「もうPCの企業ではない」~米Dell副社長にサービス部門の戦略を聞く


 「DellはもうPCの企業ではない。ソリューションとサービスの会社である」――。こう話すのは、米Dell サービス部門 インフラストラクチャー&クラウド・コンピューティング担当副社長兼マネージング・ディレクター、ケビン・ジョーンズ氏だ。コンシューマ向けPC販売で知られるDellは、どう変わってきたのか。サービス部門でビジネスを行っている同副社長と、サービス部門 アジア太平洋地域/日本担当副社長のジェラルディン・マクブライド氏(肩書きは当時)に話を聞いた。

 

オープンなソリューションを心がける

――まず、Dellのサービスビジネスの特徴を教えてください。

米Dell サービス部門 インフラストラクチャー&クラウド・コンピューティング担当副社長兼マネージング・ディレクター、ケビン・ジョーンズ氏

ジョーンズ副社長
 他社との違いは、大きく4つの面があります。

 1つは、顧客にフォーカスするするという点です。今はソリューションとサービスの会社になったとはいえ、Dellはもともと直販の会社ですから、お客さまの声に耳を傾けるのは慣れているのです。

 2つ目は、グローバルレベルでエンドトゥエンドのサービスを提供している、数少ない企業だということです。データセンターからクラウドまで、サービスとソフトウェアを展開しています。1つの企業でこうしたものをすべて提供できるのは、お客さまにも大きな価値があります。

 3つ目は、既存の事業領域にも積極的に投資をしている点ですね。買収というのも1つの投資ではありますが、それだけでなく、自社に向けての投資も積極に行っています。

 最後に、プロプライエタリではないオープンソリューションを心がけている、ということがあるでしょう。オープンで機能性が高く、お求めやすいソリューションを信条にしていますから、そのためにマルチベンダーサポートをしますし、クラウドアーキテクチャはオープンソースのOpenStackを基軸にしています。

――オープンという点で、ミドルウェアに関してはその通りかもしれませんが、ハードウェアはやはり自社製品が中心なのでは?

ジョーンズ副社長
 サービスの部分にフォーカスをしているので、これまで以上に、当社以外のハードウェアについてもオープンになってきています。そうしていかないことには、当社の戦略を実現できない部分もあるので、マルチベンダー化には力をいれているのです。

 当然ながら、サービスビジネスの観点から行くと、あらゆるハードウェアをサポートしていかなければいけないですから、マルチベンダーのサポートを提供していまして、あらゆる他社のハードウェアのサポートも行っています。

 特に、モビリティ関連ではマルチベンダーになっていますね。というのも、多くの企業や組織では、社員に対して個人のモバイルデバイスを使っていいという(BYOD)の風潮になっていますから、マルチベンダーを進めなければいけません。

――次に、サービスビジネスの戦略を教えてください。

ジョーンズ副社長
 「正しい人材」「適切で優れたプロセス」「しかるべきテクノロジー」の3つを提供することです。お客さま側のビジネス戦略とIT戦略のギャップを、この3つで埋められると思っています。

 ビジネスとITの垣根はどんどんなくなってきていますし、今では、ITはすべてのビジネスにかかわっているので、IT=製品といっていい状況です。インフォメーション、インテリジェンスを製品にしているお客さまも多く、だからこそ質の高いITソリューションの重要性が増しています。そこにこそ、当社のサービス部門が大きな価値を提供できるといるでしょう。

 ただ、当社がソリューションを提供するといっても、10年前のアウトソーサーのように大量に人を送り込んでやるのではなく、効果的なソリューションを提供する、といったやり方になります。具体的には、クラウド、モビリティ、コンサルティング、アプリケーション開発、インフラストラクチャといった分野でソリューションを提供しているのです。

――個々のソリューションのポイントは何ですか?

ジョーンズ副社長
 インフラのコンサルティングが、非常に大きな部分を占めています。当社では、専門性の高いコンサルタントをたくさん抱えており、彼らがお客さまのIT戦略において、立案のお手伝いをしているのです。また、大規模な案件のお手伝いができるのも強みです。データセンター、仮想化などで非常に大きな規模のデプロイができますし、Microsoft関連の手法も多く持っています。これらが大きな強みですね。

 

適切なクラウド戦略の立案能力が評価されている

――日本ではまだ発表されていませんが、米国ではクラウドビジネスを大々的に始めていますね。その分野での強みを教えてください。

ジョーンズ副社長
 当社では、セキュアなエンタープライズクラスのクラウドを提供することを信条にしています。中小企業から大規模な政府案件まで対応できるスケーラブルなものです。またセキュリティは非常に重要なことと考えていまして、1年前(編集注:2011年1月)にマネージドセキュリティベンダーのSecureWorksを買収したのもその一環です。ここでは、1日200億件のセキュリティイベントを検出しています。

 もう1つ、クラウドの特性としては統合能力に優れるということがあります。Boomiのインテグレーションエンジンは、システム統合に関するトップクラスのミドルウェアですが、当社ではこれを用いて、あらゆる要素を統合できるクラウド環境を提供しています。

 ただ、クラウドへの取り組みは長い旅になるでしょう。ハードウェア、ソフトウェア、サービスまで、完全なソリューションを提供できる当社が、その旅路の中でお客さまのお手伝いをできると考えています。

――サービス分野では、ほかにも強い競合がたくさんいると思いますが、後発ともいるDellのどこが、お客さまに評価されているのでしょう?

ジョーンズ副社長
 適切なクラウド戦略を立案するという能力を評価してもらっているのではないでしょうか。お客さまは今まで、大きな戦略の立案をせずに、その場しのぎのソリューションを提案されていましたが、全体的な戦略をスマートに立案し、そして大きな成功を収めていただいています。それから、Dellという企業にはパワーがありますし、サービスに関して非常に強いコミットをしているので、そこも評価していただいているようです。

 また、大きなサイバー犯罪がそこかしこで起こっており、この点に関してお客さまは繊細になっています。先ほども言及しましたDellのSecureWorksは調査会社からも高い評価を受けており、こうしたセキュリティの点でも選ばれていますね。

――日本市場に対してはどう見ているのでしょうか。

マクブライド副社長
 日本を含むアジア太平洋地域は、戦略的で高い成長を遂げている市場ですし、日本は米国に次ぐ、第2位の大きい市場です。データセンター、アプリケーションモダナイゼーション、セキュリティ、ビッグデータといった分野で期待できますし、最近関心の高いものに災害対策(DR)もあるようです。当社でも、日本以外にサイトを用意するお手伝いができるでしょう。

 またクラウド戦略においても、アジア太平洋地域でもっとも大きな市場といます。ミッションクリティカルなアプリケーションをクラウドへ移行するお手伝いもしていますし、ハイブリッドクラウドについても強みがあります。

 一方、特にモバイル領域において、ITのコンシューマライゼーション(コンシューマ化)も顕著になってきました。Dellではデスクトップからモバイルまでのライフサイクル管理を提供できます。

 これらの点で、日本ではエキサイティングなビジネスチャンスがあると思っています。

ジョーンズ副社長
 旧来のハードウェアのビジネスもあるでしょう。エンタープライズサーバー市場でも当社は一、二を争うベンダーで、お客さまやパートナーと長い関係を築いています。そしてそこだけにとどまらず、完全なソリューションを期待している声も多いのです。

 クラウドでは、FacebookやAmazon.comのような名高いクラウドビジネスのインフラを手掛けており、深い造詣があります。日本市場で、プレミアなクラウドサービスプロバイダとして知名度を上げていきたいという野望を持っていますので、日本市場でも大きな投資をしていくつもりです。

――ただ、まだ日本市場では、サービスベンダーとしての知名度が十分とはいないと思います。今後、どういう点を訴求していくのでしょうか?

ジョーンズ副社長
 3つあると思っています。

 1つはマーケティングです。デルが持つサービス提供能力がどれだけあるのか、という点をお客さまに浸透しきれていないですから、イベント、セミナーや個別のお客さまへ訪問などで、情報の共有をしていきたいと思います。

 2つ目は人材の育成強化です。特にサービスデリバリでは“人”がかなりの重要性を占めますから。

 最後に、事例をたくさん作ることですね。このためにも、実績をたくさん作っていく必要があるでしょう。

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