「拾うから選ぶ時代へ」MSと日本交通、クラウドとスマホでタクシー需要を活性化


 日本マイクロソフト株式会社は12月13日、日本交通株式会社と、タクシー業界における全国規模での配車サービスの展開で協業すると発表。全国のタクシー事業者13グループと提携し、スマートフォンでタクシーが呼べるサービスを12月13日より提供開始した。

 Windows Azure Platform上に構築したタクシー配車システムを利用し、スマートフォンアプリから最寄りの地点にいるタクシーを呼べるようにするサービスで、アプリ「全国タクシー配車」はiOS版とAndroid版を用意。Windows Phone版も1週間以内には提供を開始する見込みだ。


Azure上にシステムを構築、全国10地域13事業者からスタート

日本交通の川鍋一朗社長(左)と日本マイクロソフトの樋口泰行社長(右)

 日本交通では、今年1月18日からスマートフォンからタクシーが呼べる自社アプリ「日本交通タクシー配車」を提供。現在iPhone版とAndroid版のアプリを提供しているが、サービス提供後に多くの顧客から「全国のタクシーでも同様のサービスを利用したい」との要望が寄せられた。

 こうした要望に応えるため、日本交通では日本マイクロソフトの技術協力を得て、マイクロソフトのクラウド基盤Windows Azure Platformを使用して新サービスを開発。今回「全国タクシー配車」アプリのiPhone版とAndroid版、追ってWindows Phone版を無償公開する。

 当初は札幌、埼玉、東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、岡山、福岡の全国10地域で利用可能。日本交通の川鍋社長は、「1年以内に19の政令指定都市で利用可能としたい。また、スタート時点で参加している台数は総計8585台だが、3年以内に台数カバー率30%まで拡大したい。タクシーは全国で約20万台なので、6万台ということになる」と早急に全国展開したいという方針を示した。

 サービス運営は日本交通の100%子会社で旅行業システム事業を手掛ける株式会社日交データサービスが担当。タクシー会社は日交データサービスに基本料金プラス1配車あたりの課金を支払う料金システムとなっているが、日本交通の川鍋社長は、先に自社用アプリを開発した経験から、「同様のサービスを自社で構築するのに比べて、コストが10分の1以下であることは間違いない」と述べ、クラウドによって、サービス導入時のコストというハードルが大幅に下がることを強調した。

「全国タクシー配車」アプリで、自分のいるところがタクシー乗り場に。最も近くにいる車を配車するため、早ければ数分で乗れる「全国タクシー配車」アプリでタクシーを呼ぶ時の画面遷移。GPSによる現在位置を手動で正確な場所に修正して、タクシーを呼ぶ
タクシー配車が利用できない地域では、現在地から最も近い営業所を持つタクシー会社に電話をかけることができる料金も検索できるので、初めて行く場所でもいくらかかるかを心配しなくて済む


短期間・低コストでサービスを開発できるクラウドの特徴を活用

 日本マイクロソフト株式会社の樋口泰行社長は、「クラウドを利用したタクシー配車サービスを全国レベルで展開する『全国タクシー配車』は、デバイスからクラウドまですべてを包含したソリューション。短期間・低コストで新しいサービスを開発・展開できるという、クラウドコンピューティングの特徴が活用できた。また、企業の壁を越えて業界全体でサービスするような場合は、クラウドが有効に機能する」とクラウド利用の利点を強調。

 「いかに新しい発想で、新しいサービスを創出して需要を掘り起こすかが重要だ」と述べ、クラウドで日本の産業を活性化したいと述べた。

日本マイクロソフト株式会社 樋口泰行社長日本交通との協業の意義


「タクシーは拾うから選ぶ時代へ」クラウド活用で需要を掘り起こす

 日本交通株式会社の川鍋一朗社長は、「タクシーの1号車が大正元年に始まり、業界は来年100周年を迎える。ところが、いま運転手の賃金は他の産業平均より250万くらい低い。来年、タクシーが始まって100周年という記念すべき節目を迎えるので、業界をなんとか活性化したい」と業界活性化の必要性を強調。

日本交通株式会社 川鍋一朗社長タクシーは拾うから選ぶ時代へ

 川鍋社長は、「1カ月タクシーにのって、この産業はどういう産業なのか考えた。百年経っても、ほとんど構造が変わっていない。タクシーは選ばれないといけない。いまは流しが8割、電話で呼ばれるのが2割。流しでは、運転手も同じ人にいつ呼ばれるかわからない」と現在のタクシー事情を説明。

 「50周年で、無線が導入された。しかし、5分で行けるというのは運転手の自己申告でしかなく、本当に5分でいけるかどうかはわからない。たとえば、夜10時半ごろに千葉行きで1万円くらいになるコールがあれば、みんながそれを狙うので、実際には直近にいないタクシーも無線で行けると連絡してしまう。非常に非効率な世界だ。」

 「5年前にデジタル無線が入って、本当にいちばん近い車を配車できるようになった。しかし、ラスト1マイルで乗ろうという客をうまく掴むことが難しいという問題が残った。タクシーでは車も人も動いていて、ある意味究極のモバイルで、そういう産業は他になく、そこを捉えきれなかった」として、日本交通が独自でタクシー配車アプリをリリースするまでの経緯と問題点を語った。

 川鍋社長は、「タクシーは拾うから選ぶ時代へ」という標語を掲げた。日本交通のタクシー配車アプリはすでに14万ダウンロードされ、徐々に顧客がシフトしており、しかも一度シフトした客は二度と電話で呼ぶやり方には戻らないという。「顧客も新しい経験をしている。アプリで呼んで現在地へ2分で来た。アプリを利用した顧客は、迎車料金が400円かかることを知らない方もいる。普段タクシーを呼ばない人が呼んでいる。」

日本交通のスマートフォンアプリを利用してタクシーを呼んだ顧客の反応日本交通の営業地域外でもスマートフォンによる配車を利用したいという声が多くあった

 日本交通のアプリ利用の満足度が高い分、利用顧客からは「全国で利用したい」という声が多くあがっているという。日本交通のアプリは自社開発で、社内のスタッフ7人くらいで開発したが、自社開発アプリでは、タクシーは台風などの時に一気に集中するという問題もあり、他社を巻き込むのは難しいと判断。

 川鍋社長が何かいいソリューションはないかと情報をチェックしていたところ、配給会社や系列館の壁を越えた映画予約システムの「ムビチケ」がWindows Azure Platform上に短期間で構築されたというニュースを目にしたという。「これは企業の壁を越えたタクシー配車システムと一緒だと思った。そういう実績があるならマイクロソフトさんにお声がけしてみようということで、Azureの上で構築することになった」とマイクロソフトと協業するに至った経緯を語った。

 全国のタクシー事業者13グループと提携して全国10地域でサービスを開始できることになったが、今後より多くの事業者に参加を呼びかけることで利用可能な地域を拡充し、機能面においても、時間指定予約、空港定額タクシー予約、観光タクシー予約などの機能拡充を行っていくという。川鍋社長は、将来的には、介護タクシーにおいて身体状況を把握している運転手を指定できるようなサービスも提供していきたいとして、ITを利用することでよりユーザーのニーズにきめ細かく対応できるサービスを作っていきたいとの抱負を語った。


関連情報