データセンター完全ガイド:トレンドチェック
地方データセンターの連携で「メガクラウドにはない魅力」を
業界団体データセンタークロスアライアンス(DCXA)が目指す「もっとつながる日本のデータセンター」
2017年6月9日 06:00
弊社刊「データセンター完全ガイド 2017年春号」から記事を抜粋してお届けします。「データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2017年3月31日
定価:本体2000円+税
「クラウドサービスの普及に伴って、ラック契約数が伸びなくなってきた」――データセンター事業者から時折そんな声を聞く。特に地方のデータセンターでこの傾向が顕著だ。解決策として、企業の壁を越えて複数の事業者が協働し、付加価値を持つサービスを提供してビジネスの拡大に取り組む業界団体がある。2012 年に5 社で設立され、現在では22社(2017年3月31日現在)にまで広がりを見せるデータセンタークロスアライアンス(DCXA、デクサ)である。 text:柏木恵子 photo:河原 潤
きっかけは大震災、地方DC5社が共同でBCP/DRサービスを開始
2011年3月11日の東日本大震災の教訓から、国内企業の間で、BCP(事業継続計画)やDR(災害復旧)が業種・業態を問わず俄然、重要視されるようになった。当時、そのニーズにこたえるべく、国内のデータセンター事業者がこぞってDRサービスの新規提供や強化に乗り出した。だが、地方のデータセンターの多くは本部拠点1カ所のみでサービスを展開している。遠隔にDRサイトを開設するにはデータセンターの建設をはじめ当然ながら多大な時間とコストがかかる。
「そこで、各地のデータセンターが連携して、相互にラックを融通し合うことはできないだろうかというアイデアが生まれました。これが、DCXA発足のきっかけです」と、DCXAの代表理事でTOKAIコミュニケーションズ プロダクトサービス部部長の山田誠之氏(写真1)は語る。他の事業者と手を組めば、1社でDRサイトを新設するよりもリードタイムも抑えられるのは明らかだ。TOKAIコミュニケーションズと、構想に賛同した両備システムズ、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)、北海道総合通信網(HOTnet)、オージス総研の5社でDCXAが発足した。
DCXAの会員企業数は現在、22社に達している(表1)。山田氏は、DCXAの特徴について「この業界・分野にまつわる情報共有にとどまらず、各社のサービスの検証や販売協力まで行う点にあります」と説明する。
ビジネス指向の強いDCXAが活動のキーワードとして挙げるのは、①共有(回線、ラック、設備、ノウハウ、技術)、②共通化(サービス、販売)、③分散(サーバー、データ、リスク)の3種。これらを軸に、プラットフォームサービスやデータストレージサービス、アプリケーションサービスを連携したクラウドデータセンターとして、会員企業がそれぞれの顧客のBCP/DRニーズにこたえることが、DCXAのメインミッションとなる。
「顔の見える事業者」が売りのJMTクラウド
DCXAのコミュニティとしての活動は、ワーキンググループ(WG)とビジネス部会が軸になる。WGは現在、営業交流会、自治体サービスWG、仮想インフラ技術WG、地域DC活用WGの4つがあり、それぞれ参加する層が異なる。
WGで情報交換・議論がなされた結果、具体的なプロジェクトが立ち上がるケースがあり、その先はビジネス部会のプロジェクトチームで取り組んでいくという流れができている。「ビジネス部会では、サービスの構築など、名称のとおりビジネスにつながる活動を行います。DCXAのJMTクラウドはここから生まれました」(山田氏)
JMTクラウドについては次節で詳しく紹介するが、DCXAでデータセンター事業者同士が連携し始まった具体的な協業の事例としては、展示会共同出展プロジェクト、会員各社のデータセンター/クラウドサービスなどの再販、やストレージ同期による遠隔バックアップサービスなどがある。
例えばTOKAIコミュニケーションズが提供するメールやファイルサーバーサービスに対しては、DCXAの会員企業がオプション機能としてバックアップサービスを提供。顧客企業は、バックアップサイトに北海道エリアや関西エリアを選べるようになる。
そして、DCXAの顔と呼べるのが、パブリッククラウドサービスのJMTクラウドだ。上述したようにビジネス部会から生まれたサービスで、各地の会員企業のクラウドサービスを統合。顧客は、DCXA自身が運営する共同ポータルから地域(事業者)を選んで仮想サーバー環境を従量課金で利用できるようになっている。仮想サーバー基盤はVMwareで構築され、静岡ゾーン(TOKAIコミュニケーションズ)、岡山ゾーン(両備システムズ)、富山ゾーン(北電情報システムサービス)の3地域から選択可能だ(図1)。
「コンセプトは、サービス名にもなっているJapan Motto Tsunagaruです。地域は、現在の3地域から全国に広げていこうとしています」と山田氏は語る。地元のデータセンターを利用する企業が、離れた複数の地域のデータセンターに情報資産を分散したいと考えた場合、普通は各地域の事業者とそれぞれ契約しなくてはならない。これがJMTならその手間もなく、セルフサービス型のポータルから簡単に地域を選択でき、ただちにDRサイトの利用を始められる。
また、海外の大手パブリッククラウドを利用する際、自社のデータが事業者のどこの設備に置かれているかは「日本」「東日本」といった大きな単位の地域までしかわからないことが多い。そして、実際どのように運用されているのかも、限られた情報しかで知りえない。
「JMTクラウドの場合、『顔が見える事業者』が提供するクラウドサービスとして利用でき、安心感が高いという評価をいただいています」と山田氏。当然、ポータルのUIは日本語で、利用料金請求も円建てで、確かに海外クラウドのような敷居の高さを感じさせない。次のバージョンでは、今後のDCXA会員事業者のクラウドだけでなく、AWSやMicrosoft Azureもポータルから選べるようにする計画があるという。
「海外メガクラウドには置けないデータ」のニーズに対応
DCXAは、「顔の見える事業者」の安心感に加えて、海外の大手クラウドには置けない分野のデータを狙うことで差別化を図ろうとしている。
具体的な取り組みとして2017年1月に立ち上がったのが、自治体バックアップサービスだ。国内各地の事業者が提供するストレージサービスを統合し、秘密分散の仕組みを採用してセキュアな分散バックアップをとるサービスである。
自治体のシステムはLGWAN(総合行政ネットワーク)で接続されているが、海外のパブリッククラウドとLGWANを接続するのは好ましくない。一方で、地域のデータセンター事業者はすでにLGWANと接続した自治体向けサービスを提供しているため、その部分にビジネスチャンスがあると考えられる。現在は、来期の予算取りに向けて営業活動を進めている。
閉域のネットワークが必要とされる分野は他にもある。例えば、医療・介護、学校・教育もそうだろう。また、IoTのネットワークもセキュリティを確保する必要があるケースが存在し、そこにもビジネスチャンスがありそうだ。DCXAは今後もこの輪を広げたい方針で、「データセンター/クラウド事業者だけでなく、アプリケーションレイヤの企業の参加も歓迎です」(山田氏)とのことだ。