーションを起動するかを指定できる

最新のWindows Storage Server 2012のメリット

 ソフトウェア面では、Windows Storage Server 2012を採用していることが最も大きなメリットになる。Windows 8のクライアントPCと組み合わせれば、ファイル転送の性能が以前のSMB 2.0よりも高いSMB 3.0が使用できるためだ。

 またHDL-Z2WMが採用しているWindows Storage Server 2012 Workgroup Edition(以下、Workgroup Edition)は、最大50台のPCが接続できるライセンスを持っており、クライアントPC側でCAL(クライアント・アクセス・ライセンス)が必要ないため、ローコストでファイルサーバー環境が構築できる。

 Workgroup Editionは、OS環境としてはWindows Server 2012とほとんど変わらず、インストールできる役割が制限されているだけだ。利用できる役割としては、ファイルサービスと記憶域サービス、印刷とドキュメントサービス、Active Directory(AD)ライトウェイトディレクトリサービス、Webサーバー(IIS)などに限られ、ADドメインサービス、仮想化のHyper-Vなどの役割はインストールできないようになっている。

 このように役割での制限はあっても、NFSプロトコルのサポート、iSCSI Software Target、ユーザーごとの共有ファイル容量の制限、NICのチーミング機能など、Windows Server 2012が持つ主要な機能は提供されている。

 AD環境もサポートしているため、ADが動作しているネットワーク環境なら、非常に簡単に管理可能だ。ADベースでユーザーの共有ディスクを管理したり、共有ディスクの容量管理をしたりできるため、LinuxベースのNASに比べると管理しやすいだろう。

サーバーマネージャーのローカルサーバーを表示。CPUやメモリ容量などが表示されている。
Windows Storage Server 2012は、役割が制限されている。デフォルトでは、ファイルサービスと印刷サービスがインストールされている。後は、ADライトウェイトとWebサーバーしかインストールできない。
デバイスマネージャーを見れば、プロセッサにAtom D510が使われていることが分かる。Atom D510はデュアルコアでハイパースレッディング(HT)もサポートしているため、デバイスマネージャーからはプロセッサが4つあるように見える
システムの情報を見れば、IODATAのサポート電話番号などが一目で分かる
Windows 8世代のWindows Storage Server 2012のため、Modernアプリも用意されている

VVault Professional版を標準搭載

 またHDL-Z2WMを含むHDL-Z2WMシリーズには、オレガが提供しているストレージ仮想化ソフト「VVault」のProfessional版がプリインストールされている。

 Windows Server 2012には、前で少し触れたように、ストレージを仮想化して利用できる記憶域プール機能が用意されているが、VVaultではネットワーク上にあるNASのストレージを、仮想的に1つのストレージとして統合する機能を提供している。これをうまく使えば、複数のNASやストレージを巨大な単一ストレージとしてユーザーに提供できるわけだ。

 また、データ移行をノンストップで提供するライブマイグレーション機能やクイックマイグレーション機能、遠隔地のストレージにインターネット経由でデータバックアップするライブバックアップ機能、バックアップ先にパブリッククラウドを利用するクラウドバックアップ機能などが用意されている。今回、詳細は説明しないが、こうした機能もうまく活用すると便利だろう。

VVaultの設定画面。貸出機のためVVault Basicが利用できた。ストレージの性能によって分類されているのは、管理面では便利だ

HDL-Z2WMを使ってみる

 では実際にHDL-Z2WMを使ってみよう。

 NASといえば、ディスプレイ、キーボード、マウスなしで動作する製品がほとんどだが、HDL-Z2WMシリーズにはWindows Storage Server 2012がインストールされているため、本体にこれらを接続して、スタンドアロンで動かすこともできる。

 もちろん、クライアントPCからリモートデスクトップで接続して管理することも可能なため、好きな方を選べばいいだろう。ネットワーク上にDHCPサーバーがあれば、自動的にIPアドレスをDHCPサーバーから取得してくる。リモートデスクトップで接続する場合は、サーバー名かIPアドレスを入力することでアクセスできる。

DHCPサーバーとDNSサーバーがあれば、HDL-Z2WMの電源を入れ、リモートからコンピュータ名を入れて、リモートデスクトップで接続できる
リモートデスクトップでも、起動後サーバーマネージャーが表示されている。Windows Storage Server 2012でも、Windows Server 2012とまったく変わらない
Windows Storage Server 2012を使用しているため、最初にWindows Updateを実行。多数の更新プログラムがあるため、アップデートに時間がかかる。最初に電源をオンにしたときに行っておくべきだ
デフォルトでは、OS領域とデータ領域の2つのボリュームがサーバーマネージャーから見える
OS領域・データ領域ともに、RAID 1で2重化(ミラーリング)されている
サーバーマネージャーの共有から、共有フォルダーの設定を行う
共有フォルダーのプロファイルを選択すれば、簡単にファイル共有が行える。SMB以外にNFSも設定できる。ここでは、SMBを指定
共有するドライブやフォルダーを指定して、共有名を設定
データアクセスの暗号化や共有のキャッシュ設定などを指定する
アクセスできるユーザーを設定。ウィザードを使えば、ステップ・バイ・ステップで設定できる
ディスクのクォータ(容量制限)を使うために、ファイルサーバー リソース マネージャーを役割と機能の追加から行う
ファイルサーバー リソース マネージャーを追加。
サーバーマネージャーのダッシュボードのツールにファイルサーバー リソース マネージャーが起動する。
クォータの管理から、テンプレートを使って容量制限を設定する。

NICチーミングとiSCSIを設定

NICチーミングにより、2本のNICを仮想的な1本のNICとして統合してみる
新しいチームを作るだけでチーミングが行える
HDL-Z2WMには、Intel82574LというGigabit Ethernetが2本用意されている。Intelのドライバ側でもチーミングは行えるが、Windows Storage Server 2012側で行った方が便利だ。ここではさらに、ネットワークのパフォーマンスをアップさせるため、ジャンボパケットの設定を行っている
iSCSIドライブの設定も、サーバーマネージャーから行える
iSCSIドライブとして使用するボリュームを指定
仮想ディスク名やディスクサイズを入力
iSCSIターゲットの設定を行う

SMB 3.0は効果があるか?

 次に、性能をテストしてみる。

 今回は、ディスクベンチマークのCrystal Disk Mark(3.0.2 x64版)を共有ディスクとiSCSIでテストしてみた。クライアントPCは、SMB 3.0が利用できるWindows 8と、SMB 2.0のWindows 7を使用した。HDL-Z2WM側はRAID 1を使用している。

 SMBに関しては、SMB 3.0が利用できるWindows 8のシーケンシャルWriteと512KのランダムWriteが大幅に性能アップしている。シーケンシャルReadと512KのランダムReadに関しては、SMB 3.0とSMB 2.0でそれほど変わらないようだ。

Windows 7とSMB 2.0での結果
Windows 8とSMB 3.0での結果

 一方でiSCSIに関しては、Windows 7とWindows 8でほとんど変わらなかった。

 Windows 8のSMBとiSCSIのベンチマークでは、iSCSIが若干パフォーマンスが高かった。ただし大幅にパフォーマンスが異なるわけではないため、誤差の範囲かもしれない。

Windows 7とiSCSIでの結果
Windows 8とiSCSIでの結果

 実際にHDL-Z2WMを使ってみると、Windows Storage Server 2012の便利さがよく分かる。ADドメインとの連携、Windows Storage Server 2012の記憶域プール機能、NICのチーミングなど、Windows環境においては使いやすくてメリットが大きい。

 また、クライアントPCのOSがWindows 7であってもHDL-Z2WMは使えるが、NASとして使うのであれば、SMB 3.0のWindows 8で利用した方がメリットが大きい。

 ただHDL-Z2WMで性能的に満足かといえば、少し不満が残る。プロセッサに1世代前のAtom D510を使用しているため、少しパフォーマンス不足という印象を受けた。

 また、ディスプレイ、キーボードやマウスを接続してスタンドアロンで利用した場合、GPUの性能不足にためか、画面表示があまり速くない印象を受けたし、リモートデスクトップで利用しても、きびきびと動作しているという印象は持たなかった。

 ある程度の性能を求めるなら、やはり、新しい世代のAtom S1200シリーズを採用した製品が必要になるだろう。またUSBポートもUSB 2.0だけのため、外付けHDDを利用するにはUSB 3.0がぜひともほしいところ。USB 3.0があれば、eSATAがなくても十分なディスク性能が出るだろう。

 また、HDL-Z2WMは2ドライブ仕様のため、4ドライブ以上を搭載した製品の登場も待たれる(ラック型ではすでに提供されているが)。4ドライブ利用できれば、内蔵ディスクだけでも、Windows Storage Server 2012の記憶域プールを使って冗長性の高いストレージを構築することも可能だし、もしUSB 3.0ポートがあれば、外付けのUSBディスクなどを使って、さらに記憶域プールを容易に拡張していける。

 Windows Storage Server 2008 R2をインストールした4ドライブNASは以前から発売されているため、Windows Storage Server 2012に変更するものそれほど問題はなさそうだ。もしかすると、本格的なWindows Storage Server 2012製品としては、プロセッサを新しくした製品を考えているのかもしれない。

 VVaultに関しては、詳細なテストは行わなかったが、メーカーの異なるNASなどを統合できるため、複数のNASがネットワーク上にある場合はメリットが大きい。これも今後紹介していきたいと思っている。

(山本 雅史)