日本マイクロソフト、Azure BDM Councilを開催

9社が参加し、クラウドサービスにおける課題について情報交換


日本マイクロソフトが開催した「Azure BDM Council」の様子

 日本マイクロソフト株式会社は25日、「Azure BDM(Business Decision Maker) Council」を開催した。

 Azure BDM Councilは、Windows Azure Platformを活用しているユーザー企業の代表者を対象に、今年2月から毎月開催しているもので、今回で3回目。情報交換のためのユーザー会と位置づけており、これまでには、「価格設定と課金方法」、「販売/マーケティング」をテーマに、Windows Azure Platformにおけるメリットや課題などについて情報交換を行ってきた。日本マイクロソフトでも、クラウドサービスを活用しているユーザーの生の声を聞ける場として重視しているという。

 今回は、4月24日、25日の2日間に渡って開催されているWindows Developer Daysにあわせて実施。「クラウドに対するユーザーの不安に、サービス提供者としてどのように対応しているか」をテーマに開催した。

 Azure BDM Councilの様子を報道関係者に公開するのは初めてのことだ。

9社から参加、それぞれの立場から意見交換

Azure BDM Councilの目的

 参加者は、ワンビの加藤貴社長、インディゴのサービス&ソリューション事業部長の道場弘圭氏、電通レイザーフィッシュの得丸英俊社長、同アカウント1部の高林努部長、宝印刷の青木孝次取締役常務執行役員、ムビチケの高木文郎社長、同事業開発部門シニアコンサルタントの貝原健男氏、エムオーテックスの高木秀人取締役執行役員、カブドットコム証券の社長付IT戦略担当の谷口有近氏、日本交通の野口勝己取締役統括マネージャー、ぴあメディア局映画グループ長兼「ぴあ映画生活」編集長の岡政人氏と、モデレータとしてアクティブ・ブリッジの岡部恵造氏の12人が参加した。

 クラウドでサービスを提供しているISVや、クラウドを活用してB2Cサービスを提供している企業など、それぞれの立場から意見交換を行っている。

 今回はまず最初に、過去2回のテーマを振り返った。

 1回目の「価格設定と課金方法」については、使う立場ではシンプルな課金体系を要求していることや、実績に基づくモデル費用が見たいという要望があることなどが挙がった。一方、課金する立場では、顧客に適切な価格とコストのバランスをどうするか、という点に加えて、クラウドのメリットを顧客に伝える難しさなどについての課題があること、日本マイクロソフトへの要望として、固定料金と従量課金のハイブリッド化や、スタンバイリソースコストの低減、富士通のFGCP/A5との価格体系の違いを改善する要望などが挙がったという。

 3月に開催した2回目の「販売/マーケティング」では、エンドユーザーに対する価値訴求について議論。「VARやリセラーでは、クラウドによって役割が変化しはじめ、エンドユーザーへの働きかけの手法も変化している。一方で、既存の枠組みにとらわれない賢いエンドユーザーが台頭しており、ここにおけるビジネスディシジョンメイクを行うユーザーに対して、クラウドの価値訴求、オンプレミスとのコスト差、環境への貢献といった点での価値を訴求していく必要がある」(アクティブ・ブリッジの岡部氏)と、議論の結果を振り返った。


初回のテーマだった「価格設定と課金方法」2回目は「販売/マーケティング」をテーマに意見交換が行われた

 

クラウドに対するユーザーからの不安と提供者側の対応は?

ユーザーが持つクラウドへの不安

 今回のAzure BDM Councilでは、「クラウドに対するユーザーの不安に、サービス提供者としてどのように対応しているか」という観点から、実際にユーザーから寄せられる声を持ち寄り、それに対する参加企業の意見とともに、日本マイクロソフト側からも回答が行われた。

 ワンビの加藤社長は、「日本の企業では、Azureを導入する際にIT監査のルールとして、運用するサーバーを物理的に視察したいという例があり、海外への視察が難しいため、クラウドサービスの導入を見送る例がある」と指摘。これに対しては、日本マイクロソフトでは、「マルチテナント化が一般化すれば、時代が解決すると見ている。マイクロソフトとしても独自のデータセンターの監査基準で安定運用を行っている」などとした。

 日本交通の野口取締役は、「サーバーや設備の不具合によって、サービスが停止しないのか、といった不安がある」と語る。同社では、全国37グループ、1万2500台を対象にタクシーの配車サービスを提供しており、特に地方のタクシー会社からこうした指摘があるという。「現時点では、全配車数の7%であり、1日400件程度。サービスが停止してもまだ影響は少ないが、スマートフォンが普及すれば、影響は大きくなる」と懸念する。また、「海外にサーバーがあるということで不安を感じる地方のタクシー会社もある」と語る。

 宝印刷の青木取締役常務執行役員は、「クラウドのセキュリティに対する不安を持つユーザーがある」とする一方、「必要な情報が手元にあり、東証などに必要な書類を提出することが、技術的には可能になっていても、社内のセキュリティルールとして、企業から直接書類を提出できないといった状況があるのが実態。こうした点を改善していかなくてはクラウドのメリットが生かせない」などとした。

 カブドットコム証券の谷口氏は、「利用者には、クラウドに対する知識がないことを背景に、不安を持っているケースが多い。海外にデータセンターがあるというだけで不安に思っている利用者がいる」とコメント。さらに「失敗した時のことを恐れて、クラウドに取り組まないということがあれば、非常に残念である」などとした。

 また、エムオーテックスの高木取締役執行役員は、「クラウドがどんなものであるかを知らないこと、そして手元にサーバーが見ないことでユーザーが不安を持っている例がある。一方で、パートナー企業からは、当社が自前でやるよりも、日本マイクロソフトのインフラを活用している方が安心といわれることもある」と語った。

 「マイクロソフトという信頼性の高い企業に情報を預けることができるクラウドの方が、むしろ安全であるというとを徹底的に訴求することが必要だろう」(宝印刷の青木取締役常務執行役員)との声もあがった。

 アクティブ・ブリッジの岡部恵造氏は、「セキュリティに対する不安そのものが漠然としたものである場合が多い。より具体化した不安に対して、ひとつひとつつぶしていく必要がある」とまとめた。

 映画チケットを販売するサービスを行っているムビチケの貝原氏は、同社のクラウドサービスが停止し、サービスを利用したユーザーが映画館に入れなかった問題が発生したことに触れながら、「自前のシステムであればすぐに対応できるが、クラウドではそれができない。運用のために提供している各種サービスを充実させていく必要がある」と要望。

 電通レイザーフィッシュの得丸社長は、「当社でも一瞬サービスが停止したが、原因が特定できないのが問題に感じる。その点では、今後の安定運用にも不安を感じる場合がある」などとした。

 日本マイクロソフトでは、「2月29日に発生したクラウドサービスの不具合においても、透明性を維持して、短時間に情報を公開した。現在、不具合の第1報は、米国ダラスのコールセンターで受けているが、これを日本で受けるようにするなど、日本が求めるクオリティを提供していくことに務めたい」などと語った。

 

クラウドのコストやセキュリティについても意見を交換

日本マイクロソフトのスタッフも参加して質問に対応した

 「クラウドでは、コストは本当に下がるのか」という点でも意見交換が行われた。

 ぴあの岡氏は、「移行と、サポート費用、それに伴う人件費などを考えると、結果としてコスト高になるのではないかという不安がある」と指摘。日本マイクロソフトでは、「ケース・バイ・ケースではあるが、サポート費用は下がる可能性はあるだろう」とした。
 また、「突然値上げをされることはないのか」(エムオーテックスの高木取締役執行役員)といった点や、「購入後に、逆にキャンペーンによって値が下がり、失敗した経験がある」(ワンビ・加藤社長)といった声もあがっていた。

 一方、日本マイクロソフトでは、Cloud Security Alliance(CSA)によるクラウドセキュリティのガイドラインに対して、Windows Azureがどう対応するかといった回答文書を英文で用意し、これを翻訳する準備をしていること、経済産業省ガイドラインに沿った形で「Windows AzureのセキュリティとコンプライアンスについてのFAQ」を用意していることなどを紹介。また、4月に品川本社に移転したマイクロソフトテクノロジーセンターについても紹介した。

 情報交換会の参加者からは、「さまざまな業種、立場の意見を聞くことができ、参考になった。今後のパートナーシップなどにもつなげていきたい」(インディゴの道場氏)といった声のほか、「刺激を受け、励みになることが多い情報交換会であった」、「自発的に意見が出てくる情報交換会であるのが特徴」などといった声が挙がっていた。

 なお5月には、東京・品川のマイクロソフトテクノロジーセンターにおいて、ハードウェアプラットフォームをテーマに開催する予定だという。

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