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「IoT×クルマ」の未来も間近、ITS世界会議での要点を紹介

「自動車ビッグデータでビジネスが変わる! プローブカー最前線」

 9月7日~11日にかけて、第21回ITS世界会議デトロイト2014(以下、ITS世界会議2014)が開催された。今回の会議テーマは「Reinventing Transportation in our Connected World(つながる世界で、あらたな交通の創世へ)」。クルマとビッグデータ、あるいは自動走行などに関してさまざまなセッションが行われた。

 そのトピックスを紹介するプレスセミナーが16日、東京都内で開催。主催は「自動車ビッグデータでビジネスが変わる! プローブカー最前線」を発行したインプレスR&Dで、その著者である三菱総合研究所の杉浦孝明氏と、シンガポール国立大学の佐藤雅明氏が、ITS世界会議の内容を踏まえつつ、クルマの未来に関する最新動向を紹介した。

 ITS世界会議とは、1994年に第1回がパリで開催されて以降、毎年秋にヨーロッパ、アジア、アメリカの3極持ち回りで開催される国際会議。ITS(Intelligent Transport Systems)の関係者が一堂に会するほか、世界の完成車メーカーのトップや各国政府の要人が参加し、今後の自動車、道路のITについての新技術や政策を発表・議論する。2013年は東京で開催され、世界69カ国から約4000人が参加した。

進展するクルマの「自律運転」

三菱総合研究所の杉浦孝明氏

 杉浦氏によると、今回のトピックスは「自動運転」「クルマ同士の無線通信による安全運転支援システム」などのいわゆる「自律運転(Autonomous Driving)」と呼ばれる話題だった。

 「自動運転」については、関連技術の開発も活発で、デンソーが補正したGPS信号のみで先行車両を自動的に追随する自動運転デモを実施。それ以外にも、各社がミリ波レーダーやカメラなどのセンサー技術、ドライバの状況を監視するモニタリング技術、GPSなどの位置特定技術、無線通信技術などに関連する先進技術を展示。「今後5年以内に、部分的にドライバをサポートする安全機能が次々と実用化される見込み」(杉浦氏)という。

GMやトヨタなどが自動運転技術を出展
今後5年以内に、部分的にドライバをサポートする安全機能が実用化される見込み

 一方、「クルマ同士の無線通信による安全運転支援システム」については、2014年2月に米国運輸省・連邦道路車両安全局(NHTSA)が、同システムのための車載機を将来的に義務化する意志を見せたのが要点。日本ではあまり伝えられていないが、この策定作業が順調に進むと2020年頃には米国のすべての新車に車載機の義務化が発効されると推察される。

 技術的には、従来のカメラやレーダーなどを使った自動ブレーキでは回避が困難な、前方車両急ブレーキ時の追突といった状況での安全運転支援システムが実用化される見込みで、GMが車車間通信用の車載機を搭載した車両を、2年以内に商品化すると表明したという。

クルマ同士の無線通信による安全運転支援システム

IoTはクルマから始まる、すでに実サービスも

シンガポール国立大学の佐藤雅明氏

 続いて登壇した佐藤氏は、クルマとIoT(モノのインターネット)に関する話題を紹介。ITS世界会議2014でもセッションの3分の1はプローブ情報(クルマから送られてくる位置情報や交通情報など)に関するものだったという。

 クルマには100~300以上のセンサーが搭載され、さまざまな情報が収集されている。それらを事故検知、車内・周辺環境の把握、走行制御などに活用するための環境がすでに整い始めており、「IoTはクルマから始まるのだろう」とも期待されている。

 佐藤氏によれば「クルマは電源搭載で常に人間とともに移動するもの。災害時には人を守る空間になる。また、世界中のあらゆる場所に偏在するため、めまぐるしく変わる周辺環境をずっとセンシングして交通渋滞、事故、天候の急変を伝えたり、あるいは走行状況や車両挙動を新型車の開発にフィードバックしたり、さまざまな活用が始まっている。こうしたクルマの情報は“宝の山”であり、まさにIoTのキーデバイスになり得るもの」というのが業界の認識だという。

 実際に、ホンダの「インターナビプレミアムクラブ」、トヨタの「G-BOOK/T-connect」、日産の「カーウイングス」など、プローブカーを活用してリアルタイム情報を提供する多くのサービスが始まっている。これらプローブ情報システムは世界に先駆け日本が先導しているが、海外も含めれば、41カ国でのリアルタイム交通情報を提供する「Nokia Here」をはじめ、TomTom、Google、INRIXなどからプラットフォーム系サービスが提供されている。

IoTはクルマからと期待がかかる
プローブカーを活用してリアルタイム情報を提供する多くのサービスが始まっている

 実サービスとしても、走行距離連動型保険(Pay-As-You-Drive)や運転行動連動型保険(Pay-How-You-Drive)が実現するほか、シンガポールでは料金所のロードプライシング(日本でいうETCのような)に近づくと、GPSの位置情報とケータイ通信網を使って料金を支払う仕組みを検討されており、「シンガポール全域でプローブ情報が利用されるチャレンジングな取り組みも始まっている」(佐藤氏)という。

今後の展望――国際標準、オープン化、プライバシー

今後の展望

 一方、こうした技術・市場を発展させるには越えるべきハードルも存在する。まず求められるのが、国際協調・標準化だ。クルマは製造国を越えて他国でも利用される。例えば、日本で走るドイツ車の情報がドイツに送信されては意味がない。そこで世界中で標準化された仕組みを作っていく必要があるのだ。

 国際協調・標準化としては、プローブ情報の標準化やデータフォーマットの策定、個人情報保護の基本原則などを策定する「ISO/TC204」、ITの観点からクルマ情報に関するWeb APIの標準化を進める「W3C(Automotive and web platform business group)」、日本・米国・欧州の行政などが主体となる「Japan-US-European UNION Probe Data」が代表的な取り組みとして進められている。

 また、プローブ情報の活用が自動車産業に閉じてしまえば、交通情報のみに用途が限定されかねない。より広い市場とするためには、「オープンプラットフォーム化」も重要で、他産業も含めた多様なサービスが創出される土壌を作っていく必要がある。「ただし、安心・安全であることが前提なので、オープンであっても“秩序のあるプラットフォーム”とすべく、現在議論が進められている」(佐藤氏)という。

 オープン化に伴う懸念としては、プライバシーとセキュリティの問題が大きい。プライバシーに関しては例えば、自分がいつどこにいたかが漏れれば、ストーキングや誘拐に悪用される恐れもある。そこまで極端な話でなくとも、速度情報がスピード違反の取り締まりに利用されたりすることも考えられるという。住所・氏名などの直接的な個人情報は保護すればいいが、単体では個人情報とならないような位置情報も、そこから思わぬ情報が類推できてしまう課題が本質的に横たわっている。

 業界でも慎重に議論が進められており、方向性としては、「脅威とその悪用の容易性のバランスを取りながら、プローブ情報を活用するために最低限守るべき心構えは何か」ということを確認している段階。ある桁数の数字にはマスキングを、といった各論ではなく、基本的なルールを決めて、各国のメーカーと相談しながら、プローブ情報が広く活用されるにはどういう取り決めが最適かを決める。あとはサービスプロバイダが『こんなリスクがある』と明示してユーザーが判断するような、そんな枠組みが検討されている」(佐藤氏)という。

 セキュリティについては、自律運転の場合、最悪リモートからクルマを操られてしまう可能性もある。そこで自動車メーカーが中心となって「ゲートウェイ」をいかに作るかが検討されている。

 まだ一気通貫のブレークスルーには至っていないのが現状だが、「セキュアなことが大前提。その上でどこまで情報を出せるか」「元々クルマには故障診断のためのコネクターが搭載されている。それらをいかに安全に開放するか。いかにリモートからアクセスするか」といったことが議論されており、クラウドプラットフォームに蓄積された情報にアクセスすることで仮想的にクルマにアクセスする「拡張自動車」といった考え方も検討されているという。

川島 弘之