米Googleが手にする40億ドルの使い道は?



 久々にIT業界を沸かせたIPO(新規株式公開)から1年、米Googleは8月18日(米国時間)、新株式発行の計画を明らかにした。これによって調達される資金が推定約40億ドル(約4400億円)と巨額なことから、IT業界のみならず、広く経済界、投資家らの間で、その使い道をめぐるさまざまな憶測が飛び交っている。

 Googleはこの日、米証券取引委員会(SEC)に証券発行届出書を提出した。申請している新株の発行数は1415万9265株。円周率(3.14159265…)の小数点以下の数字というGoogleらしいちゃめっ気のあるものだ。提出書類の中で目的について、「資本増加を主として、今後の事業運行、事業補完のための企業買収に充てる」としている。Googleは現在、約3億ドルの現金を持っているといわれている。同社が買収の具体的な話は進んでいないと述べたことから、メディアの報道合戦が過熱した。

 ここでは、米International Herald Tribune(IHT)紙、米The New York Times紙、英BBC、英Financial Times(FT)紙、それに調査会社の英Ovumのコメントなどから、資金の使い道予想をまとめてみる。

 各メディアの予想は大きく分けて次の3つとなる。


  • 企業買収
  • 国外進出強化
  • 新規開拓


(1)企業買収

 まず名前が挙がったのが、Skype Technologies(ルクセンブルグ)だ。VoIP界のGoogle的存在ともいえるSkypeを買収することにより、米Yahoo、米Microsoft、米America Online(AOL)などライバル他社に出遅れているコミュニケーション分野を強化するのではないか、という予想だ。Skype買収はほぼ全紙が共通してあげており、かなり確度の高い話といえそうだ。

 なお、Googleは8月24日に新サービス「Google Talk」のベータ版をリリースし、IM(インスタントメッセージング)分野に参入している。Google Talkには音声チャット機能もあるが、Skype買収説は消えたわけではないようだ。5000万の登録ユーザーを抱えるSkypeを巡っては、かつてテレビ朝日に対するM&Aを仕掛けた“メディア王”Rupert Murdoch氏のNews Corp.が先日、買収を試みたもようだが、Skype側は売却の考えはないと強調、Murdoch氏側の失敗に終わっている。

 ほかに、Ovumのアナリストが、支払い機能のPaypal(米eBay傘下)のような企業やコンテンツ強化としてメディア企業を買収するのでは、という見方をあげている。


(2)国外進出強化

 ここでも、多くのメディアが共通して中国市場を挙げた。巨大な中国市場をめぐっては、Googleが今年6月に中国の検索エンジン最大手Baidu(百度公司)への出資を発表した後、8月にはライバルYahooが同じく中国のEC(電子商取引)サイト、Alibabaの株式取得を発表するなど、動きが活発化している。この市場には、MicrosoftもMSNブランド強化など注力している。各メディアは、GoogleがBaiduへの出資比率を増やすのではないか、と見ており、FT紙は、まだ足がかりのないインド市場にもなにか計画があるのではないか、と予想している。


(3)新規開拓

 各メディアが注目しているのは、Googleが同じく18日に明らかにした米Android買収だ(買収が行われたのは7月)。Androidは、米Apple Computerのハードウェアデザイナーを務めたAndy Rubin氏が創業したベンチャー企業。ワイヤレス端末向けに位置情報を認識するソフトウェア開発を事業とするといわれているが、創業間もなかった同社に関する情報は少ない。Rubin氏は、独T-Mobileブランドの携帯端末「Sidekick」の製造元である米Dangerを共同創業した人物でもある。このSidekickは、Googleの2人の創業者、Sergey Brin氏とLarry Page氏が愛用していたとNew York Timesは伝えている。

 同紙はさらに、Page氏のプロジェクトにGoogleブランドのスマートフォンがあることや、同社がMIT Media Laboratory設立者、Nicholas Negroponte氏の100ドルノートPCプロジェクトに200万ドルを出資したことにも触れ、ワイヤレス事業に拡大する計画があるのではないかとまとめている。

 ワイヤレス分野では、Googleは5月にワイヤレス端末向けにソーシャルネットワーキングサービスを提供する米Dodgeballも買収している。

 また、ワイヤレス以外の通信事業として、電力線ブロードバンドプロバイダーの米Current Communicationsへの出資のほか、以前から取りざたされている光ファイバー購入やWiFiネットワークへの出資などにも、各メディアは触れている。


 今年で創業7年を迎えるGoogleは、検索を事業の主軸として、地図、ニュース、地域情報などの検索機能を付け加え、その他にもWebメール「Gmail」、ソーシャルネットワーキングサービス「Orkut」、ブログ「Bloggers.com」、写真共有の「Hello」など、事業を多角的に拡大してきた。メディアや投資家の意表をつくことが多いGoogleだが、新株発行計画を明らかにした後も、デスクトップ検索Google Desktopの最新版、Google Talkと立て続けに発表を行い、メディアを煙に巻いている。

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(岡田陽子=Infostand)
2005/8/29 10:37