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「ワークスタイル変革」によるコスト削減は何億円? ネットワンが実践効果を公表

 2010年からワークスタイル変革を進めてきたネットワンが、そのコスト削減効果を公表した。果たして何にどれだけのコストを減らすことができたのか。

 ユニファイドコミュニケーション(UC)やデスクトップ仮想化(VDI)でどこでも働けるワークスタイル変革を進めてきたネットワン。現在では、全社的にVDIを導入(およそ2500名分)、OSやアプリはセンターサーバーにのみインストールした「仮想オフィス」を実現している。

 併せて、コラボレーションツールの充実やテレワーク制度の利用促進、固定電話の廃止などを進めてきたが、今回初めて「変革前(2009年3月)」「移行期(2012年3月)」「変革後(2014年3月・予測)」の3期に分けて、さまざまな観点からコスト削減効果を試算した。

 観点は「CAPEX(設備投資コスト)」「OPEX(運用コスト)」「リスク低減」「生産性向上」「イノベーション」の5つ。さらに細かくは60項目の数値を洗い出し、さまざまなコストの増減を足し引きした。

「変革前(2009年3月)」「移行期(2012年3月)」「変革後(2014年3月・予測)」の3期で算出
観点は「CAPEX(設備投資コスト)」「OPEX(運用コスト)」「リスク低減」「生産性向上」「イノベーション」

 結果として、2009~2014年の全期間合計で、設備投資コストは約1億5000万円、運用コストは約3億8000万円/年の削減、リスク低減と生産性向上でも約17億円/年のコストが削減できたという。

全体の結果

 以下、詳細に見ていく。

設備投資と運用費用は一時的なコスト増からの大幅削減

松本陽一氏

 設備投資コストは、「PCのハードウェア・ソフトウェア回収」「VDI導入」「固定電話回収」「ビデオ会議導入」などのコスト増減を算出。当然、移行期にかけてはVDI導入などのために投資が回収を上回り、2億250万円のコスト増となった。しかし、VDI移行が完了して物理PCが回収されるとコストは抑えられ、変革後は3億5400万円のコスト減が見込まれる。プラスマイナスで約1億5000万円のコスト減というわけだ。

 移行期にコスト増、変革後にコスト減となったのは「概ね予想通り」(ビジネス推進グループ 第2製品技術部長の松本陽一氏)。一方で、運用コストについては「若干予想外の数値となった」と同氏は語る。

設備投資コスト全体の増減

 運用コストは「PC・VDI管理」「端末故障・データ誤削除の復旧」「携帯電話の通信費」「交通費」「文書印刷費」などのコスト増減を算出。移行期には、既存PCを残したままVDI基盤を導入しているため、管理者の運用コストが増加。特にVDI導入初期のヘルプデスク費用がかさみ、移行期(2012年3月)には8871万円/年のコスト増となってしまった。

運用コスト全体の増減
運用コストのうちのPC・VDI管理コストの増減

 「これは想定外で反省点。従来、ITヘルプデスクを11名で運営していたが、VDI導入初期には特殊な問い合わせが急増し、VDIヘルプデスクを別途立ち上げざるを得なかった。問い合わせ件数も1カ月で約80件から約800件と10倍となり、これがコスト増に響いた」(同氏)。

VDI導入初期に専用ヘルプデスクを立ち上げざるを得ず
VDIユーザー数と問い合わせ件数の推移

 しかし、変革後は従来環境を対象としたITヘルプデスクの人員を削減できたほか、VDIヘルプデスクもノウハウが溜まるにつれ落ち着き、順次コストの削減が可能となった。また、仮想デスクトップではユーザー数が増えても「営業マスターテンプレート」「技術用マスターテンプレート」をコピーするだけでクライアント環境の設定ができるため、作業工数は大幅に減らせる。このため、変革期(2014年3月・予測)では、4億6692万円/年のコスト減となり、プラスマイナスで約3億8000万円/年のコスト減となった。

 運用コストとしてはこのほか、国内の出張をビデオ会議などに置き換えることで、移行期からしてすでに9623万円/年のコスト減を実現。文書印刷費もペーパーレス化を進めることで紙・トナーを削減し、3000万円のコスト減を実現した。これらは仮想オフィスを実現した変革後も効果が継続すると見込まれるものだ。

 加えて、ペーパーレスに関しては「紙・トナー代のみを算出しているため、コスト削減効果は3000万円と出ているが、エコ、セキュリティ向上などの副次的効果も得られる」(同氏)とする。

運用コストのうちの交通費の削減効果
運用コストのうちの文書印刷費の削減効果

 総括として「設備投資コストと運用コストは、移行期で一時的に増加するが、仮想オフィスでは大きく削減されることが分かった。よって、移行期間を短縮することが重要」(同氏)と指摘した。

リスク低減と生産性向上には即時効果

 リスク低減は「パンデミック・交通マヒ時の事業継続リスク」「オフィス罹災時の業務継続リスク」「PC盗難・紛失による情報漏えいリスク」「外部記憶媒体の持ち出しによる情報漏えいリスク」「ウイルス対策ソフトやパッチ更新漏れによるウイルス感染リスク」などから算出。

 ウイルス感染や情報漏えいリスクは過去発生した事故での対応時間をベースに、業務継続リスクは出社できない社員の割合と年間売上金額から金額換算した。なお、「オフィス罹災」は10年に1度と想定、「パンデミック・交通マヒ」は1年に1回と想定、「「PC盗難・紛失」は1年に2回と想定した。結果、移行期から8億4691万円/年のコスト減、かつ変革後も効果が継続するとの試算になった。

リスク低減によるコスト削減効果
リスク低減のうちの「パンデミック・交通マヒ」時のコスト削減効果

 生産性向上は「残業時間数の削減効果」「国内移動・出張に伴う時間の削減効果」「ビデオ会議によるコミュニケーション強化」「社内業務に費やす時間の削減効果」「決裁承認速度の向上」などから算出。

 削減できた時間をもとに時間単価から金額換算した。移行期の時点で大きな効果が得られたのが特徴で、特に仮想デスクトップとコラボレーションツールの活用により、テレワークや直行・直帰による時間の有効活用が実現、残業時間の減少に寄与した。また、ビデオ会議やWeb会議の活用により、出張移動時間も削減され、結果として8億8490万円/年のコスト減となった。

 「ただし、これらはすべてがツールのおかげではなく、働き方の制度改革あってのもの。その点を踏まえると、リスク低減と生産性向上は移行期の時点で非常に大きな効果を示すことが分かった」(松本氏)という。

生産性向上全体のコスト削減効果
生産性向上のうちの残業時間の削減効果

 松本氏は今回の効果測定の目的を「『本当に導入して効果があるの?』や『定量的に表現できないの?』というお客さまから必ずいただく質問に答える言葉を持ちたかったから」と説明。いままでまったくこうした数値化はできておらず、算出ロジックの確立から取りかからなければならなかったという。「今回、評価手法を見える化できたため、今後は数値を残す文化を形作りたい」とした。

 今回の内容は顧客とも共有する方針。同社は、次世代ICT環境を体感できるデモセンター「ソリューション・ブリーフィング・センター(SBC)」を運営しているが、そのメニューの1つである「ネットワン社内リファレンス」にてより詳細に説明するという。

川島 弘之