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【トップ対談】ハイレゾとABEJAのパートナーシップで加速するAI活用の民主化

企業のAI活用を支援するため、コストパフォーマンスに優れたGPUクラウドサービス

「GPUSOROBAN-AIスパコンクラウド」を提供するハイレゾと、ミッションクリティカル業務へのAI導入支援のための基盤「ABEJA Platform」を展開するABEJAは、2025年1月、パートナーシップを締結した。企業のAI活用に関して、現在、どのような課題が浮上しているのか。そして、両者のサービス、およびパートナーシップはどのような解決策をもたらし、日本企業のAI活用を加速させていくのか。ハイレゾ代表取締役の志倉喜幸氏と、ABEJA代表取締役CEOの岡田陽介氏に語っていただいた。(以下、敬称略)

株式会社ハイレゾ 代表取締役 志倉喜幸氏
株式会社ABEJA 代表取締役CEO 岡田陽介氏

AI活用の障壁となるインフラ、および利用者側の課題

――はじめにハイレゾ、ABEJAの企業概要についてお聞かせください。

志倉 ハイレゾは石川県志賀町や香川県高松市にてGPU専用データセンターを運営するとともに、クラウドサービス「GPUSOROBAN」を展開する企業です。「GPUSOROBAN」の代表メニュー、IaaS型サービス「AIスパコンクラウド」では、HPCやAIなどの計算タスクに使われるGPUコンピューティングを、低コストかつシンプルな価格で提供していることが特長です(図1)。

図1 ハイレゾの提供する「GPUSOROBAN」とサービスメニュー

岡田 ABEJAは「ABEJA Platform」を中核に、導入支援と周辺サービスの提供を行う「トランスフォーメーション領域」、その後の「人とAIの協調」による運用を行う「オペレーション領域」から構成されるデジタルプラットフォーム事業を展開し、ミッションクリティカルな業務でのAI活用をサポートしています(図2)。単にAI活用のための基盤を提供するだけでなく、様々な知見とノウハウを有した人の強調を通じて、より効果的なAI実装を可能としている点が強みです。

図2 ABEJAのデジタルプラットフォーム事業の全体図とABEJA Platformの概要

――近年、生成AIをはじめ、企業のAI活用が急拡大している中で、どのような課題が浮上しているのでしょうか。

志倉 インフラの観点からは、日本政府も訴えているように、AIによるイノベーション推進に不可欠な計算資源の整備、強化が急務となっています。しかし、AIを活用した研究やサービス開発をしたくても、日本国内ではNVIDIAの高性能GPUを実装したインフラが不足しており、かつ、その導入にも多大なコストが発生しています。加えて、高性能GPUインフラ環境を構築・運用できる人材の不足も大きな課題となっています。AIの高度活用をしたくても、そもそも、エンジニアが活用の前段階の基盤づくりに多くの労力や時間、コストをかけざるを得ない状況に陥っていると感じています。

岡田 同時に企業が実際にAIを導入、実利用していくにあたっても乗り越えなければならない4つのハードルが存在します。1つ目は“AIは魔法の杖”で、導入するだけで望むような処理をしてくれる、という思いこみから脱却すること。2つ目は、「当社はAI活用に必要なデータを十分に蓄積している」と思っていても、そのほとんどが使えないものであると認識すること。3つ目は、AIの計算精度には壁があり、100%の正解を導き出してくれないと理解すること。これらのハードルを乗り越えても、4つ目の障壁として、オペレーションの壁があり、AIが誤った情報を生成するハルシネーションなど特有の課題に随時対応するために、再学習、技術のアップデート等、継続的に適切な運用を行う必要があります。

 とはいえ、これらのハードルは利用する側の認識が変化することで、一気に解決できると考えています。

――今お話しいただいた課題以外にも、多くの企業においてはAI技術者不足も叫ばれていますね。

志倉 実際、AIを活用するための仕組みを開発する技術者は、取り合いになっているように思います。一方で、今後、ABEJAさんのABEJA PlatformのようなAI活用を促進させる基盤がさらに世に浸透していくことで、AIコンテンツを駆使できるエンジニアは自ずと増えていくと考えています。

岡田 私も志倉さんと同意見で、AI技術者が不足していることは間違いないです。そうしたことから、多くの企業ではAI人材の育成を進め、検定資格の取得等も積極的に行っています。とはいえ、せっかく育てた人材に活躍の場が与えられていないようにも感じます。それは、これまでと仕事のやり方が変わっていないからなのですね。「AI人材が欲しい」とは言うものの、現実的にはAI技術者が十分に活躍できるフィールドがない。加えて、AI技術者をどう有効活用していけばよいのか、そのビジョンも描けていないように感じます。
対して、明確なビジョンを持っている企業は淡々とAI活用を進めており、今後、その差はますます広がっていくでしょう。

徹底的なコストダウンでAIの民主化に貢献

――先述した課題を解消し、AI活用を加速させるための高コスパなGPUクラウドサービスをハイレゾは展開しています。中でも、AIスパコンクラウドはNVIDIA H200を搭載したGPUインスタンスを業界最安級の低コストで提供していることが大きな強みです。低価格を実現できる仕組みについて、教えてください(図3)。

図3 AIスパコンクラウドは他サービスと比較し70%安価な料金を実現

志倉 理由としては、ハイレゾがGPUサービス専業でビジネスを展開していることが挙げられます。一般的なデータセンターは顧客の多種多様なニーズに応じるため、サービス領域を広げ、結果、多くの設備投資をせざるをえませんでした。対してハイレゾはGPUサービスに特化しており、設備からソフトウェアに至るまで無駄を排し、徹底的なコストダウンを図っています。

 また、AIモデル開発ではバッチ処理が主であるため、ユーザー/サーバー間の通信はそれほどリアルタイム処理が要求されません。したがって、多少のネットワーク遅延が発生しても影響は少なく、距離的に離れた地方にデータセンターを設置できます。加えて、地方は都市圏と比較して土地代が安価であり、また、廃校や廃倉庫等の使われていない施設を活用可能です。実際、2024年12月、香川県高松市に新設した高松市データセンターは、研究所を改修したものになります(画像1)。そうした遊休資産や既存施設を利活用した地方でのデータセンター構築は、地方創生の目的もあります。

画像1 研究所をリノベーションした高松市データセンター

志倉 現在、資本に余力のある大企業がAI活用のための計算リソースを利用しやすい状況になっています。しかし、計算リソースの民主化を図るためには、できる限り安価で誰もが使えるサービスを提供することが重要であり、ハイレゾはそのために様々な取り組みを進めています。

 その一環として、AI基盤の運用にかかる負荷の削減も支援しています。初期設定やバージョン管理、互換性チェック等の煩雑な作業はハイレゾ側が行うほか、日本人のGPUエンジニアによる技術サポートも無料で提供しています。これにより、企業はGPUを利用したアプリケーション開発等に専念することが可能となります。

デジタル版EMSの提供により企業のAI活用を支援

――最近では、様々なビジネスアプリにAIが組み込まれています。それらのサービスとABEJA Platformの違い、そして優位性について教えて下さい。

岡田 より高度なAI活用に向けたシステムの導入を行おうとした場合、その設計は行えたとしても、実際の構築やオペレーションにまでは十分に手が回らないケースは少なくありません。そうした課題を解決するものが、ABEJA Platformです。

 ABEJA Platformは先に示した図の通り、AI活用における6つのレイヤーに対応した「パーツ」として提供しており、企業固有のニーズや課題に応じて組み合わせるため、独自のシステムをいち早く構築することが可能です。さらに、その構築にあたっては、ABEJAのコンサルタント、データサイエンティストが設計から支援しています。

 私たちは自身のビジネスをデジタル版EMS(Electronics Manufacturing Service)の工場として、位置付けています。すなわち、顧客はABEJA Platform上で要望に応じた製造ラインを構築し、そのラインを使って製造を行うというものです(図4)。そして、ABEJA Platformを使えば、企業はゼロから仕組みを作らずに済み、かつ、AI技術者不足にも対応可能となります。

図4 デジタル版EMSを目指す、ABEJAのビジネスモデル

両者のパートナーシップにより日本企業のAI活用を加速

――2025年1月、ハイレゾとABEJAはパートナーシップを締結されました。その内容と狙いについてお聞かせください。

志倉 今回の提携により、ABEJA様にハイレゾのAIスパコンクラウドを販売していただくことになりました。また、ABEJA Platformとの連携により、AIの学習先として、AIスパコンクラウドも選択可能となりました。ABEJA Platformとハイレゾのコストパフォーマンスに優れたGPUサービスを組み合わせることで、さらに利用しやすいAI基盤を企業の皆様にお届けできるようになったと考えています。

岡田 今回、ハイレゾさんとパートナーシップを締結した理由には、AIスパコンクラウドの仕組みがリーズナブルで、かつ、実に理にかなったものであったからです。生成AIを活用する基盤として、既存のデータセンターの多くはオーバースペックで、かつ、利用コストが高額になりがちです。データセンターのコストを大幅に増加する一因に、データセンターが多くのバックアップ設備を確保したTier基準を採用していることがあげられます。これは、地震などの災害への対応体制やセキュリティなどをベースにした評価基準です。だからこそ、多くのデータセンターは停電などが起こっても稼働がとまらないのですが、全ての案件がそのような処理を求められるものではありません。まさに生成AIの学習はその典型で、稼働が止まったとしてもまた改めて学習を再開すれば良いため、過剰なTier基準は必要ないのです。ハイレゾさんが採用するTierフリーというコンセプトは、極めてリーズナブルであり、これが欲しかったというものです。ABEJAのニーズ、ひいては私たちの顧客ニーズにも十分に合致すると評価しました。

――両社のパートナーシップは、日本企業のAI活用の大きな弾みになりそうですね。最後にAI活用に取り組んでいる企業の担当者に向けて、お二人からメッセージをいただけますでしょうか。

岡田 生成AIブームに着目してみると、日本企業には多くの“勝ち筋”があると思っています。特に、日本企業が長年に亘って培ってきた、優れたオペレーショナルエクセレンスの知見やノウハウをAIに取り込んでいくことで、世界に打って出ていくチャンスが広がっています。

志倉 そして、AI活用については技術的なハードルも下がりつつあり、事実、一歩先に踏み出した企業が先行利益を獲得しています。まずは、行動に移していくことが重要であり、そのための支援をABEJAさんとハイレゾは惜しみません。

<お問合せ先>

株式会社ハイレゾ
https://highreso.jp/