RDP 8.0などで強化されたWindows Server 2012のリモートデスクトップ/VDI
Windows Server 2012では、ハイパーバイザーHyper-Vの機能アップにより、リモートデスクトップ/VDI(Virtual Desktop Infrastructure)機能が大幅に強化されている。
今回は、この強化ポイントを説明する。
Windows Server 2012では、VDIにより場所やデバイスを選ばないワークスタイルが実現する |
■なぜシンクライアント環境が注目されているのか?
Hyper-Vの機能強化により、クラウドのインフラとして仮想化がスタンダードになってきている。今までは、サーバーを仮想化サーバー上で動かすことで、多くの業務アプリケーションを短期間で構築したり、ITシステムをクラウドへ移行してハードウェアへの投資コストを少なくしたり、いうのが大きな目的となっていた。
しかし、サーバーがクラウドに移行するにつれて注目されてきたのが、デスクトップ環境を仮想化し、パブリッククラウドやプライベートクラウドで動かすリモートデスクトップやVDIだ。
Windows PCが企業のITツールの基盤となって久しいが、それに伴って出てきた問題がいくつかある。
例えば、クライアントOSのバージョンアップにより、企業が利用しているアプリケーションが利用できなくなるというのもその1つ。このため多くの企業では、自社のアプリケーション資産を生かすため、OSのバージョンアップを遅らせたり、一世代スキップしたりすることが多い。
自社のアプリケーション資産を新しいOSに適応させるためには、改修などでそれなりのコストもかかる。また、現状のアプリケーションを新しいOSで動かすだけのための開発にコストをかけるのは無駄と考え、新OSへのアップデートを、全面的にアプリケーションをバージョンアップするときまで封印するという企業も多い。
また、OSのバージョンに依存しないようにアプリケーションをWeb化して、すべてはブラウザから利用するようにITシステムを変更した企業もあるが、今度はWebブラウザ(多くはInternet Explorer)のバージョンが問題になってしまった、というケースも最近は多いと聞く。
このように、OSのバージョンアップは、企業が開発し、運用しているアプリケーションとの関係を抜きにしては行えない。
ただ、セキュリティやOSの機能などを考えていけば、やがては新しいOSに移行していかざるを得ない。特に、2001年にリリースされたWindows XPは、マイクロソフトのサポートライフサイクルポリシーに基づき、2014年4月に製品のサポートが終了するため、これ以降はセキュリティパッチなどの更新も行われなくなる。
もう一つ、ここ数年で出てきているのが、デバイスの多様化だ。以前は、社内ではWindowsのデスクトップPCを使い、一部の社員がノートPCを持ち出すという形態だった。
しかし、スマートフォンやタブレットなどのスマートデバイスの普及により、ノートPCだけでなく、さまざまなデバイスを使って仕事を進めていきたいというニーズが高まっている。
また、昨年のような大震災や、インフルエンザのパンデミックのような状況になっても、企業としてはビジネスの再開に向けて取り組まないといけない。もしパンデミックが起こって、当面自宅待機になったとしても、スマートデバイスから会社の業務アプリケーションが利用できれば、ビジネスの継続が可能になる。
このようなIT環境を構築するには、社内に設置されているデスクトップPCを中心に考えるよりも、データセンターやクラウド上にデスクトップ環境を構築し、リモートからアクセスするシンクライアント環境にした方が都合がよい。デバイスとネットワーク回線があれば、いつでも、どんな状況でも、会社にいるのと同じ環境が提供できるようになるからだ。
さらにデスクトップ環境を仮想化し、重要なデータが常にクラウド側に存在するようにすれば、ノートPCやスマートデバイスの内部に重要なデータが残らない。デバイスを盗まれたり、紛失くしたりしても企業にとって重要なデータが流出することもなくなる。
最近は、セキュリティ上からシンクライアントを企業のPC環境として導入することが増えている | シンクライアントでは、セッションの仮想化(RDS)とデスクトップの仮想化(VDI)が利用できる |
■定型業務に向くRDS/個人のPC環境を仮想化するVDI
RDS(リモート・デスクトップ・サービス)は、以前はターミナルサービスといわれていたモノだ。つまり、ユーザーは、同じサーバーOSが動作しているデスクトップ環境にアクセスして、マルチユーザーに対応したアプリケーションを利用する。RDSでは、集約率が高く、集中管理が簡単にできる。このため、コールセンターの業務システムなど、同じアプリケーションを多くのユーザーが使用するといった用途にマッチしている。
一方でVDIは、仮想化の技術を使い、それぞれのユーザーの仮想マシンとOSを設定する。ユーザーはリモートデスクトップ接続で、仮想化されたデスクトップにアクセスして作業を行うが、企業のポリシーが許せば、この個人環境には、ユーザー各自が必要なアプリケーションを自由にインストールすることもできる。個々のデスクトップ環境が別々に用意されるため、RDSに比べると集約率は高くないが、非定型業務を行う社員にとってはRDSよりも使いやすい。
RDSは、定型業務のシステムにマッチしている。VDIは、非定型業務に向いている。VDIはOSが個人ユーザーごとに設置されるため、独自のアプリケーションがインストールできる |
Windows Server 2012では、RDS/VDIともにRDSサーバーの役割でサポートしている。Windows Server 2012に接続ブローカーを用意することで、すべてのリモートデスクトップ接続を管理することができる。ユーザーごとに、どのRDSやVDIに接続するのかをさばくことが可能になる。
特にRDS/VDIで重要になる接続ブローカーは、Active/Active型のクラスター構成を取ることができる。これにより、1つの接続ブローカーがシステムダウンしたとしても、クラスターを構成している別の接続ブローカーがセッションを引き継いで、RDS/VDIサービスを中断しないようにできる。
Windows Server 2012では、RDSとVDIを利用するために接続ブローカーを設置する。Windows Server 2012の役割から接続ブローカーをインストールすればOK | 接続ブローカーは可用性を向上させるために、Active/Activeの構成が組める。これにより、接続ブローカーの1つにトラブルが起き、別の接続ブローカーに切り替わっても、セッションが停止しないようにできる |
またWindows Server 2008 R2からは、アプリケーションの画面だけをリモートデスクトップ接続で表示するRemoteAppというアプリケーションの仮想化機能も用意されている。
RemoteAppを利用すれば、Windows 7のデスクトップ上で、仮想マシンで動作しているWindows XP専用のアプリケーションを利用することができる。
ユーザーにとっては、Windows 7上でWindows XPのアプリケーションが動作しているように見えるが、システム的には仮想マシン上で動作しているWindows XP専用アプリケーションの画面だけをWindows 7に転送している。
RDS/VDIを管理するためにリモートデスクトップマネジメントサービス(RDMS)が用意されている。RDMSでは、サーバーマネージャーから複数のサーバーを管理できるようになる | RemoteAppのアプリケーションを公開する場合、フォルダに分けて整理することができる |
これ以外にも、RDS/VDIのようにサーバーや仮想マシンで動作しているデスクトップ画面全体を表示することもできる。ユーザーにとっては、クライアントのデスクトップ画面とリモートのデスクトップ画面の2つが表示されることになる。
また、ひな型OSを複数台用意して利用するプール型VDI、セッション仮想化などにおいて、ユーザー固有のデータ(プロファイル情報)を共有ストレージに保存して一括管理する仕組みが用意されている。
この機能を利用すれば、プール型VDIやセッション仮想化などを使っても、それぞれの個人設定などが利用できるため、デスクトップの背景画面、個人フォルダ(ドキュメント、ピクチャー、ビデオ、ミュージック)などは個別のデータが利用できる。
ユーザーの個人設定を共有ストレージに保存することができる。起動時に個人設定を呼び出すことで、OS自体は共通のイメージを利用することが可能。デスクトップの背景画面、個人フォルダなどは、個人設定が利用される |
このほか、セッション仮想化においては、サーバーのハードウェアリソースをアクセスしてきたユーザーに公平に割り当てるフェアシェアスケジューリングの機能が強化された。Windows Server 2008 R2において、CPUのフェアシェアスケジューリングがサポートされたが、Windows Server 2012ではネットワークやディスクI/Oにまで機能が拡張されている。
Windows Server 2012のフェアシェアスケジューリングは、CPUだけでなく、ネットワークやディスクI/Oをサポート |
VDIにおいて面倒なOSのアップデートも、VDIのマスターイメージをウィザードからアップデートすることで、一括して再作成することができる。
VDIのマスターとなるOSイメージをアップデートすることで、各仮想マシンのOSもアップデートできる |
■GPUと融合したRemoteFX
RemoteFXのアーキテクチャ |
Windows Server 2012では、RDP(リモートデスクトッププロトコル)が8.0にアップデートされている。RDP 8.0は、Windows8のModern UIやマルチタッチ機能をサポートしている。
RDP8.0で最も重要なのはRemoteFXを内蔵したことだろう。Windows Server 2008 R2 SP1でサポートされたRemoteFXは、サーバー側のGPUを仮想化して、リモートデスクトップにおいてもGPUを利用するアプリケーションが使用できるようにした。
RDP8.0では、GPU仮想化の機能を取り込み、標準でサポートしている。これにより、リモートデスクトップの画面をテキスト、イメージ、ビデオ/アニメーションなどに分割して、効率よく転送することが可能になった。
RemoteFXのイメージ転送は、プログレッシブ レンダリングをサポートすることで、低速なネットワークでも粗いイメージを転送し、徐々に高画質イメージにしていくことができる。
このほか、RemoteFX機能を低速なWANで利用できるようにするため改良されている。これにより、インターネットだけでなく、3Gや4Gなどの携帯電話のデータネットワークでもリモートデスクトップが利用できるようになる。
RemoteFXのイメージレンダリングは、プログレッシブをサポート | RDP 8.0は、RDP 7.0に比べると1/5ほどのネットワーク帯域で利用できる。VMwareが採用しているPCoIPに匹敵する効率性だ |
RemoteFXのGPU仮想化機能(RemoteFX 3Dビデオアダプター)を利用するには、サーバー側にDirectX 11対応のGPUが必要になる。この機能を利用すれば、Hyper-VのVDIでDirectXを使用したアプリケーションを動かすことができる。
ただし、RDP 8.0が前提となるためVDI側のOSはWindows 8、クライアント側もWindows 8が必須となる。現状はWindows 8だけだが、将来的にはWindows 7/Vistaがサポートされる可能性はある。Windows XPに関しては、グラフィック関連のアーキテクチャが異なるため、サポートされないだろう。
RemoteFXのGPU仮想化機能を使えば、GPUを多用する3Dゲームも動作すると思うかもしれない。厳密にテストしたわけではないが、GPUを仮想化しているため、ゲームの動作は満足行くスピードではないだろう。このあたりは、ビジネスユースを前提としている。Windows8ではDirectXを多用してIE10のHTML5コンテンツが表示されているため、RemoteFXのGPU仮想化機能もIE10などを利用するためのモノだろう。
RemoteFXのGPU仮想化機能は、将来的にNVIDIAのGPU仮想化のVGXをサポートすることになっている。VGXを利用すれば、1枚のVGFXカードで100ユーザーの仮想GPUをサポートすることが可能になる。
RemoteFXにより、サーバー側のGPUを仮想化して、複数ユーザーで利用することができる。画面のテキスト、画像、動画/アニメーションなどを切り分けて、効率のいい転送が可能になった。特に、動画はH.264などの高い圧縮率を持つコーデックが利用できるようになった |
RemoteFXは、USBのリダイレクトもサポートしている。この機能は、クライアント デバイスのUSBをダイレクトにVDI上で動作しているOSにマッピングする(1つのUSBデバイスを複数のOSを同時に利用できるわけではない)。この機能を利用すれば、シンクライアントのUSB端子に接続したUSBメモリ、プリンタ、Webカメラ/ビデオ、USB電話機などが、VDI上で利用できる。
RemoteFX USBでは、USBメモリやUSB HDD以外に、プリンタ、Webカメラ、USB対応電話機などが利用できるようになった |
ここまで紹介してきたように、RemoteFXがRDP 8.0に統合され、RemoteFXのWAN対応が行われているなど、Windows Server 2012のRDS/VDIは、Windows Server 2008 R2 SP1で採用された機能から、パフォーマンスが向上している。
Windows Server 2012では、VDIやRDSを管理するベースはできあがった。しかし、本格的にVDIやRDSを使うには、System CenterやCitrixのXenDesktopなどを利用する必要がありそうだ。
特にVDIやRDSに関しては、Citrixの方に一日の長があり、Windows Server 2012では必要最低限の環境が用意できた段階といえる。このため、企業においてVDIを本格的に利用するには、Citrixのソリューションが必要になってくるだろうし、Microsoftもそれを念頭に協業を進めているフシがある。いずれにせよ、他のベンダーの動向を見ながら、ソリューションの長短を見極めていく必要があるだろう。