富士通、仮想化・標準化・自動化によるクラウド化を実現した「沼津ソフトウェア開発クラウドセンター」を公開


 富士通株式会社は26日、静岡県沼津市の富士通沼津工場内に設置した「沼津ソフトウェア開発クラウドセンター」を報道関係者に公開した。

4500名の技術者が利用可能なクラウド開発センター

沼津ソフトウェア開発クラウドセンターの概要

 今回、公開した沼津ソフトウェア開発クラウドセンターは、クラウド・コンピューティングの社内実践事例のひとつでもあり、開発環境を自動構築し、これを技術に貸し出すサービス。富士通の国内6拠点、海外4拠点の4500人の技術者が利用することができる。

 開発者は、必要な開発環境を上長に申請。これが承認されるとソフトウェア開発クラウドセンターのリソースを活用した開発環境が提供され、開発者はそれを利用できる仕組みだ。

 Windows、Linux、Solarisなどの各種OSに対応。51種類の仮想テンプレートを用意して、VMware、Hyper-V、LDomsといったVMを切り出して配備する。

 新旧含めて850種類以上のさまざまなサーバーを設置。現時点で2000VM規模の仮想ゲストで運用を行っており、年内には3000VMにまで運用規模を拡大する予定だ。

沼津ソフトウェア開発クラウドセンター。運用管理は5人で行っているという仮想システム環境を実現するサーバー
沼津ソフトウェア開発クラウドセンターの特徴。ソフトウェア開発者のためのセンターとなっている
2009年度に導入された仮想サーバー。1台のサーバーに10つのVMが載る集約度が高まっているのが特徴。VMotionなども対応するため配線数が増えている

 「開発環境を構築するには、これまでは開発者がサーバーを調達し、OSを選択し、セキュリティパッチを当ててといった作業を行う必要があり、ほぼ1日がかりとなる360分もの時間がかかっていた」(富士通の山中明執行役員常務)というが、これが、ソフトウェア開発クラウドセンターを利用することで、環境をコピーするだけで済むため、10分程度で準備ができる。

 「これは品質検証に時間をかけることができるというメリットも生んでおり、ソフトウェア製品の品質の向上にも寄与している」(富士通 計画本部ソフトウェア開発クラウドセンター・上田直子センター長)としたほか、「メインフレームのソフトウェア開発や、古いハードウェアの保守といった開発案件を除いて、開発の約7割がこのクラウド環境に移行した。国内6拠点の1800サーバーを、900サーバーに集約し、2億円の人件費削減をはじめとして、設備投資効率化、事務所スペース削減により、年間7億円のコスト削減効果がある」(山中執行役員常務)という。

被災しても迅速に復旧できる環境を構築

 開発環境は社内と外部を物理的に分離。SSL-VPN・LDAP認証とサーバー認証による二重の認証で利用環境を制限。開発環境を一元管理したセキュアにグローバル開発体制を実現しているという。

 さらに、「沼津のセンターのバックアップとして、富山にセンターを設置しており、6000万ファイルの開発資産を保持している。差分を毎日午前3時から自動転送しており、現在では一日30GB程度を4時間から8時間をかけてリモートバックアップしている。災害時も2時間以内に最重要業務を再開できるような環境にしている」(上田センター長)という。

こちらは2008年度に導入した仮想サーバー。1台のサーバーに5つのVMが載っている配線も2009年度に導入したものよりもシンプルだ
こちらは2007年以前に導入されたものだというここは2010年度に導入されるサーバー。これにより、合計3000VMの環境を実現する

国内6カ所の開発拠点を統合

6カ所に分散していた拠点を統合
富士通 山中明執行役員常務
富士通 計画本部ソフトウェア開発クラウドセンター・上田直子センター長

 もともと富士通では、開発サーバーを国内6カ所の開発拠点に分散して所有していた。

 「拠点ごとにピーク時を想定したサーバーを所有しており、無駄が発生していたこと、動作確認を行うプラットフォームの種類が増加することで、環境構築作業のスピードアップが必要という課題があった。実際、プラットフォーム数は2005年度と比較して、2009年度には約8倍に増加している。沼津ソフトウェア開発クラウドセンターは、2008年度から取り組みを開始しており、まずは開発環境の集約および仮想化からはじまった」という。

 社内にクラウド環境への移管を図るという説明を行い、約300件のアンケート集計したところ、仮想化によって起こる問題について、多くの開発者が誤解していることが浮き彫りになり、サーバー集約による実態やメリットなどの説明会を10回開催。個別に100時間をかけた調整会を行い、開発者の理解を求めたという。

 その後、開発ピークを避けて4カ月間に渡り、8トントラック40台を使って、サーバーを移動。これにより、賃貸ビル1棟を解約し、2億円のコスト削減が可能になったという。

 2008年5月から仮想サーバーの貸し出しを900VM規模でスタート。2009年度には、2000VMにまで利用環境を拡張した。

 だが、集約および仮想化によって、沼津ソフトウェア開発クラウドセンターの運用者に負担が増加したことで、開発環境の標準化、運用手順の標準化に着手した。

 「開発環境を調査したところ、348種類もの構成があることがわかった。だが、よく見てみると、似て非なるものが多く、パターン化できることがわかった。使用頻度が高い標準構成に『型決め』することで、51種類に削減段階的な標準化によって、開発者および運用者の負担を軽減することができた。これをOSだけでなく、ミドルウェアにまで運用手順の標準化を広げていきたい」という。

 さらに、今後は開発環境の自動配備や、運用の最適化に取り組む考えで、24時間利用が可能なグローバル体制とともに、構成や稼働状況を見える化し、適正な課金とリソース利用の平準化により、タイムリーな貸し出し運用が行えるようにするという。

 「今後は、プロダクト部門やSE会社を含めて、富士通グループ全体に提供する予定で、顧客のクラウド移行検証センターとしての活用も視野に入れている」という。

開発環境の集約・仮想化に着手段階的な標準化で、開発者・運用者の負担を軽減

 山中執行役員常務は、沼津ソフトウェア開発クラウドセンターの稼働に関して、「クラウドの社内実践によって、富士通自らのインフラコストの削減メリットがあるほか、クラウドを実践することで、クラウドに関するプロダクトや運用の知見をしっかりと身につけることができる。これをお客さまに提供していくことができる。こうしたことを泥臭くやっていくのが富士通らしさである」などとした。

 上田センター長は、「クラウド化の実践から得られたのは、ツールや仕組みではすべてを解決できないという点。全体最適を目指すという点で、トップの行動による強い意志表示が必要であり、現場で発生する悩みや不安を細かくとらえて、解消することも必要。また、最初から大きく初めて成果を出すことで、全体最適化に向けた改革を実行でき、横展開しやすくなる。開発者からは、もう以前の開発環境には戻れないという声が聞かれている。これまでの開発現場では、一度導入したサーバーは最後まで使い倒すという傾向が強かったため、古いサーバーが使い続けられるということもあったが、クラウド化によって最新のサーバー環境を活用できることから、本来の仕事であるソフトウェア開発に集中できるようになったという声もある」。

 「一方で、運用者側は、集約化と仮想化によって、環境構築のための作業負荷が高くなるという課題がある。しかし、全体最適化を進める推進役であること、クラウド化によるコスト削減効果が見込まれること、さらには、この実践の成果がお客さまに役立つという、センター運用のやりがいを再認識してもらうことが必要である」などとした。

1976年から稼働している沼津工場、敷地は東京ドーム15個分

沼津ソフトウェア開発クラウドセンターが入る富士通沼津工場のB棟

 なお、沼津ソフトウェア開発クラウドセンターが置かれている富士通沼津工場は、1976年に、メインフレームの生産拠点として稼働。1982年には、基本ソフトウェアおよびミドルウェアの開発部門も移管。ハード、ソフトを集約したコンピュータ生産の一大拠点となっていた。敷地は東京ドーム15個分に匹敵する53万平方メートル。工場内には茶畑などもあり、社員が手入れが行っている。

 現在、ハードウェアの生産は、石川県宇ノ気の富士通ITプロダクツに移管。沼津工場では、ハードウェアの評価および同社ソフトウェアの最先端開発拠点として、また富士通グループの技術者のための教育拠点としての役割を担っている。ソフトウェア技術者は、約1300人が勤務しているという。

 理化学研究所に納入する予定の世界最速を目指すスーパーコンピュータも、沼津工場で検証が行われている。

 工場内には、富士通コンピュータ事業の生みの親である故・池田敏雄専務取締役の功績をたたえる「池田記念室」や、富士通の歴史的製品を展示するDNA館が設置されているのも、同社のコンピュータ事業の歴史を振り返る上でも意義深い。

 一方、山中執行役員常務は、「2010年4月~7月のクラウドに関する新規商談は約1500件。2009年度1年間のクラウドの新規商談件数と同じ件数をわずか3カ月で達成している」とし、商談数が急増していることを示し、「そのうち、最も多いのがアプリケーション提供サービス(SaaS)であり、全体の54%を占める。お客さまサイトシステムのクラウド化(プライベートクラウド)は16%にすぎない」とした。

関連情報
(大河原 克行)
2010/8/27 06:00