「パイの取り合い」に勝つためには?-日本HPが語るUNIXサーバー戦略


 日本ヒューレット・パッカード株式会社(日本HP)は24日、UNIXサーバー事業に関する説明会を開催。エンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括 ビジネスクリティカルシステム事業本部 製品マーケティング本部の上原宏本部長と、同マーケティング本部 製品企画部 担当マネージャーの山中伸吾氏が、同社の現状と取り組みを説明した。

エンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括 ビジネスクリティカルシステム事業本部 製品マーケティング本部の上原宏本部長
第2世代Integrityサーバーは好調という

 一般にも言われているように、UNIXサーバーの市場において、まったくの新規需要というのはそう多くはなく、基本的には何らかのシステムのリプレースが中心になる。大きくは、「既存のUNIXシステムのリプレース」「メインフレームからの移行」「x86サーバーからの移行」といった3つに分けられるが、やはり大きいのは、自社・他社製品を含めたUNIXシステムの更新であり、そういう意味で、「比較的、戦場が決まっているビジネスで、パイの取り合いの市場」(山中氏)といえる。

 こうした状況の中、2010年第2四半期(4~6月)の国内市場では、日本HPは41.5%でトップシェアを獲得(IDC Japan調べ)しており、非常に好調に推移しているという。上原本部長は、同期が好調な要因として、4月に発表した、Itanium 9300番台搭載の「第2世代Integrityサーバー」製品群を挙げ、「お客さま、市場が新しい当社のサーバー、Itaniumを待っていたということがある」と述べる。

 これを裏付けるデータとして上原本部長が提示したのが、意志決定支援システム環境における指標を示す「TPC-H」ベンチマークの結果だ。現時点で、3位を除く1位~7位をHPのハードウェアを用いたシステム(x86系を含む)が独占している現状を示し、「I/O性能までを考えた実環境に近いベンチを行えるTPC-Hでは、当社に圧倒的な優位性がある」として、日本HPの製品が提供できる価値が、顧客に支持されているとした。

 日本HPでは、4月に発表した3つの製品カテゴリのうち、最初はサーバーブレードを提供しているが、すでに、「UNIXでも、ブレードに対するお客さまのちゅうちょや抵抗はなくなっている」(上原本部長)そうで、この好調さが、市場での同社の伸びをけん引している。

 遅れて提供された最上位の基幹サーバー「HP Integrity Superdome 2」についても、医薬品流通業界大手のスズケンが医療流通最適化のIT基盤としての採用を決定したことを、先ごろ発表。さらに、「もともと支持されていた通信・流通業界のみならず、今までにない大きな流れとして、金融業界のお客さまに非常に興味を持っていただいている」(上原本部長)そうで、その理由としては「リーマンショックの影響からの復活が業界として早かったこと、利用率の変動の高いアプリケーションが多く、Integrityで用意されている従量課金の仕組みが評価されている」(山中氏)と説明している。

 加えて、3カテゴリ中では提供が最後になったラック型「HP Integrity rx2800 i2」も好調とし、システムのコントローラとして使うといった組み込み型、データセンターの制限によってラック型しか使えない、といった制約を抱える企業などから、すでに多数の引き合いを得ているとした。

 なお、こうした好調さは、日本HP市ヶ谷本社内の「HP実機体感センター」の盛況ぶりにも現れているとのこと。ここは、機器を選定・購入する際に、顧客が実際のハードウェアに触れたり、詳細な説明を受けたりできる施設で、2010年5月~9月24日までで、すでに68件の利用があり、多くの企業が導入を検討していることを伺わせている。

新たな顧客獲得を見据えたアプリケーション「曳家」施策

エンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括 ビジネスクリティカルシステム事業本部 製品マーケティング本部 製品企画部 担当マネージャーの山中伸吾氏

 しかし日本HPでは、この結果にはまだまだ満足していない。顧客の中には、新製品導入に積極的なところも数多く存在するのは確かだが、UNIXサーバーは、特にミッションクリティカル領域への導入が中心ということもあって、新製品の導入に慎重なところも非常に多い。こうした領域を獲得すれば、さらに売り上げを伸ばせるのだが、保守的な層に対しては、いくらハードウェアの性能をアピールしても、それだけで導入につなげていくのは難しい。

 そこで、同社が取り組んでいるのが、アプリケーションを同じ環境で長く使ってもらおうという「アプリケーション『曳家』施策」である。曳家というのは、家を解体せずに、そのままの形で移動させる手法のこと。「アプリケーションを動かすインフラが変わると、その上で動かすアプリケーションを、多かれ少なかれ直さないといけない。この際に、作り替えや膨大なテストのための工数、費用が発生する。家ごと解体せずに移動する、曳家のコンセプトを取り入れられないかと考えた。HP-UXは、いったん移行してもらえば長く使えるプラットフォームであり、その魅力を感じてもらいたい」(山中氏)というのだ。

保守的な層を取り込むための「アプリケーション『曳家』施策」を実施する

 そのために日本HPでは、大きく3つの施策を実施する。

最短で10年の長いサポート期間をアピール
第2世代Integrity先行貸出プログラム
HP-UX移行工房

 1つ目は、アプリケーションの利用可能期間を、より長くすること。OSが変わらなければ、アプリケーションはそのまま使い続けることができるが、もともと、HP-UXは業界で最長という「最低10年」のサポートを約束しているので、2007年に提供された現行のHP-UXは、最低2017年までサポートを継続するため、その間は、アプリケーションの改修は必要ない。さらに、提供当時のItanium 9100番台から、現在のItanium 9300番台、次世代のItanium(開発コード名:Poulson)までは、「同じOSを動作させながら、インフラを更新するだけで、性能を向上させられるメリットもある」(山中氏)。

 加えて、旧DECの流れをくむOpenVMSについても、3年ぶりの新バージョン「同 8.4」を発表し、第2世代Integrityサーバーに対応させ、顧客の投資を保護するとのこと。

 2つ目は、インフラ側に関する支援。ミッションクリティカルシステムの移行には、半年から1年程度の時間が必要になるにもかかわらず、発注したくても予算執行可能時期が遅い、現用サーバーのリース期間・保守期間の終了、といった問題により、その移行期間が十分取れない、ということはよくあるという。

 そこで、発注の最大6カ月前に、Integrityサーバーを顧客に先行して貸し出し、発注後も同じものを利用し続けられるようにする「第2世代Integrity先行貸出プログラム」、すでに新品が入手できないPA-RISC搭載サーバーの再生機を低価格で提供する「HP9000 再生製品特別キャンペーン」によって、第2世代Integrityへ安心して曳家できるように支援する。

 3つ目は、包括的に移行を支援する「HP-UX移行工房」。日本HPではすでに、「Solaris Migration Center」を2009年2月に開設し、Sun Solarisからの移行を支援してきたが、「ほかのプラットフォームでもやってほしいという要望がある」(山中氏)ことから、取り組みをAIX、Windows、Linuxといった領域にも拡大した。

 HP-UX移行工房では、移行方法の検討支援や、移行支援サービスの紹介なども執り行うが、実は、「一番重要なのは、コスト削減提案の支援をすること」(山中氏)なのだという。コストに大変厳しくなっている現在は、どんなユーザーでも、乗り換えによって、どれだけコストが安くなるのかを上申する必要が生じている。そこで日本HPでは、「コスト試算のお手伝いを無償で提供し、どの程度コストが削減できるか、といったレポートのとりまとめを支援する」ことで、乗り換えのハードルを下げられるようにしているのだ。

 「メインフレームからの移行を訴える取り組みも続けていく必要はあるし、ミッションクリティカル領域でのx86との違いを説明していくことも大事だが、UNIX市場が減少する中では、他社のプラットフォームから持ってくることが一番重要。アプリケーションの移行などの点が重要だというのは、対Solarisで経験を積み、分かったこと。ノウハウを蓄えた結果、移行に際しての支援をそろえることができた」(上原本部長)。

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