日立、国内外拠点間の通信速度を向上するWANアクセラレータ
日米間のファイル転送を約15倍に高速化
株式会社日立製作所(以下、日立)は11日、国内外拠点間のデータ通信速度を大幅に向上する「日立WANアクセラレータ GX1000」3モデルの販売を1月12日から始める。
新製品はグローバル展開する企業は事業所間でやり取りするデータが、製造業では2次元CADから3次元CADなどよりデータ容量が大きくなり、金融業などではデータ更新頻度が頻繁になっていることに着目。(1)グローバル間通信のように長距離伝送の際、通信性能が低下を抑止する独自アルゴリズム、(2)パケット廃棄率が向上する際に通信速度が低下することに着目しWAN回線の空き帯域を推定する、きめ細かいデータ転送量制御によるデータ高速化技術、の2つの技術を組み合わせ、WANデータを高速化した。
2スロットモデル(6000万円)、4スロットモデル(6500万円から)、8スロットモデル(7000万円から)の3モデルを用意。2スロットモデルについては、国内だけでなく海外での販売も開始し、同製品で2015年に100台、50億円の売り上げを目指す。
国内外拠点間の通信速度を大幅向上するWANアクセラレータ | 製品ラインアップ |
日立のネットワークソリューション事業は、通信キャリア向け、企業・官公庁向けの大きく2つに大別される。
「キャリア向け事業では映像データの利用が急速に拡大すると予測され、企業・官公庁向け事業ではクラウド活用によるネットワーク利用の増大が見込まれる。当社としては、コアコンピテンシーの強化・融合を行い、国産のネットワーク製品技術と独自のアプリケーションノウハウを融合させたネットワークアプライアンス製品の開発・推進が必須であり、今回の新製品はその第1弾となる」(日立 情報・通信システム社 ネットワークソリューション事業部の野村泰嗣事業部長)。
日立 情報・通信システム社 ネットワークソリューション事業部の野村泰嗣事業部長 | 日立のネットワークソリューション事業の概要 |
新製品開発のきっかけとなったのが、日立の中央研究所で進めてきたWAN高速通信技術研究と、事業所間でやり取りするデータ量の増大により、本田技術研究所が必要としたネットワーク高速化ニーズ、の2つが合致したこと。両社の共同研究により、今回の新製品が実現したという。
本田技術研究所 四輪R&Dセンター 開発推進室 CISブロックの桜庭俊典主任研究員は、「当社が利用するCADデータは急送に2次元から3次元化が進んでいる。3次元データは部品製造部門などでデータ共有するだけでなく、CGデータ化することで、営業部門が活用できるといったメリットもある。また、ビジネスのグローバル化によって、世界各地に新たな事業所の設立が進み、情報連携の必要性も高まっていることから、WANの高速化は重要な要素となってきた。今回の製品化を前に日立以外の事業者とも協議したが、複数のアプリケーションの連携利用している現状から、特定アプリケーションに限定しない汎用的な高速化、契約ネットワーク帯域を使い切れる技術が必要だった。この目的に合致していたのが日立で、今回の共同開発となった」と説明している。
今回の新製品の開発背景 | WANアクセラレータが求められる背景 |
新製品はガートナーグループの予測で、2012年に400億円規模とされるハイエンドWAN最適化装置市場をターゲットとしている。
「従来のTCPの課題の1点目は、送信パケットの到着確認信号を待って次のパケットを送信するため、通信遅延増加にともなって通信速度が低下すること。また2点目として、WANでのパケット廃棄により、通信速度が一定比率で低下することが挙げられる。こうした問題点を解決するために、確認信号を待たずにパケット送信を行い、WANの空き帯域を推定した細かなデータ転送量制御技術を開発した」(日立 中央研究所の長我部信行所長)
製品の特徴は、長距離であるほど遅延が見られるデータ通信を、独自のアルゴリズムによって性能低下することを抑止。実験では、日米間ファイル転送において約15倍の高速化を実現した。
また、速度低下の原因となっているパケット廃棄率の変化にも着目し、その変化やWAN回線の空き帯域をリアルタイムに推定。きめ細かいデータ転送量制御によって通信速度の低下を軽減した。
従来のTCPと接続性を保つため、導入の際には既存のシステムを変更せず、導入することが可能で、サーバーやクライアント側の設定変更は必要ない。
従来のTCPの課題 | 今回開発した技術 |
特徴の1点目、長距離伝送において効率的なデータ通信実現 | 特徴の2点目、パケット廃棄率の予測によるWAN回線の空き帯域を推定 |
「販売においてはグローバルな展開を計画しているが、まず国内向けに販売を開始。海外向けには2スロットモデルから提供を開始する予定となっている」(日立 情報・通信システム社 ネットワークソリューション事業部 ネットワークシステム本部の桝川博史部長)。
当初は、事業所間でやり取りするデータが増大している製造業、半導体ベンダーなどからのニーズを見込み、次に、データ更新頻度が高い金融マーケットが立ち上がると想定。さらに、キャリアのネットワーク装置増強にもマーケットがあると推測しているという。
ターゲット市場地域 | 東京、サンパウロ間の距離を再現したデモ環境 |
3次元のバイクデータ600MBをサンプルデータとして転送 | アクセラレータ使用時と非使用時では20倍の速度差に |