事例紹介

1万名超の税理士集団と全社員の会議を円滑に、TKCのコミュニケーション変革

経営管理本部 システムエンジニアリングセンター IT投資企画部の金森直樹氏

 会計事務所と地方公共団体に情報サービスを提供する株式会社TKCは、全社員2300名以上を対象にビデオ会議のシステムを導入し、9月から本格稼働を開始した。TKCの栃木本社、東京本社、全国拠点を結ぶほか、外出先や取引先でも利用できる。また、税理士・会計士1万名超の「TKC全国会」とのコミュニケーションにも利用する。

 シスコシステムズ(以下シスコ)のビデオ会議システム「Cisco TelePresence」を採用。ビデオ会議専用端末が各拠点に設置したほか、PC用のクライアントを社員全員が利用できるようにした。社員のPCには、チャットやプレゼンス表示の機能を持つメッセージングシステム「Cisco Jabber」も採用。

 同時に、ビデオ画像のほか資料やデスクトップの共有、チャットなどをWebベースで使えるSaaSのWeb会議サービス「Cisco WebEx」も導入した。こちらは主に取引先やTKC会員とのコミュニケーションに利用される。

 コミュニケーション革新のため、ビデオ会議(Cisco TelePresence)、Web会議(WebEx)、チャット(Cisco Jabber)を使い分けるTKCの取り組みについて、経営管理本部 システムエンジニアリングセンター IT投資企画部の金森直樹氏と浦田克則氏に話を聞いた。

約70拠点の行き来の必要性を減らす

 TKCは、北海道から沖縄まで全国に約70の拠点を持つ。それを「北日本」「東海北陸」「中四国」など地方ごとの統括センターが束ねている。これらの各拠点のトップは、会議や報告のたびに本社などに移動する必要があった。統括センターのトップも、1週間のサイクルで各拠点を回らなくてはならなかった。ビデオ会議により、この移動時間や交通費の削減を狙っている。

 もともと、東京と大阪にまたがった営業部隊が発足したときに、この2拠点にハイビジョンのビデオ会議システムを導入した。これによって毎回移動して会議する必要がなくなったことが好評となり、社内でも高頻度で使われた。このことから、ほかの拠点にもハイビジョンの専用端末を追加した。

 しかし、多地点接続装置(MCU)を導入したことで、性能の低下に悩まされた。「音声が耐えがたいほど遅延して、会話のタイミングがうまくいかなくなってしまいました」と金森氏は説明する。

 この問題を解決するシステムを探したところ、2012年にネットワンシステムズ(以下、ネットワン)からシスコのビデオ会議専用端末の提案を受けた。「そんなにうまくいくか、最初は半信半疑でした。しかし、拠点間の同じネットワークを使ってデモしてもらったところ、遅延なく通信できたので、移行を決めました」(金森氏)。現在、専用端末として会議室向けの「MX300/200」やオフィス向けの「EX90」を合計11台、主要拠点に配置している。

 ただし、拠点すべてに専用端末を入れると費用が大きくなってしまう。そこでネットワンよりPC用のソフトウェアベースのビデオ会議ツールも提案されたことから、全社員を対象に採用を決めた。

 さらに、ちょうどビデオ会議の導入を決めているころ、TKCの会員である税理士・会計士の会議を全国規模で結ぶ必要が緊急で発生した。そこで、自前のサーバー設備が不要な「WebEx」を採用。TKCの営業担当がカメラなどをセットして乗り切った。同時に社外とのビデオ会議にWebExが使えるという感触を得た。

 こうした経緯から、全社員を対象にビデオ会議「TelePresense(専用端末およびPCアプリ)」、Web会議「WebEX」、メッセージング・プレゼンス「Cisco Jabber」を採用。3月から構築を開始し、9月から本格稼働に至った。社員間でビデオ会議、取引先・会員間でWeb会議、より簡易な連絡にメッセージングと適材適所で使い分ける形だ。

概要図

周知するには、最初から全員が使えるのが一番

 サーバー設備としては、ビデオ会議のサーバーとメッセージングのサーバーがそれぞれ1台。TV会議のネットワーク全体を管理するTMS(TelePresence Management Suite)も、ビデオ会議のサーバー上で動いている。

 PC側のビデオ会議アプリケーションは、3000人分を契約した。全社員が使えるようにしたのは、「周知するには、パイロットユーザーとして一部で使い始めるより、最初から全員が使えるようにバッと導入するのが一番」という考えからだと金森氏は説明する。

 PCからのリモート接続も整備。Cisco AnyConnectによるVPN接続を用意し、PCに対して証明書を発行してデバイス認証をかけ、トークン認証とも組み合わせた。「社内のノートPCも、順番にカメラ付きのモデルに置きかえていっています」(金森氏)。

 ただ、Web会議のWebExについては試験的な導入として、まずは20ポート(同時接続数)で契約した。WebExでは、契約数までしか利用できないわけではなく、超過した場合は後から超過料金を支払うという料金体系となっている。利用するケースがある程度限られており、利用数のピークに合わせると平常時には余るため、まずは20ポートから始めたという。利用する際は、会議に加えたい人へ会議参加用のURLを送るだけで、Web上での会議が行える。

 構築にあたって最も苦労したのが、アカウントの管理だ。TKCでは現在、アカウント情報をすべてActive Directoryで管理し、人事情報からそのまま反映されるようになっている。そこで、ビデオ会議やメッセージングのアカウントもActive Directoryのアカウントで統合して管理するようにした。「アカウントを別に管理したら破綻するので、Active Directoryで一括管理するのは必須でした」と金森氏。さらに、ビデオ会議とメッセージングとでアカウント情報の表示が違う部分も、同じように表示されるように工夫した。

TKCのコミュニケーションシステム構成図

使い始めて応用のアイデアが浮かぶ

TelePresenceの活用風景(ネットワン提供)

 こうしてビデオ会議の利用が全社で始まった。「連絡でビデオ会議を使ったりするのですが、まだ慣れてなくて自分が映るのを恥ずかしがる人も多い(笑)」と金森氏。

 そうした中で、少しずつ利用が進んでいる。「最近(注:取材は9月上旬)、10月から始まる来期の活動計画を全国の営業部員に周知するイベントを開催しました。各地のセンター長や責任者は栃木本社に集まりましたが、集まれない社員はビデオ会議で参加しました。たとえば、センター長が本社で話した内容について、詳細を社員がビデオ会議で説明するということもできました」(金森氏)。

 特に、遠隔地と会話するときに、電話では伝わらない意図が伝わることが好評だという。「これを使えば、あれもできる、といったことを、いま社内のみんながモヤモヤと考えている段階です」と金森氏は語る。

 そのほか、営業部員が客先を訪問するときに、時間がとれず同行できない開発担当がビデオ会議で顔を見せることで安心してもらえる、という効果もあり、営業支援にも役立っているという。

 浦田氏も「たとえば、われわれが社内システムの説明書を作っても、なかなか行間まで伝わらないし、同じ質問が違う人から何度も来る。そこで、わからないことがある人にビデオ会議で集まってもらって説明したら、問い合わせが減りました」と語り、「われわれの生産性が上がりました」と笑った。

実際に使いながら、自社に即した利用シーンを作っていく

Cisco JabberとTelePresence PCアプリを利用している様子

 一方、メッセージングについては、まだパイロット利用段階だ。「まだ利用シーンが明確になっていなくて、メールで充分ではないかと見られてしまう。たとえば東京と栃木とで離れたコミュニケーションで、メールよりメッセージのほうが早いということも多い。そうした社内での利用シーンや効果をうまく社内に伝えていくには、半年ぐらいかかると思う」と金森氏。

 現在、各地の情報部門の報告会議は、WebExやグループチャットを使ってオンラインで行なっている。「そのほうが早いですし、資料も共有できます。さらに、チャットをリアルタイムの議事録として使って、最後にチャットの内容をコピーして議事録にしています」。

 また、WebExを活用することで、取引先や顧客、TKC全国会とのコミュニケーションを密にしていく考えだ。「コミュニケーションが変わってきていると感じます。電話だけではなく、いろいろなツールを使うことで生産性が上がっていきます」(金森氏)。

 こうした中で、それぞれのコラボレーションツールの向いている用途を模索している。「ビデオ会議は圧倒的に画質がいい。一方、WebExなら資料を共有したり、チャットと組み合わせたりできる。実際に使いながら、堅い用途からカジュアルな用途まで、ツールを使い分けるための事例を作っていきたい」と金森氏は語る。

 将来的な計画としては、ビデオ会議とメッセージングの2つのアプリがPCで別々に動いているのをなんとかしたいと金森氏は語った。たとえば、チャットしている途中で同じ相手とビデオ会議に移行することなどができたらいいと考えているという。そのほか将来的には、メッセージングと内線電話の接続なども検討していると金森氏は語った。

高橋 正和