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日本IBM、企業教育研究会と共同で中学生向け授業プログラムを開発

未来のデータサイエンティスト育成を推進

日本IBM マーケティング&コミュニケーションズ 社会貢献 部長の小川愛氏

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は11日、社会の変化を前提とした学校教育における教育内容の拡充と、未来のデータサイエンティストの育成を推進するため、特定非営利活動法人企業教育研究会(以下、企業教育研究会)と共同で、ビッグデータ分析に関する中学生向け授業プログラムを開始すると発表した。

 授業プログラムの発表にあたり、日本IBM マーケティング&コミュニケーションズ 社会貢献 部長の小川愛氏が、同社におけるCSRの方針について説明。「当社は、1911年の設立当初から、“良き企業市民たれ”を基本精神に掲げ、IBM初代社長トーマス J.ワトソンの『ビジネスを展開するということは、その地域社会に対しても責任をもつということだ』という言葉に基づいたCSR活動を行っている」という。

 また「そして、このCSRの一環として社会貢献活動に取り組んでおり、『教育改革・学術の発展に対する支援』、『社会支援』、『経済発展に関する支援』、『都市の課題解決および社員による地域に密着したボランティア活動の支援』の4つを重点分野に設定している。この中でも、特に注力しているのが『教育改革・学術の発展に対する支援』で、今回、同分野における新たな取り組みとして中学生を対象にした授業プログラムを展開する」(小川氏)と述べた。

IBMの社会貢献活動の重点分野

 ビッグデータ分析に関する授業プログラムを開発した背景については、「昨今、ビジネス界ではビッグデータやデータ分析に大きな注目が集まっている。また、データサイエンティストという新たな職種へ広がる可能性があることから、政府からも期待が寄せられている。さらに、今後のキャリア教育として、将来の職種を検討する早い段階から、データサイエンティストの可能性を紹介していくことが必要になってきている」(小川氏)と指摘。

 「当社では、以前から理数系(STEM)に特化した教育プログラムを提供してきたが、これからは、次世代の育成に向けた教育プログラムも必要であると考えた。そして、ビッグデータの活用によって企業や社会を支援している企業として、データサイエンティストの入り口となる、中学生向けの新しい授業プログラムを開発した」(小川氏)としている。

 今回開発した授業プログラムは、未来のデータサイエンティスト育成プログラム「数学が分かると未来が見える!?-社会の中のデータ活用-」。日本IBMと企業教育研究会が連携協力を行い、日本IBMが社会の中でデータが活用されている事例を紹介し、これをベースに、企業教育研究会が教育現場のニーズに合わせたかたちで授業プログラムを開発したという。中学生が数学や統計的な手法を身近に感じながら活用できるよう、未来の学校における選挙予測を題材とした授業プログラムとなっている。

千葉大学教育学部教授で企業教育研究会 理事長の藤川大祐氏

 千葉大学教育学部教授で企業教育研究会 理事長の藤川大祐氏は、「コンピュータ技術の発展やインターネットの普及によって、大きく社会が変わっている中で、学校教育における教育内容に関しても、社会の変化を前提とした検討が必要となっている。特に大きな変化の一つが、統計的手法を採用する『ビッグデータの活用』だ。中学校では、数学の授業で『資料の活用』の強化が推進されて始めているが、実社会との距離はかなり大きいのが実情。そのため、ビッグデータの活用に関して、義務教育段階で概観できる授業が必要であると考え、中学3年生を対象に授業プログラムを展開していく」と、今回の授業プログラムの教育的意義について語った。

 授業プログラムの開発にあたっては、(1)データの規模を数万件程度とする、(2)「未来の学校の選挙予測」を扱う、(3)デジタル教材を扱い、ゲストスピーカーを招く--の3つを基本方針に掲げた。

 「ビッグデータの活用につながる授業プログラムを目指す一方で、中学生が限定された時間でデータの全体を把握できる規模として、データの規模を数万件程度に絞った。また、類似の実例があるもののうち、数万件程度のデータを扱う設定でも成立しうるものとして、『未来の学校の選挙予測』を題材に取り上げることにした。そして、架空の設定でテンポよく授業を進めるために、静止画や動画を多く使うデジタル教材を作成。また、ゲストスピーカーとしてデータ分析の仕事をしている人を教室に招き、デジタル教材のストーリーの中に登場場面を設けた」(藤川氏)と説明している。

 なお、授業プログラムで使用するデジタル教材は、報道番組やある種のテレビドラマに近いデザインとし、生徒を「西暦2200年の巨大な学園の新聞部の生徒」の立場に立たせて、新聞部部長から与えられる選挙予測報道に関するミッションに向かわせるというシナリオになっている。

中学生向け授業プログラムのデモ
中学生向け授業プログラムで使われるデジタル教材

 日本IBMでは、今年7月に、千葉大学教育学部附属中学校3年生の選択数学授業で、今回開発した授業プログラムを活用して、1コマ45分の授業を試行したという。「授業を受けた生徒の感想は非常に良いもので、データを扱い、分析し、将来を予測する面白さを体感してもらえた。また、ストーリー性のある楽しい演習、および社会とつながる数学が、学習への関心度を高めることが分かった」(藤川氏)としている。

 今後は、2015年3月までに練馬区立上石神井中学校、港区立御成門中学校、四街道市立四街道中学校で授業プログラムを展開し、未来のデータサイエンティスト育成を推進していく考え。

唐沢 正和