「スーパーカミオカンデ」新実験解析システム、富士通が構築
より高精度なニュートリノ観測を実現へ
富士通株式会社は25日、東京大学宇宙線研究所付属神岡宇宙素粒子研究施設(以下、同施設)より、ニュートリノの観測を通じて宇宙の仕組みを解明する「スーパーカミオカンデ」の実験解析システムを受注したと発表した。2012年3月稼働をめどに構築を進める。
実験解析システムは「スーパーカミオカンデ」の検出器にある1万1000本以上の光電子倍増管から集められる膨大なニュートリノに関するデータを蓄積・解析するもの。太陽ニュートリノや大気ニュートリノのほか、超新星ニュートリノなど数十年に1度、十数秒ほどしか訪れないケースも確実に観測するため、24時間365日の安定稼働と、高速な解析処理、500GB/日におよぶ膨大な観測・解析処理後のデータを確実に格納することが求められるという。
新実験解析システムでは、「計算サーバー」「高速分散ファイルシステム」「ファイルシステム管理サーバー」「坑内実験サイトデータ処理システム」から成り、最新CPU・ディスクを用いて、従来システムより演算性能で約2倍、ディスク容量で約4.4倍、データ転送速度で約7倍向上している。スケーラブルファイルシステムソフト「FEFS」、HPCミドルウェア「Parallelnavi」なども採用し、高速・高信頼なシステムを目指す。
具体的に、「計算サーバー」はブレードサーバー「PRIMERGY BX922 S2」×142台(284プロセッサ、1704コア)からなるPCクラスタシステムにより、SPECint_rate2006で3万3000、従来比約2倍の演算性能を実現する予定。
「高速分散ファイルシステム」「ファイルシステム管理サーバー」は、ストレージシステム「ETERNUS DX80 S2」、テープライブラリ「ETERNUS LT270」×2台で構成し、ディスク容量は従来比約4.4倍の3.1PBを実現。用途に合わせてディスクアレイとテープライブラリで保存方法を選択できるようにする。
また「FEFS」により、284プロセッサ、1704コアからなる並列に置かれた「計算サーバー」からの同時大量アクセスに対し、従来比約7倍のデータ転送性能を引き出し、特定ユーザーによるI/O処理帯域の専有回避、ノードごとのI/O処理帯域保証を実現する。消費電力は従来比約22%削減される見込みという。
「坑内実験サイトデータ処理システム」は、岐阜県飛騨市神岡鉱山内に設置されるPCサーバー「PRIMERGY」×40台、ストレージシステム「ETERNUS DX80 S2」から成り、「スーパーカミオカンデ」の検出器にある光電子増倍管がとらえた観測データが送られてくる。観測データは本システムを通じて、ファイルシステムに転送されるため、特に24時間365日の安定稼働に念を入れる。
これら新システムにより、いまだ達成されていない快挙を目指す。
東京大学宇宙線研究所の早戸良成准教授は、「システムの性能強化により、超新星爆発時に飛来するニュートリノの解析に要する時間が短縮、さらには検出感度も向上するなど、これまで以上に精度の高い測定が行うことが可能となる。また、計算規模が大きい、大気ニュートリノのデータを用いた、ニュートリノと反ニュートリノの振動の違いについての詳細な研究も効率的に進められる。大幅に増加したディスク容量を生かして、より低いエネルギーの太陽ニュートリノのデータを取得し、その解析も進めていく。これらの研究により、ニュートリノの性質について理解を深め、宇宙の成り立ちの謎に迫り、これまで発見されていない陽子崩壊の探索、誰もなし得ていない大統一理論の実験的実証を目指す」と述べている。