クラウド&データセンター完全ガイド:イベントレポート

デジタルエコノミー社会の到来で「相互接続」はさらに重要に

Equinix Interconnection Forum Japan 2017

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2018年冬号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2017年12月21日
定価:本体2000円+税

エクイニクス・ジャパンは2017年10月4日、プライベートコンファレンス「Interconnection Forum Japan 2017」を東京都内で開催した。毎年秋に開催されていた「Japan Peering Forum」をリニューアルしたかたちで、今年も世界のICT動向やエクイニクスのインターネットエクスチェンジ(IX) 事業やデータセンター事業、顧客企業の取り組みの動向など、さまざまなトピックが語られた。 text&photo:柏木恵子

リアルとサイバーの接近と併存

写真1:エクイニクス・ジャパン代表取締役の古田敬氏

 Interconnection Forum Japan 2017の最初のセッションには、エクイニクス・ジャパン代表取締役の古田敬氏(写真1)がステージに上がり、インターコネクションの重要性とデジタルワールドの未来をテーマにしたプレゼンテーションを行った。

 エクイニクスはIXとデータセンターを中核事業として1998年に設立され、以降順調にグローバルレベルで業績を伸ばしてきた。近年の業績も好調で、その背景となるのが、デジタルトランスフォーメーションやデジタルエコノミーといったメガトレンドだ。IoTやAI、自動運転など、デジタルテクノロジーが世界の経済活動に大きな影響を及ぼすようになったことを実感するが、「特にここ1、2年のキーワードはAI」(古田氏)だという。

 将来、サイバー世界が現実の世界で支配的になるだろうことは、例えば、最近ハリウッドで実写化もされたアニメ映画『攻殻機動隊』(1995年)などの作品でも予測されていたが、古田氏は、近年リアルとサイバーがさらに接近し、両者が併存する社会が近づいていると指摘。東京大学大学院 情報理工学系研究科教授 江崎浩氏の近著『サイバーファースト』(インプレスR&D刊)やエクイニクスの調査レポート「Global Interconnection Index」(2017年8月発表、10月に日本語版も提供、注1)などの内容を紹介しながら論を展開した。

 「デジタルエコノミーの進展は、事業者間の相互接続、すなわちインターコネクションの進展と直結する。TCP/IPという共通プロトコルで相互接続が可能になり、ここ数年は、その仕組みの上でデジタルエコノミーが急激に加速し始めている」(古田氏)

 Global Interconnection Indexでは、世界数千のキャリア中立型コロケーション事業者と、そこで形成されるビジネスエコシステムを分析している。ここで言うインターコネクションとは、パブリックインターネットとは別の、データセンター内の相互接続のことを指す(パブリックインターネットもインターコネクション上を流れる)。古田氏は、「2020年までに企業間インターコネクションによるデータ交換量は、パブリックインターネットの2倍の速度で成長し、パブリックIPトラフィックの6倍のデータ量に達する」という同レポートの予測を紹介した。

 同レポートは、ユーザー規模・地域・業種別のインターコネクション帯域の成長も示している(図1)。それによると、インターコネクション帯域は成熟市場である米国が最大だが、成長率で見ればアジア太平洋の伸びが大きく、業種別では金融業の成長が著しい。日本の場合、市場規模の大きさに対してインターコネクション帯域はシンガポールの半分と少ない。これは、MPLS(Multi-Protocol Label Switching)やEDI(電子データ交換)など、レガシーな伝送技術がまだ多く使われているのも要因の一部だという。

図1:ユーザー規模・地域・業種別のインターコネクション帯域成長予想(出典:エクイニクス・ジャパン)
写真2:エクイニクス・ジャパン セールスエンジニア&SAグループディレクターの野口敬之氏
写真3:エクイニクス・ジャパン ネットワークグループマネジャーの西澤賢史氏

 セッションの後半は、エクイニクス・ジャパン セールスエンジニア&SAグループディレクターの野口敬之氏(写真2)がインターコネクションの重要性を解説し、同社ネットワークグループマネジャーの西澤賢史氏(写真3)がそれぞれの事業の最新状況を報告した。

 ここでは、エクイニクスの現在のインターコネクションプロダクトが紹介された(表1)。このうちエクイニクスクラウドエクスチェンジ(ECX)では、アマゾン・ドットコム、富士通、グーグル、IBM、マイクロソフト、ニフティ、SAP、アリババの9事業者からクラウドを選択できる。今後、2018年第2四半期にバックボーン帯域の100Gbps増強を予定しているほか、グローバルでDDoS攻撃に対するソリューションを検討しているという。

 サイバーファーストでの起業が世界中で増えており、すでに国境が曖昧な世界になりつつある。日本の企業も以前とは経営の考え方を根本から変える必要が出てきていると言える。

表1:エクイニクスのインターエクスチェンジサービス(出典:エクイニクス・ジャパン)

建築や都市計画を変革するIoT

写真4:日建設計 設備設計部長の関根雅文氏

 この日は、ゲストスピーカーセッションも用意された。日建設計 設備設計部長の関根雅文氏(写真4)は、建築・都市計画とIoTの関わり、トレンドと展望を専門家の立場から解説した。

 日建設計は建物設計、都市計画、設備設計、構造設計などに携わる総合設計事務所だ。東京タワー、東京スカイツリー、六本木ミッドタウン、渋谷ヒカリエなど有名なランドマークの設計を手がけており、エクイニクスのOS1大阪IBXデータセンターも同社の設計だ。また、海外でのプロジェクトにも多く携わっている。

 関根氏によると、建築計画では、これまでの省エネルギーに加えて、生産性、健康・快適、安全・安心、持続可能性といったノンエナジープロフィットが注目されているという。都市計画は情報だけでなく、人・交通・エネルギーのつながりも強く意識されているとのことだ。

 同氏は、オフィスを維持するためのコスト構造にも言及し、光熱費や賃料に比べて人件費の比率が圧倒的に高い点を指摘。「人件費は光熱費のおよそ60倍。省エネよりも生産性を向上させるほうがメリットが大きい」(同氏)

 日建設計では、IoTの取り組みにおける見える化、得られる価値の見える化や新しいモノサシの発見・創出などを目指している。これまで設計事務所は設計した後の使われ方までは把握していなかったが、今ではIoTによるロケーション管理で従業員の活動量を把握することで、席数は適切か/どのようなスペースならコミュニケーションが促進されるか/会議室の量や広さは適切かといったさまざまな項目を見える化できるという。

 「IoTに対しては『見えなかった、聞こえなかった不満が見える』『成果物や排出物と消費エネルギーの関係』『都市のバリューの可視化』を期待している」(関根氏)

ITを駆使してタクシー利用体験を変革

写真5:日本交通 代表取締役会長の川鍋一朗氏

 日本交通のセッションには、同社代表取締役会長の川鍋一朗氏(写真5)が登壇した。冒頭、川鍋氏は、「タクシーはたくさんの情報を生成しつつ収集できる、走り回る情報収集端末であるととらえている」と述べ、タクシーのユーザーエクスペリエンス向上を実現するためのITについて紹介した。

 タクシーを利用して目的地に着いた時、料金の支払いに手間取っていると周りの邪魔になっていないかが気になるものだ。それを解決するために、日本交通のタクシーには決済タブレットがついている。

 まず、スマートフォン用の「全国タクシー」アプリ(画面1)をダウンロードしてクレジットカード情報を登録しておく。乗車後、車内のタブレットにQRコードを表示させて自身のスマホからそれを読み取れば支払の手続きが完了する。目的に着いて確定した料金がクレジットカードで決済される仕組みだ。決済行動を、気ぜわしい降車時ではなく、先に済ませることができるのがポイントだ。

 この決済タブレットの画面には動画広告が流れる。地方のタクシー会社などでは設備投資への負担からクレジットカード決済システムまで導入できない場合があるが、それも広告収入があれば解決できる。また、タブレットに搭載されたカメラから、性別・年齢に合わせた広告を表示することも可能で、東京では人気の広告媒体になっているという。スマホではなくタブレットの動画を見てもらおうと、スマホの充電器まで用意されている。

 同アプリには、Uberのような配車アプリとしての機能もある。従来の無線配車では、本当に利用者の近くの車両が申請を受けたのかがわからないし、履歴も手書きの伝票しかなかった。それがアプリになると、GPSによって車両の位置がわかり、履歴も自動的に残る。同アプリは英語・中国語・韓国語対応で、対応言語であれば現地通貨で支払う必要もなくなる。

画面1:日本交通の「全国タクシー」アプリのスマートフォン操作画面(出典:日本交通)

 「タクシー会社とITは一見すると縁遠そうだが、今ではタクシー会社のコアコンピタンスの半分以上がITだ」と川鍋氏。そこで同社はITエンジニアの採用を進めたが、当初はカルチャーショックに突き当たったという。

 「1つは服装。タクシー会社は接客業であり、服装や身だしなみにはうるさいのだが、ITエンジニアの多くはラフな格好を好む。また、日本交通の本社はかつて赤羽にあったが、若いエンジニアたちは都心でないと集まらない。そこで、服装を自由にし、千代田区にオフィスを移してエンジニアの増強を図った」(川鍋氏)

 現在、同社はアプリでの前決め運賃、相乗り、定期券乗り放題の実証実験を行っている。また、トヨタ自動車と合同で自動運転にも取り組んでいる。現在、都内500台のタクシーのカメラ画像をトヨタで分析しており、これが将来的に自動運転における3D地図生成に活用されるという。

 「タクシーは、いわば動く防犯カメラのようなもの。地域の人々の移動データが収集されるため、配車アプリはやはり国産がよいと考えている」と川鍋氏は語った。確かに、海外のタクシー会社に我々の行動情報がすべて集まってしまうのは問題がありそうだ。

先端テクノロジーの可能性とデジタルエコノミー社会

写真6:東京大学大学院 情報理工学系研究科教授の江崎浩氏

 コンファレンスの締めくくりは、江崎氏(写真6)をモデレーターに迎えたパネルディスカッションである。パネリストはホスト役の古田氏を含めて4人。SBクラウド 代表取締役兼CEOの内山敏氏、エヌビディア エンタープライズマーケティング本部シニアマーケティングマネジャーの佐々木邦暢氏、ソラコムの共同創業者兼最高技術責任者/工学博士の安川健太氏という顔ぶれだ(写真7)。

 SBクラウドは、アリババグループ傘下で中国版AWS(Amazon Web Services) とも呼ばれるIaaS「Alibaba Cloud」を提供する阿里雲(Aliyun)とソフトバンクの2社共同出資によって設立された企業だ。アリババはECサイトで有名だが、そのITインフラ基盤をAlibaba Cloudが担い、中国では圧倒的なシェアを持っている。最近はグローバル展開に力を注いでおり、日本市場を担当するのがSBクラウドである。なおアリババはスマートシティ構想にも取り組んでいる。

 エヌビディアはGPUベンダーとして知られる。GPUはPCゲームなどでグラフィックス描画を専門処理するところから始まったが、東京工業大学のスーパーコンピュータ「TSUBAME 2.0」で採用されたことから、スーパーコンピュータ/ HPC(High Performance Computing)でGPUを使うという流れが生まれた。近年は大規模な演算処理、AI、自動運転などへと用途が拡大している

 そして、ソラコムは、デバイスのSIMからクラウドまでをセキュアにつなぐIoTプラットフォームを提供している。この3社の共通課題の1つがIoTと、そこで課題となるセキュリティである。江崎氏は「ここではSIMでの認証にアドバンテージがある」と述べ、討論が始まった。

 「使い方はアイデア次第。特に酪農業での事例が気に入っている。牛の耳にSIMタグをつけて行動を可視化したところ、「一頭ぼっちの牛は乳の出が悪い」といったことがわかった」(安川氏)

 さまざまユースケースが挙げられた後、発想したことが実現するまでは10年単位という苦労の声も上がった。かつてユビキタスやRFIDといったキーワードがもてはやされたが、さまざまな条件が整わず、結局普及とは言いがたい状況にある。ネットワークのスピードやクラウド、GPUといった条件が整ったことでようやく実現可能になった。

 安川氏は、「これからの10年で、これまではできなかった第1次産業を新しい形に変革することができる」と期待している。また、国内では経済の低迷が続いたため、超高級品のニーズは極端に減っている。しかし、例えばIoTを駆使して作った2万円の高級メロンを買う海外旅行客もいる。

 「物理ドメインの制約をなくすかたちの新たなデジタルトランスフォーローションが起きている。そこに着目すればビジネスはもっと広がる」と江崎教授は指摘。さらに、ネットワークにつながると分散学習の効率が非常に高くなる。佐々木氏は、「今の分散学習は、せいぜいコンピュータは4台や8台にするレベル。それがネットワークで結ばれたクラウドの別リージョンと分散学習というレベルにまで発展していく。つまり、機械学習の精度は今よるも格段に上がる」と説明。

 短い時間ではあったが、デジタルエコノミーを切り口に時代がどこに向かっていくのかを見渡せるパネルディスカッションとなった。

写真7:デジタルエコノミーを語るパネリスト。左から、SBクラウドの内山敏氏、エヌビディアの佐々木邦暢氏、ソラコムの安川健太氏、エクイニクスの古田敬氏