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日本IBM、システム復旧を自動化して迅速な回復を実現する「IBMレジリエンシー・オーケストレーション」
2017年10月12日 12:31
買収したインド企業の技術を利用するシステム復旧自動化サービス
米IBMは2016年11月に、DR(ディザスタリカバリ)ソフトを提供するインド企業、Sanovi Technologiesを買収しているが、IBMレジリエンシー・オーケストレーションは、同社の技術を活用し、システム復旧やDR関連の新サービスとして追加したものだ。
個々のシステム単位で本番環境から復旧環境へ切り替える従来の方法とは異なり、業務単位でシステム復旧をとらえるとともに、システム復旧の手順を標準化することで、人手を介することなく、自動でシステム復旧を行えるのが特徴という。
また、すでに構築済みのシステム復旧の仕組みを活用しながら、新たなシステム復旧の仕組みを構築するため、コストを抑えた対策が可能。復旧プロセスをダッシュボードで可視化でき、復旧状況の把握が容易になる点もメリットとした。
さらに、本番環境を停止させることなく切り替えのシミュレーションを行えるため、復旧の訓練を充実させることができるとしている。
具体的には、リカバリ対応状況をリアルタイムで可視化する「ダッシュボード」、標準ライブラリや既存シェアが利用できる「ワークフロー」、本番稼働と並行した検証機能を提供し、事前検証によるリハーサル失敗の未然防止を行う「ドライラン」、実行結果の自動記録によるワークロードの削減や問題発生時の発生個所特定の迅速化を実現する「レポーティング」といった4つの機能を提供。
復旧処理時間を測定し、期待通りの時間に完了しているかどうかといったことの確認も行える。またIBM以外の製品も対象とし、ストレージからミドルウェア、クラウド環境に至るまで、幅広いサポートを実現しているほか、製品特有のコマンドなどを利用できるように400種類以上のコマンドライブラリを用意しているので、新たにスクリプトを用意する必要はないとのこと。
日本IBM グローバル・テクノロジー・サービス事業本部レジリエンシー・サービス事業部長の高瀬正子氏は、「IBMレジリエンシー・オーケストレーションにより、システム復旧における専門家への依存度を50%減らせるだけでなく、DR時間を60%、リカバリの人的資源を75%、リハーサル時間を80%、レポート作成時間を90%、それぞれ削減できる」と、効果をアピール。
また、「ソフトウェアの形態で提供するため、顧客の要件にあわせた柔軟なシステム復旧環境が構築できるのが特徴。専門家がいなくても、ボタンひとつでリハーサルが可能であり、(従来のような)年間2回程度のリハーサルやシステム変更時のリハーサルだけでなく、毎日でもリハーサルが行える」と述べた。
なお「ドライラン(dry run)」とは、消防士の訓練などで、実際に放水を行わずに手順を確認することを指しており、今後、IT分野におけるシステムの事前検証手法を指す用語としても使われることになりそうだ。
高まる早期復旧、常時稼働へのニーズに応える
デジタル化の進展とともに、ITシステムの活用がビジネスに多大な影響を及ぼすようになり、システムトラブルや災害時でも、システムを早急に復旧させて事業を継続することや、常時稼働へのニーズが高まっている。
また、ITインフラが多様化、複雑化するなかで、システム復旧の方法や事前対策も複雑になり、運用の負荷が増大している。そのため、標準化や自動化の活用、プロセスの可視化、シミュレーションの行いやすさといった、システム復旧対策の強化が求められている。
「IT環境は複雑化しており、事業継続の観点では、システム復旧の長時間化などの課題となり、顧客のリスクのひとつとなっている。事前準備や検証時間の短縮、リカバリの定常化および可視化、ワークロードの有効活用、既存投資の保護および活用により、自動化ツールが復旧環境の実効性を高めることができる。自動化による人的な作業ミスも減らすこともでき、復旧時の要員の最適化も可能になる」とする。
さらに高瀬事業部長は、業務停止から回復するための総費用は売上損失の約5倍となっており、1週間業務が停止すると、回復に必要な総費用は年間売り上げの1割に達することなどを示しながら、「日本の企業は、最低限の投資で、最高の成果をあげることを重視しており、事業拡大に向けた投資には積極的だが、事業継続には消極的なのが実態。ヒアリングをしたところ、事業継続に対して自信があるという企業は1社もなかった。手順書があるものの、リハーサルが不十分であり、実行可能であることが確認できていないなど、多くの課題が存在する」と指摘。
「システム復旧の自動化にフォーカスすることで、システム停止がビジネスに及ぼす影響を最小化し、常時稼働に対する要望に貢献できる。IBMレジリエンシー・オーケストレーションによって、ディザスタリカバリに対する投資の重要性に関して理解が進むことを期待している」と述べた。
インドの最大手市中銀行であるHDFC BANKでは、IBMレジリエンシー・オーケストレーションをすでに導入しており、災害対策リハーサルの精度向上や実施頻度の増加、ITの可用性や運用コストの削減につなげているという。
ここでは、リハーサルの成功率を60%から95%以上に向上、災害対策時のシステム停止時間を85%以上削減、運用関連コストを70%以上削減できたとのこと。加えて、要員増なく、アプリケーション対象数を3倍に拡大し、データセンターや各拠点にまたがる複数アプリケーションの並行復旧まで拡大できたという。このほか、金融業界以外にも官公庁などでの導入が進んでいることも示した。
IBMレジリエンシー・オーケストレーションの価格は12万3800円から(税別、仮想サーバー単位)。同社直販やパートナー販売のほか、IBMマーケットプレイスでの提供も予定している。運用支援までを含めたサポートを希望する顧客に対しては、クラウドサービスとして「IBMクラウド・レジリエンシー・オーケストレーション」も提供する。