データセンター完全ガイド:JDCC通信
JDCC通信 第15回 ラック監視システムにIEEE1888を採用――さくらインターネット 石狩DC3号棟
2017年6月7日 06:00
弊社刊「データセンター完全ガイド 2017年春号」から記事を抜粋してお届けします。「データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2017年3月31日
定価:本体2000円+税
BEMS(ビルエネルギー管理システム)やスマートグリッド向けの通信規格であるIEEE1888。国際標準化から6年が経過し、国内事例も登場している。今回は、東大グリーンICTプロジェクト(GUTP)とJDCCの共同開催セミナー「次世代データセンター勉強会」で披露された、さくらインターネットの取り組みをお伝えする。 text:柏木恵子
国際標準化プロトコルのIEEE1888が、国内でもいよいよ実用化のフェーズを迎えている。このほど、さくらインターネットは業界の先陣を切る形で、IEEE1888の策定に携わったGUTPの支援を得ながら、データセンターのラック環境監視システムに同仕様を採用した。
以下、次世代データセンター勉強会(2017年2月13日/東京大学本郷キャンパス)に登壇した、同社技術本部 ハードウェアグループ ファシリティチーム シニアプロデューサーの花清真氏の発表の要旨を紹介する。
石狩DC3号棟の竣工を機に監視システムを刷新
2016年12月、さくらインターネットの石狩データセンター(北海道石狩市、2011年11月開所)の3号棟が竣工し、全棟合計で約3,000ラック規模にまで拡張された。石狩DCと言えば、外気冷房が有名だが、「直接外気冷房だった1・2号棟と異なり、3号棟は間接外気冷房を採用しました。湿度調節が不要なため、空調コストをさらに削減できます」(花清氏)とのことだ。また、拡張性と柔軟性にすぐれた設計(大規模搬入対応やバスダクト採用など)、ラック収容スペースの高密度化も特徴となっている。
石狩DCの監視システムは、ラック環境監視(電流・温度)、設備監視(電気・空調)、画像監視(監視カメラ)からなり、それぞれDCIM、BMS、画像レコーダーでデータを蓄積し管理している。さくらインターネットは、従来の監視システムが抱えていた以下のような課題を解決すべく、3号棟の竣工を機に刷新を計画した(図1)。
課題(1): セキュリティ脆弱性→IaaSへの移行
従来の監視システムは専用デバイスで構成され、OSのアップデートもままならない状況だった。そこで新しいシステムは、物理的なデバイスではなく、同社のパブリッククラウド「さくらのクラウド」のIaaS上に構築。常に最新のセキュリティアップデートを施せるようにした。
課題(2):サーバー導入運用コストの高騰→IaaSへの移行
また、従来はハードウェアとソフトウェアの両面においてベンダーロックインで選択肢が限られ、高コストになりがちだった。それが、さくらのクラウドの利用により増設・更新が容易になり、コストも引き下げることに成功し
た。加えて、オブジェクトストレージを利用することで、大容量の画像データも問題なく保管できるようになった。
課題(3):データアクセスの非効率→OSS、汎用ブラウザベースの操作
専用デバイスでのデータ管理はブラックボックス化していて、データに直接アクセスできなかった。そのためCSV形式でのエクスポートなどリアルタイム性に劣る手法に限られていた。
「現場からはラック監視情報を時系列で数年分保管したい/既存棟や今後の新棟のデータも一元管理したいという要望も出ていました。そこで、オープンソースソフトウェアや汎用ブラウザを利用し、分かりにくい管理ポイントリストとは別に、任意に命名できるタグ機能を実装しています」(花清氏)
IEEE1888の採用により実現された機能と課題
上述のとおり、IEEE1888は2011年に国際標準化されたオープンな通信規格である。従来のエネルギー管理システムはプロプライエタリな独自データベースに依存するケースが大半なため、他のシステムとの連携が難しい。敷地内の複数の建物を統合管理する必要のあったさくらインターネットにとって、同規格の採用は理にかなったものだった。
図2にIEEE1888のアーキテクチャを示した。アプリケーション(管理UI、データ分析、帳票出力、コマンド発行など)、ストレージ(データ蓄積)、ゲートウェイ(アクセス方式の統一化)の3系統で構成される。
「IEEE1888により、ゲートウェイが各センサーからの情報を“翻訳”するので、既存の仕組みをスムーズに移行できました。また、時刻ラベル付きデータをやり取りするため、時系列データを扱う類のシステムであれば、BEMS以外にも、例えば環境データの管理システムなどにも適用できるでしょう」(花清氏)
石狩データセンター3号棟でのラック環境監視の具体的なフローは以下のようになる。
センサーがラックの電流と温度を1秒周期で計測し、通常は計測制御ボックスでそれを10秒平均データにしてサーバーに送信。異常監視(瞬停トレースバック)は、1秒周期データが閾値(上限、下限)を逸脱した場合にアラームとしてリアルタイムで送信し、アラームの直前5分および直後1分の1秒周期データをサーバーに送信する。
「ここでのデータは、管理者がサーバーからSQLなどで取り出して分析が可能で、閾値はセンサーごとに任意に設定できます。また、ラック環境監視のDCIMと設備監視のBMSのデータは公開データベースにも送信し、監視サービスや顧客向けの情報提供に利用します」(花清氏)
花清氏はIEEE1888の課題についても言及した。「IEEE1888はプロトコルの違いを吸収できますが、すべてをIEEE1888に統一するにはゲートウェイ機器が多数必要になります。そのため、現状、コストや保守の面では不利です。したがって、設備の監視レベルに応じた適切なプロトコルを選択する必要があります」。
石狩データセンターの場合、今回はラックの電流・温度監視にIEEE1888を採用したが、BACnetやSNMPといった従来のプロトコルも併用しているという。
最後に花清氏は、今後の計画として、(1)さくらインターネット社内システムとの連携、(2)照明設備のオープンプロトコル「DALI」の取り込み、(3)既存棟設備の取り込み、(4)機械学習、AIを使った最適制御システムの導入の4点を挙げた。