EMCが進める自社クラウド化計画、その効果とは?


 EMCジャパン株式会社は27日、クラウドコンピューティングに関する説明会を開催。同社にとってのクラウドとは何か、どう取り組むのかに加えて、「The Journey To The Private Cloud」と題してEMC自身が進めるクラウド化プロジェクトについて説明した。


投資優先度に「クラウド」急浮上、その理由は?

テクニカル・コンサルティング本部 プロダクト・ソリューションズ統括部長の糸賀誠氏

 まず、クラウドがなぜ必要とされているのかについて、テクニカル・コンサルティング本部 プロダクト・ソリューションズ統括部長の糸賀誠氏がこう語る。

 「ITには非常に多くの課題が存在する。アプリケーションは老朽化し、新しいテクノロジーの波は絶えずやってくる。一方で、経営層からは新サービスを立ち上げるから即座にインフラを整えるよう要求され、ITへの期待がもはや当たり前に実現されるべきものという認識になっている」。

 「ところが、実際の従来型ITはそこまで柔軟ではない。ITに投資する際には需要予測を立て、将来のピークを予想しながら、ある程度オーバースペック気味に設備を導入する。これに対して実際の需要が少ないと無駄な投資となってしまうし、実際の需要が予想以上に多いと、リソースを供給しきれず、ビジネス機会の損失を生んでしまう。これらを背景に、2009年から2010年にかけて、CIOが優先するIT投資の対象として、クラウドの利用拡大が急上昇しているのだ」。


「クラウド」=「仮想化」ではなく「変化対応の仕組み」

クラウドとは?

 では、そもそもクラウドコンピューティングとは何であろうか。昨今、「パブリッククラウド」「プライベートクラウド」「ハイブリッドクラウド」「インターナルクラウド」「エクスターナルクラウド」「仮想化」「SaaS/PaaS/IaaS」など、関連キーワードが入り乱れている。糸賀氏はこれを次のように整理する。

 「まず、よく勘違いされるが、仮想化=クラウドではない。仮想化はコンピュータリソースを抽象化し効率よく利用できるようにするもの。そして、そのリソースをサービスに仕立て上げて提供するのがクラウドとなる。すなわちクラウドとは、必要な時に必要なサービスを提供できる仕組みであり、IT部門の役割をビジネスへの貢献の形に大きく変えるものだ」。

 その意味するところは、ビジネス変化への迅速な対応、ITコストの低減、サービス品質の向上を図るための「変化対応力」と言い換えられる。サーバーの仮想化、ユニファイドネットワークの実現、ストレージの仮想化――これらに加えて、サービスのカタログ化、課金管理などを実現してこそクラウドということだ。

 EMCの考えるクラウドはまさにこれだ。加えて、クラウド間を距離の壁を越えてフェデレーション(連携)させるものとなる。

サーバーの仮想化、ユニファイドネットワークの実現、ストレージの仮想化――これらに加えて、サービスのカタログ化、課金管理などを実現してこそクラウドEMCの考えるクラウド

 同社は、2003年ごろから買収戦略を加速させており、およそ40社、9000億円以上を買収に投じている。その中にはクラウドに欠かせないVMwareをはじめ、クラウド環境にも対応する運用・リソース管理技術、インフラ技術も含まれる。クラウドという言葉は2006年、米Googleのエリック・シュミット氏によって生み出されたが、そのころから、あるいはそれ以前から「EMCはクラウドを実現するための技術を買収してきた」(同氏)。


2004年、EMC自身もクラウド実現の旅へ

The Journey To The Private Cloudの軌跡

 これらの技術が顧客に提供するのに十分なものか、それを確かめる意味も込めて進められているのが、2004年から開始された同社データセンターにおけるクラウド化プロジェクト「The Journey To The Private Cloud」である。

 当時、同社も「増加するストレージ」「老朽化するデータセンター」「急増するアプリケーション」「グローバル化&企業統合」「セキュリティ」など顧客と同様の課題を抱えていたという。そこで「運用コストの削減」「ITサービス提供の迅速化」「全社員の生産性の向上」といった目標を掲げ、まずはインフラの仮想化から着手。

 2004年からの第一フェーズでは、開発・テスト環境の仮想化を実施。EMCは世界5カ所のデータセンターを持ち、グローバルで4万8000人の社員が利用しているが、この第一フェーズで1670台のサーバーを310台に統合。「1200万ドルの電力コスト削減」「7400万ドルのデータセンター設備コスト削減」「170%のストレージ管理者の生産性向上」「34%のエネルギー効率増加」など目に見える効果をあげたという。

 2009年からは、ミッションクリティカルなアプリケーション環境を仮想化する第二フェーズを開始。さらに1600台のサーバーを40台に集約したほか、ストレージの最適化や統合管理&セキュリティ環境の整備も進め、これまでに「1100万ドルのOPEX節約」「600万ドルのデータセンター設備コスト削減」「3000万ポンドのCO2削減」などを果たしている。

第一フェーズ(2004年~)の効果第二フェーズ(2009年~)の効果
今後目指す第三フェーズの内容

 これまでに55%のOS、60%のアプリケーションで仮想化が完了しており、今後も残りの仮想化を進める予定。さらに将来的には、100%の仮想化、SaaS/PaaS/IaaSの浸透を進める第三フェーズも計画している。ここでは、合理化されたアプリケーション、階層化されたサービス、組み込まれたセキュリティ、マルチテナンシーを実現し、完全にセルフプロビジョニングのIT環境を目指すという。

 「現在、Salesforce.comをグローバルに利用している。第三フェーズでは、インターナルクラウドのリソースが不足した際に、Salesforce.comも含めた各種パブリッククラウドをいつでも利用開始して不足分を補えるようなクラウド間連携も実現していく」(ITクライアント・サービス マネージャーの今成達矢氏)。

 糸賀氏も「クラウドは実現可能なものになってきた」と語る。そのために必要なことは、「クラウドへのロードマップ作成」「クラウドへの主要プログラムの定義」「すべての仮想化」「クラウド技術の活用」の4つのステップを踏むことだという。EMCでは、自社のプロジェクトを通じてノウハウを蓄えながら、「今後も情報インフラを提供するITベンダーとして、必要な時に必要なサービスを提供するクラウドを推進していく」(同氏)方針だ。

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