日本のCEOはグローバル化への適応が最重要課題に~IBM調べ

「IBM Global CEO Study 2010」日本版を発表


 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は8月10日、今年5月に発表した世界のCEO(最高経営責任者)を対象に行った調査結果「IBM Global CEO Study 2010」について、日本のCEOの傾向を深く分析し、「IBM Global CEO Study 2010 Japan Report(以下、Japan Report)」として発表した。

 「IBM Global CEO Study」は、2002年から2年に1回のペースで発表している調査レポートで、2010年版は、昨年秋から冬にかけて、全世界で33業界1541人のCEOに直接インタビューを実施。そのうち日本からは、25業界171人のCEOが調査に参加している。

 今回、同調査結果において、世界各国のCEOの回答と、日本のCEOの回答の傾向に大きな差異がみられたことから、日本の視点をさらに掘り下げて分析を行った「Japan Report」を新たにまとめたという。

今後3年間で自社に最も大きな影響を与える外部要因今後5年間で自社が強い影響を受ける要因新たな経済環境に対する認識

 「Japan Report」は、(1)日本のCEOが考える現状と未来、(2)事業環境の複雑性を武器とする、(3)日本企業への示唆――の大きく3つテーマで構成される。

 まず、最初のテーマ「日本のCEOが考える現状と未来」では、日本のCEOは世界のCEOよりも外部環境変化に対する危機感が強く、特に「グローバル化」や「成熟市場から新興市場へのシフト」に適応する必要性を強く感じていると分析する。調査結果によると、今後3年間で自社に最も大きな影響を与える外部要因について、「グローバル化」と回答した日本のCEOは41%を占め、世界のCEO全体(23%)の約2倍であった。

グローバル・ビジネス・サービス事業 ストラテジー&コンサルティング 成長戦略コンサルティング パートナーの池田和明氏

 この結果についてグローバル・ビジネス・サービス事業 ストラテジー&コンサルティング 成長戦略コンサルティング パートナーの池田和明氏は、「世界のCEOは、以前からグローバル化を重要な経営課題と認識して、取り組みを進めてきている。一方で、日本のCEOは、これからグローバル化の適応に本格的に取り組もうとしている状況にある」と指摘した。

 今後5年間で自社が強い影響を受ける要因については、「『成熟市場から新興市場へのシフト』との回答が73%に達し、世界のCEO(50%)に比べて約2割高かった。このほかにも、『環境や社会問題に対する関心の高まり』、『業界構造の変化』、『人材不足』、『グローバル市場とローカル市場のバランス』といった項目で、世界のCEOの回答を大きく上回っていた。こうした日本と世界とのギャップが大きい項目こそ、日本のCEOが特に危機意識を強く感じているテーマだと認識している」(池田氏)という。

 また新たな経済環境に対する認識について、日本のCEOは、「変化が急激で、複雑で、かつ従来の構造と異なるパラダイム・シフトである」という認識を示す一方で、その将来動向に関しては「予測ができない」と回答した割合は38%と、世界のCEO(65%)に対して低かった。日本のCEOは、“事業環境の変化の方向性は予測できる”と考えていることがわかる結果となった。

 次のテーマ「事業環境の複雑性を武器とする」では、金融危機前までの長期的な利益成長と金融危機後の顕著な利益回復を実現した日本の上場企業を「花形企業」と定義。グローバルでの高業績企業が注力している3つの領域「組織に創造性を発揮させるリーダーシップ」、「顧客接点を新たな発想に作り変える」、「オペレーションに巧みさを追求する」に関して、日本企業および花形企業の傾向を分析した。

日本のCEOは人材改革に積極的日本のCEOはトップダウン志向を強めている花形企業のCEOはオペレーションのグローバル最適化を志向している

 これによると、日本企業の特徴は、「組織に創造性を発揮させるリーダーシップ」については、“創造性とグローバルな思考を重視”、“人材改革に積極的”、“迅速な意志決定を重視し、トップダウン志向を強めている”という。「顧客接点を新たな発想に作り変える」では、“顧客の期待を強く意識”、“価格と価値のバランスへの問題意識が強い”、“情報力を活用して顧客により近づこうとしている”ことがわかった。

 そして、「オペレーションに巧みさを追求する」に関しては、“グローバル最適化を志向している”、“複雑性を単純化しようとしている”、“外部との連携を活用している”ことがうかがえたという。「さらに、花形企業においては、これらの特徴がより顕著に見られた」(池田氏)としている。

 最後のテーマ「日本企業への示唆」では、日本企業には大きなビジネスチャンスがあることを示唆。「“日本経済”の潜在的成長率は1%程度といわれるが、“日本企業”としての潜在成長率は、グローバルにみれば日本経済のそれに制約されるものではないと考えている。今後、世界の経済成長の制約条件はエネルギー問題であり、日本企業はエネルギー問題の制約緩和を通じて成長していくことが期待できる」(池田氏)とし、グローバル化の中での戦略シフト、オペレーション改革、そして人材改革を推進することで、日本企業は高度成長期に入ることができると提言した。

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(唐沢 正和)
2010/8/10 17:05