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IDC Japan、2013年国内IT市場の主要10項目を発表

IDC Japanリサーチバイスプレジデント 中村智明氏

 IDC Japanは12月13日、2013年国内IT市場でキーとなる技術や市場トレンド、ベンダーの動きなど主要10項目を発表。同日、記者やアナリスト向けに説明会を開催し、IDC Japanリサーチバイスプレジデントの中村智明氏が解説した。

 IDC Japanでは、ICTプラットフォームのフェーズを3期に分けて定義。メインフレームとスタンドアローンコンピュータを「第1のプラットフォーム」、クライアント・サーバー技術を利用するICTプラットフォームを「第2のプラットフォーム」、モビリティ、クラウド、ビッグデータ、ソーシャルを「第3のプラットフォーム」と定義している。

 2013年の国内IT市場は、全体では前年比成長率は0.5%程度の微増にとどまり、市場規模は約13兆6000億円になると予測。ほぼ横ばいだが、その水面下では第2のプラットフォームから第3のプラットフォームへのシフトが加速すると見ている。

 IDC Japanは、第3のプラットフォーム全体の2013年の市場規模は、2012年比で+13%となる6兆6600億円と予測。一方、最も大きい市場である第2のプラットフォームは2012年年比マイナス2%で18兆5000億円と予測する。第3のプラットフォームは2013年に対前年で113%の成長を遂げてもまだ第2のプラットフォームの3分の1程度の市場でしかないが、第2のプラットフォーム市場がシュリンクする一方で第3のプラットフォームが成長し、全体の市場規模としては横ばいながら、水面下で技術プラットフォームの大きな転換が進むと指摘する。

 第3のプラットフォームへのシフトが進み、スマートデバイスやBYODのソリューションも増え、また従業員が正式な了承を得ずに持ち込むケースを増えるなど、スマートデバイスの企業内での普及が進むと分析。しかし、一方でスマートデバイスを利用する上でセキュリティ面のルール作りが確立していない点を指摘。2013年には、BYODなどの利用を通じて、大きな事例になるようなインシデントが起こるだろうと予測。そうしたインシデントが広く知られることで、企業内でのルール作りが促進されるだろうとした。

 2013年のハードウェア市場は、全体ではマイナス成長だが、スマートフォンとタブレットなどのスマートデバイスについては、前年比成長率が約10%と高成長が見込まれ、IT市場全体に占める割合は約14%に拡大。一方で、2013年の国内PC市場は、前年比成長率が約9%のマイナス成長が予測される。IDC Japanは、インターネットアクセスデバイスの主役の座はすでにPCからスマートデバイスに移行していると指摘した。

 iOSとAndroid OSなどスマートデバイスのシェアについて中村氏は、「Appleのシェアはいまがピークと見ている」として、Android OSのシェアが今後増えるとコメント。しかし、日本国内市場ではAndroid OS端末でどこがシェアトップになるかは現時点では予測できないと述べた。一方、Windows Phoneは飛躍的には伸びないものの、現在よりはシェアを伸ばす方向になるだろうとした。

 また中村氏は、これまでは明確に分離していたパブリック・クラウドとプライベート・クラウド市場だが、AmazonのAWSがプライベート・クラウドの市場に進出してきた点を重視。AWSがSAPやサービスベンダーと組み、セキュアな付加価値サービスを付けて提供する形が増えてくるだろうと予測する。これまでプライベート・クラウドを手がけるSIerはハードウェア込みで納品していたが、パブリック・クラウドを基盤とするソリューションではハードウェアの納品が不要となるため、ICT市場に大きなパラダイムシフトが起こるとした。

 以下では、IDC Japanのあげる10項目をご紹介する。

1)国内ICT市場は緩やかに成長、水面下でプラットフォームのシフトが加速

 中村氏は、2012年は震災の影響もあって成長を見せたが、2013年の市場規模は13兆6000億円と微増にとどまると予測。しかし、「市場規模自体はほぼ横ばいだが、水面下では大きな変化が起こっている」として、スマートデバイスが2012年比で+10%と高い成長を見せるとの予測を示し、「いまの日本では2桁成長は非常に大きい」とした。

 一方で、PC市場は対前年比マイナス9%となり、アクセスデバイスの主役はすでにPCからスマートデバイスに移行していると指摘。また、スマートデバイスが伸びるということは、移動体通信市場が伸びるということだと述べ、移動体通信市場も2012年比9%の成長を遂げると予測した。

 国内ICT市場全体に占める第3のプラットフォームの構成比は2012年の23.6%から2013年は26.3%に2.7ポイント増加する。第3のプラットフォーム(モビリティ、クラウド、ビッグデータ、ソーシャル技術)はいずれも前年比で2桁の成長が見込まれ、全体では前年比成長率が約13%、市場規模は約6兆6000億円になるとした。4つの中ではクラウド、ビッグデータ、ソーシャル技術は現在はまだICT全体の10%を超える程度の市場規模だが、2012年比で40%以上の高い成長が見込まれるとした。

2)第3のプラットフォームを活用した業種特化型ソリューションが拡大

 第3のプラットフォームへのIT市場のシフトは、ITを活用する産業構造や社会インフラも変革し、従来は存在しなかった新たなサービスに向けてシステム構築を行う事例が出てきているとして、「金融業界でのパブリッククラウドのさらなる利用拡大」「中堅中小企業でのSMDの活用」「労働集約型から売上拡大へと価値を高める現場のIT投資」「営業支援ツールへのゲーミフィケーションの応用」「ソーシャルゲームへの参入による収益拡大」などを上げた。

 中村氏は、金融業界でもパブリッククラウドの利用が拡大する説明。これまでのパブリッククラウドに対するセキュリティに関する懸念を払拭するようなソリューションが出てきており、「インフラの本丸の方にもパブリッククラウドが使えるのではないかという動きが出てきた」と説明した。

 また、第3のプラットフォームを活用する方法には大きく2種類あると説明。第2のプラットフォームで構築した既存システムを大幅に改編することなく、仮想化技術を核にコスト削減を目的として行うクラウドイネーブル(Cloud Enabled)型と、新規のシステムを第3のプラットフォームを前提に構築するクラウドネイティブ(Cloud Native)型の2つだ。

 中村氏は、「現状ではクラウドイネーブル型の開発がまだ市場の8割を占めるが、クラウドネイティブに比べると検証などに時間がかかる。クラウドでスケーラビリティが出るように最初から設計されている、クラウドネイティブ型のアプローチによって、アジャイル開発ができる、立案からリリースまでが非常に短期化できるなど、本当にクラウドのメリットが出てくる」と述べた。

3)スマートデバイスユーザーの増加が、マルチデバイス、アクセスプラン競争、法人利用を加速

 2013年、スマートフォン国内出荷台数は3260万台に達し、加入者数は5000万人を超え、ほぼ2人に1人がスマートフォンを持ち、「一般ユーザー」がその利用の中心となると予測。

 中村氏は、スマートフォンの普及では日本が世界的に見ても先行しており、2013年のモビリティ関連市場において、(1)マルチデバイスの加速、(2)アクセスプラン競争の激化、(3)法人へのスマートデバイス導入の加速――の3つの動きが予測されるとした。

 マルチデバイスの加速では、スマートフォンの利用浸透がタブレットの普及を加速し、2013年第4四半期には、タブレットの出荷が199万台に達し、家庭市場向けポータブルPCの出荷(166万台)を上回ると説明。

 また、アクセスプラン競争の激化については、マルチデバイスの需要が高まる一方で、アクセスプランの内容とそれに対応する価格体系の変化に対し、消費者や企業はこれまで以上に敏感に反応すると予測。移動体通信事業者、固定系通信事業者、MVNO(仮想移動体通信事業者)による契約者の争奪戦が加速するとした。

 法人へのスマートデバイス導入については、一般ユーザーにも浸透したスマートデバイスが法人へも波及し、企業での利用が加速するとした。とくに経営層のスマートデバイスへの関心の高さが法人への導入を促す力となり、前述の第3のプラットフォームへの移行を加速すると述べた。逆に言えば、「第3のプラットフォームへの移行というハードルを越えられない企業は、第2のプラットフォームに取り残される」(中村氏)。

 中村氏は、「すでにBYODのような形で個人所有の端末を使うというケースがどんどん出てきている」と説明。BYODを導入しているかとヒアリングしたところ、約3割がスマートフォン、2割がタブレットを導入していると回答したが、利用を認めたものかを確認すると、黙認状態だというケースがかなりあったという。

 「スマートフォンでは約3割の会社が黙認状態で、想像していたより多かった。これが、2013年には問題を引き起こすだろうと見ている」(中村氏)。

4)BYODの法人利用でセキュリティ脅威が顕在化

 中村氏は、「IDCでは、前述の黙認している端末を“シャドーIT”と呼んでいるが、2013年にはこれらスマートデバイスからの不正アクセスや情報漏えいなど、事例となるような大きなインシデントが発生するのは避けられないだろうと見ている」と説明。

 インシデントが発生して報じられることによって、これら“シャドーIT”に対して、企業は対策を迫られる。それを見越してITベンダーはすでにBYODを管理するようなソリューションを開発しており、2013年にはそうしたソリューションが実際に使われ、どのソリューションが有効であるかがわかってくるだろうとした。その上で、2013年後半には、問題点を踏まえてそれぞれの組織でのBYODに関するセキュリティポリシーが固まってくるだろうと予測。

 国内セキュリティ製品は2016年まで3~4%程度の前年比成長率が予測されるが、このうちモバイルセキュリティ市場は2011~2016年まで年平均23%の高い成長率が見込まれ、市場の成長を支えると分析した。

5)国内クラウド市場は、製品の開発競争から顧客取り込みのステージへ

 2013年の国内クラウド市場では、製品の開発競争の段階から、顧客の取り込みのステージへ移行。この戦いを征することが、今後のクラウド市場、ひいてはIT市場において重要なポジションを占めることにつながると指摘した。

 具体的には、これまでのプライベートクラウドから、機器を全部データセンターに預けるホステッドプライベートクラウドが主戦場となると予測。

 「いままでパブリックで提供していたクラウドサービスを、セキュアな形でやれますよということで、AWSがプライベートクラウドの分野に乗り込んできている。それがSAPやサービスベンダーと組むと、多くのITベンダーはプライベート・クラウドの提供を目指しているが、こうしたホステッドプライベートクラウドに顧客を取られてしまうケースが出てくる。ホステッドプライベートクラウドでは顧客は直接ハードウェアを導入する必要がなく、ハードウェア納品の部分が取られてしまうので、ITベンダーには非常に大きな影響が出る。」(中村氏)

、また、ビッグデータをコアとする業種特化型ソリューションを提供できるベンダーに注目が向けられるとした。2013年は、医療クラウド、農業クラウドに次いで、ビッグデータを用いた業種特化型のプラットフォーム(PaaS)を核としたサービスの具現化が進むと予測。ビッグデータを用いた売上・収益の拡大を目指すものが出てきており、こうしたサービスのビジネスモデルはPaaSから、SaaSやBPO(Business Process Outsourcing)サービスへと移行していく見ている。

6)2013年はSDN市場元年となる

 中村氏は、2013年はSDNが先進ユーザーで本格実装が始まるとした。実際の導入現場で一番のポイントとなるのがスケーラビリティだと指摘。2013年には、何千台のサーバーを仮想化環境で使うための課題が露呈し、対策が進む。これにより、SDN市場における勝者と敗者が見えてくるだろうと述べた。

 こうした実験的導入の経験をもとに、2014年からはSDN市場は成長期に突入。SDN市場の拡大と共に、データセンターの変革が加速。SDNに関連するハードウェア、ソフトウェア、サービスで形成されるエコシステムは、2016年において300億円以上の市場規模になると予測する。

7)コンバージドシステムをめぐる競争がサーバーベンダーの生き残りを左右する

 第3のプラットフォームを支えるIT機器(サーバー、ストレージ、ネットワーク機器)に求められる要件は、標準化、均一化しており、システム全体の信頼性は、仮想化環境の管理レイヤーで担保している。

 ハードウェア単体での差別化は難しくなっており、ハードウェアと運用管理ツールを組み合わせたコンバージドシステムとして製品化が進んでいる。2013年のIT機器ベンダーの競合はこの点に集約されると指摘する。

 一方、現在稼働中の既存のシステムとの整合性、統合、動作保証を行い、それを通じた既存顧客の維持という課題にも直面することになると指摘。ベンダーにとっては既存システムとの整合性、動作保証、保守運用などどこにベンダーの優位生を保持・訴求することが鍵になるだろうとした。

8)第2のプラットフォームベンダーによるビッグデータビジネスは苦戦し、IT企業と非IT企業の合従連衡が加速する

 2013年の企業のビッグデータテクノロジーサービス支出額は約279億円で、IT市場規模全体に占める割合は0.1%にすぎない。しかし、対前年比成長率は約42%と非常に高く、注目される市場だとした。ビッグデータに関連するビジネスモデルは、(1)ユーザードリブンな未来志向的ビッグデータビジネス、(2)テクノロジードリブンな第2のプラットフォームの拡張、(3)サービスドリブンなビッグデータアウトソーシングビジネスの3つに大別されると分析。

 (1)のユーザードリブンな未来志向型は、カスタマーインテリジェンス、リスク管理、研究開発、業種特化型ソリューションやスマートシティなどのスマートプロジェクトなど、ユーザードリブンで採用されるケースを指す。

 (2)のテクノロジードリブンな第2のプラットフォームの拡張とは、ビッグデータを操るための技術やサービス自体を、第2のプラットフォーム=サーバー・クライアント型業務の改善に役立てるというもの。ビッグデータ自体を扱うのが目的ではなく、既存IT強化のためにビッグデータの技術が用いられるケースを指す。

 (3)サービスドリブンなビッグデータアウトソーシングビジネスとは、社内に埋もれているデータを預かり、または収集代行するビッグデータインフラから、実際のアナリティクスまで提供するアウトソーシングビジネスを指す。

 3つのうち、注目されるのは(3)のケースで、現在、アウトソーシングビジネスやデータセンタービジネスを手掛けているITベンダーやデータ分析などのBPOを手掛けるプレイヤーが中心となって、2013年は急速にビッグデータサービスメニューが整うだろうとした。(3)のビッグデータビジネスは、クラウドを前提としており、前述の業種特化型プラットフォームと結びついて、IT企業と非IT企業による合従連衡に存在感を発揮するベンダーが出てくるだろうと予測。「こうした中で、うまいビジネスモデルを作り出せた企業が頭角をあらわしてくるのではないか。」(中村氏)

9)企業向けソーシャル技術の活用ターゲット市場が明確となり競争が始まる

 IDCでは、ソーシャルネットワーキング技術を利用して、企業内コラボレーションを効率化する製品を「エンタープライズソーシャルソフトウェア」として定義。この市場は、2013年に前年比51.9%で成長すると予測している。

 中村氏は、「SNSは、現状では約7割の企業が導入目的がわからない状態」だと指摘。その上で、2013年の活用ターゲットは、コンタクトセンター、人材リクルーティング、O2O(Online to Offline)マーケティングなど、非常に目的が明確な分野で導入が進み、明確なターゲットを持つ業務アプリケーションとの連携/融合が起こり始めると予測。

 ベンダーは、既存アプリケーションとソーシャルネットワーキングテクノロジーの連携・融合の仕組みを開発するか、または連携の仕組みをAPI(Application Programming Interface)などによってオープン化することにより競争力を強化する必要性が顕在化するとIDCでは予測する。 「APIを公開し、より広くAPIを利用してもらったところが勝つ」(中村氏)。

10)オフィス向けIT市場でITベンダーと複合機ベンダー間の主導権争いが始まる

 第3のプラットフォームが立ち上がり、急速に展開が進むと、ドキュメントの作成・承認・共有といったワークフローにも大きな変革が起きると指摘。また、業務の遂行場所に対する制約もなくなり、リモートワークを前提とした新たなワークスタイルが一般化する。

 その結果、オフィス業務を中心にサービスを展開する複合機ベンダーと、全社的なITプラットフォームとそのサービスを提供する従来のITベンダーの間で、両者を融合したサービスに対する市場争奪の機会が拡大すると予測。

 中村氏は、「プリンター業界は非常に危機感を持っており、スマートデバイスが浸透することで、紙はどちらかというと減少する方向になるのではないかと考えている。実際、わずかではあるが減っているという数字も出ている」と指摘。

 複合機メーカーが推進するオフィス向けITは、危機管理からワークフローの変革に進み、ドキュメントの作成・承認・共有・廃棄までを一括ソリューションで提供する方向に向かう。一方、ITベンダーはIT機器の管理統合に注力、ルーターもモバイルもPCも同じ土俵で管理できるソリューションが出てくると予測。

 中村氏は「ただし、ITベンダーはプリンターのことはわからない。複合機ベンダーはITベンダーの動きもわかるので、ITベンダーの動きも取り込める」とした上で、複合機ベンダー単体、あるいはITベンダーとの協業により、オフィスでITにかかる費用を一括して、運用も含めたマネージド・サービスという形で提供されるようになるだろうと予測した。

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