量子コンピュータへ一歩前進、NTTと京大が新技術を開発


 日本電信電話株式会社(以下、NTT)と京都大学(以下、京大)は24日、量子コンピュータ実現への障壁を緩和する「誤り耐性技術」を開発したと発表した。

 量子コンピュータは、量子力学の原理により超並列演算処理が可能となり、現状のコンピュータをはるかにしのぐ性能が得られる。しかし、量子状態は外界の影響を受けやすく、演算においてある程度の「誤り確率」を持つ。このため、実現に向けては、多少の誤りがあっても訂正しながら計算を進められる「フォールトトレラント量子計算」の実装が必須になるという。

 誤り訂正のためには、誤り確率がある程度低い量子ゲート(量子計算に必須な基本ゲート。現在の情報処理におけるAND/ORゲートなどに相当するもの)が必要とされている。しかし、フォールトトレラント量子計算の実現に向けて、現実的なデバイスを考慮すると、どうしても誤り確率が高い量子ゲート(確率的ゲート)とならざるを得ず、これが障壁となっていた。

確率的ゲート

 今回の技術の特長は、誤り確率の大きなデバイスを用いても量子ゲートを実装できる点。量子ゲートの成功確率は小さくても構わず、誤りを検出して取り除ける形に量子ゲートを構成し、検出不能なエラーを小さくすることで、フォールトトレラント量子計算が可能になるという。

 具体的には、計算モデルとして「測定モデルの一方向量子計算」を導入している。

 量子計算モデルは、大きく「回路モデル」と「測定モデル」に分けられる。回路モデルは、量子状態が破壊されないように保ちながら量子ゲートを中に施すことで計算を進めるが、その結果、量子ゲートの誤りが蓄積されることが課題とされている。一方、近年研究の進む測定モデルでは、量子ゲートを用いてはじめに「量子もつれ」を計算リソースとして用意し、その後は処理の簡単な測定を行うことで計算を進める。「量子もつれ」が準備できた後は量子ゲートが不要となり、回路モデルのように計算中に誤りが積もらないという利点がある。

 「量子もつれ」とは、複数の量子間に量子力学的な相関がある状態のことで、例えば、「量子もつれ」状態にある2つの光子の場合、片方の状態が決まると、もう1方の光子がどんなに遠く離れていても、瞬時に同じ状態になるといった特異な性質がある。この性質を量子情報の伝送、演算に利用できるため、量子情報処理のリソースといえるわけだ。

従来の回路モデル

測定モデルの一方向量子計算

 また、誤り訂正符号として「トポロジカル符号」を導入した。

 従来の連結符号ではブロック符号を繰り返し用いることで誤り訂正を行うが、現実的な物理系を考慮すると必要な量子ゲート数が膨大になり、その結果として非常に小さな誤りしか訂正できないという困難がある。これに対してトポロジカル符号は、現実的な物理系をはじめから考慮して考案された新モデルであり、連結符号の課題を克服できるとともに、「量子もつれ」を予め準備して行う「一方向量子計算」を自然な形で実装できるという特長があるという。

従来の連結符号フォールトトレラント量子計算

トポロジカル符号フォールトトレラント一方向量子計算

 上記のように、一方向量子計算においては、リソースとなる「量子もつれ」を生成できれば、その後は簡単な操作で量子計算が行える。従って、リソースをいかにして生成するかが量子計算を実現する鍵になるが、今回、原理的には任意に小さい成功確率の量子ゲートを用いても、「分割統治法」(難題をいくつかの小さな問題に分割して個別に解決していく手法)を効果的に用いることでリソースの生成が効率的にできること――つまりフォールトトレラント量子計算が可能になることが示されたという。

 NTTと京大では「今回の研究成果は、量子コンピュータの実現に向けて、既存の技術を用いた低コストなエンジニアリングの可能性を示唆するもので、さまざまな物理系において実装法を再検討する期待が持てる。今後は具体的な実装法の検討および実証実験を進めていく予定」としている。

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