クラウド商談のインセンティブは最大40%に?~さらに強化された日本マイクロソフトのパートナー支援策とは


 日本マイクロソフトの基本戦略は、パートナービジネスである。

 つまり、同社の事業拡大や製品の広がりは、パートナー戦略が重要な鍵を握ることになる。

 7月から始まった同社の新年度で掲げているのが、「デバイス/コンシューマー」、「クラウド」、「ソリューション」という3つの分野。すべての領域において、パートナービジネスの強化策に乗り出すことを示しており、同時に、計画、能力開発、需要の創出、販売、サービス、維持といったそれぞれのフェーズにおいて、各種支援策を用意している。

 例えば、デバイス/コンシューマーという観点では、Windows Phoneでの開発環境のサポートがある。

 Marketplaceにおいてアプリケーションを提供できる環境のほかに、開発者向けのポータルサイトであるApp Hubを用意。開発ツールのダウンロードや開発者向けの情報提供、アプリケーション登録などが可能になるほか、アプリケーションの一般配布に加えて、ベータ版の配布やプライベート配布制度を用意。特定の企業に対して、特定のアプリケーションを配布するなど、ソリューションの状況にあわせて提供することが可能になる。

 また、Windows 7およびOffice 2010へのアップグレードにおいても、それに向けたパートナー支援策を用意している。

日本マイクロソフト 業務執行役員 パートナービジネス営業統括本部の川原俊哉統括本部長

 その点について、日本マイクロソフト 業務執行役員 パートナービジネス営業統括本部の川原俊哉統括本部長は、「Windows 7やOffice 2010にアップグレードをしていないお客さまには、いくつかの共通した課題がある」と切り出す。

 「これらへのアップグレードにおいては、互換性の検証、エンドユーザー向けトレーニング、導入・展開計画策定といった点での課題があげられる。数百台、数千台という大きな規模になればなるほど、なかなか踏み出せないでいる企業が多い。移行に伴う大きなコスト負担が懸念材料になっている」とする。

 だが、川原統括本部長は、「見方を変えれば、これはパートナー各社にとってもビジネスチャンスだといえる。日本マイクロソフトは、それに向けた支援策を用意する」と続ける。

 日本マイクロソフトが用意したのは、「デスクトップ導入計画サービス(DDPS)」と呼ばれるものである。

 これは、ソフトウェアアシュアランス(SA:同社の保守契約に相当する)で提供される特典のひとつに位置づけられるサービスで、ユーザー企業に対し、導入計画策定に関するサービスが無償で提供されるというものだ。

 Windows 7などへの移行を検討しているユーザー企業は、SAの種類と数に基づいて、アップグレードにおける課題克服のためのサービスを、導入計画サービス認定パートナーと呼ばれる30社以上のパートナー会社から、1~15日間受けられる。

 川原統括本部長によると、「使用可能な日数は市場全体で6000日分程度ある。費用に換算すると6~7億円規模のサービスが提供されることになる」と試算する。

 無償で提供されるサービスだが、これはパートナーにとってもメリットはある。SA特典の利用促進によって、導入計画サービスビジネスを拡大できるほか、計画立案に続き、アップグレードの実作業や、導入展開プロジェクト、ソリューション提案などの受注機会創出につながる可能性が高いからだ。

 「マイクロソフトパートナーネットワークに参加してもらい、導入計画サービス認定パートナーとして登録することで、ビジネスチャンスが広がる」と語る。

 

技術面に加えて、制度面からのクラウド移行を支援

2011年7月に樋口泰行社長が打ち出したクラウドにおけるパートナー戦略強化

 クラウドビジネスにおけるパートナー支援策も積極化している。その積極ぶりは昨年以上のものだといっていいだろう。

 この1年でOffice 365の累計ユーザー数は、従来のBPOS(Business Productivity Online Suite)と比べて約3倍に増加。Windows Azureのユーザー数も2倍に増加しているが、これをさらに加速するためには、オンプレミス環境からクラウド環境への、移行の橋渡しを行いやすくする手だてが必要。技術面からの移行措置だけでなく、制度面での移行も重要な意味を持つ。そこにパートナー支援策の役割があるといえる。

 日本マイクロソフトでは新たな施策として、ユーザー企業が、これまでのオンプレミス環境から、パートナーが展開するクラウド・コンピューティングサービスへと移行する場合、オンプレミス環境で利用していたアプリケーションのボリュームライセンスを、そのままパートナーが展開するクラウド上でも利用できるようにする。

 「ユーザー企業にとっては、移行時に発生しがちな投資の二重化を避けることができるのに加えて、パートナーにとっては、ユーザーが持つこれまでの投資を、そのままパートナークラウドへと移行できる」というわけだ。

 また、パートナー向けのクラウドビジネス支援策としては、クラウド製品の利用および評価を促進するクラウドエッセンシャルパックの提供に加え、各種インセンティブの提供やMicrosoft Pinpointへの優先掲載などを行えるクラウドアクセラレートによる協業強化、Lync&Exchange導入計画サービス、SharePoint導入計画サービスに加えて、仮想化導入計画サービス、SQL Server導入計画サービス、開発環境導入計画サービス、パブリッククラウドプラットフォーム・Windows Azure導入計画サービスなどを用意。これらを10月から順次提供を開始しているところだ。

 現在、Microsoft Pinpointには、2800社の企業がアプリケーションを登録され、閲覧数は開始から9カ月間で14万件にまで増えており、今後は、3倍規模にまで増やしていく計画だという。情報露出度の向上、潜在顧客の発掘、評価システムによる宣伝効果などがあるとしている。

 一方、パートナーを対象にしたWindows Azureの無償ハンズオントレーニングを全国6都市で合計200回を開催。平日夜間や休日のコース、モバイル開発コースを新設するという。

 さらに、マイクロソフト製品に関する技術者向けおよび営業向けトレーニング、ソリューションを中心とする販売準備支援、既存顧客や新規顧客に対して販売提案が可能なスキルアップ支援などを行う。

 

手厚いインセンティブプログラムを用意

オンラインサービスにおけるインセンティブプログラム
ソリューションインセンティブプログラム

 そして、最大の注目点は、インセンティブプログラムだろう。

 日本マイクロソフトでは、Office 365とWindows Intuneを対象に、オンラインサービスアドバイザーのほかに、ボリュームライセンスのEA(Enterprise Agreement)により導入計画を策定したパートナーに対して、新たにEAデプロイメントアドバイザー制度を導入。いずれのパートナーに対しても、通常の18%のインセンティブに加えて、オンラインサービス販売支援インセンティブとして12%のインセンティブを提供することになる。

 ここでは年間8ユーザー、500シートを提供したパートナーに関しては、クラウドアクセラレートの特典として、さらに5%のインセンティブを付与することになるという。

 また、Microsoft Dynamics CRM Onlineでは、オンラインサービスアドバイザーに対して、通常の18%のインセンティブに加えて、特別インセンティブとして22%を加え、合計で40%のインセンティブを提供することになる。

 この分野では、セールスフォース・ドットコムなどとの競合が激しいだけに、パートナー支援策にも特別な措置が取られているといえよう。

 インセンティブプログラムでは、さらにソリューションインセンティブプログラムがある。ここには、今年6月末までの2011年度実績で106社が参加。今後は、ゴールドコンピテンシーを取得したソリューションパートナー向けに投資を強化していくという。

 例えば、System Center Services Identity&Securityでは最大で売り上げの30%をインセンティブに設定。SQL Serverでは20%、Lyncでは20%、Windows Azure Platformでは最大で25%のインセンティブを提供する。

 「このインセンティブを利用することで、ソリューション提案を加速してほしい」とする。

 

技術支援面でもバックアップ体制を強化

日本マイクロソフトが提供する数々のパートナー向け支援策

 そのほかにも日本マイクロソフトではさまざまなパートナー支援を用意している。

 コンピテンシーパートナー向け特典サポートとして、パートナービジネス支援サービスを用意。マイクロソフトのソリューションによって実現する販売提案の解説や、他社製品との相互運用に関する情報提供、新製品を利用した次世代システムの訴求などを支援。この支援策は、現在、約300社が取得するゴールドコンピテンシーパートナーの場合には50時間の提供、約1000社が取得しているシルバーコンピテンシーパートナーの場合には20時間を、それぞれ時間制サービスとして提供する。

 ただし、ライセンスの見込み売上額が30万円以上の案件で、ユーザー名を提示した場合にはこの時間が消費されずにサービスを受けることができる。なお、クラウド案件の場合はユーザー名を提示すれば、見込み売上額の制限がなく、時間が消費されないという。

 また、技術的なトラブルシューティングを行うテクニカルサポートインシデントをゴールドおよびシルバーコンピテンシーパートナーの双方に5インシデントずつ提供するという支援策も展開している。

 加えて、有料で提供しているパートナーアドバンテージサポートとしては、日本マイクロソフトの専任エンジニアが、高度な技術力を要する問題解決の支援を行うほか、プロジェクトの円滑な進行支援、問題発生を未然に防ぐプロアクティブサポートを提供。2012年春にはプレミアサポートを新たに用意し、標準メニューにProduct Support Workshopsと、Monthly Hotfix Report、ミッションクリティカルサポートの追加など、支援体制を強化する。

 

パートナーが売る気になる支援策

 このように日本マイクロソフトのパートナー支援策は、さらに充実度を増している。

 特にクラウド・コンピューティングへの移行支援や新規開拓、Windows 7への移行支援といった観点での支援策が手厚くなっているのを感じる。

 まさにこれは日本マイクロソフトの重点領域に対する投資を加速している証しであり、パートナーとの共同歩調をより強くするものになっているともいえる。

 今年7月の同社新年度方針で、日本マイクロソフトの樋口泰行社長は、クラウド・コンピューティング事業分野においては、さらなるパートナーシップの強化を掲げ、そのなかで、「パートナーシップの加速」、「パートナークラウドの本格化」、「Office 365によるワンストップクラウドサービスの開始」、「異業種とのパートナーシップ推進」を掲げた。

 本年度掲げた支援策の強化も、そうした路線の上で推進されるものだ。パートナーが売りやすい環境、売る気になる環境の提案に力を注いでいることが浮き彫りになる。

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