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NICT、工場IoT化に向けて無線通信技術を稼働中の大手工場で検証

複数の無線システムを協調制御して安定化するための構成を提案

NICTと共同実験各社が、複数の稼働中の工場で行った無線環境評価、無線通信実験の様子

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は17日、製造現場でIoT化を推進するため、稼働中の工場で実施してきた無線通信技術の基礎評価および検証の結果を踏まえ、複数の無線システムを協調制御して安定化するための無線通信のソフトウェア構成を提案した。

 工場での生産設備や生産状況の「見える化」が進む中、現場ではネットワークに繋がる無線タグやセンサーなどの機器を導入したいという要望や、有線通信での配線コストや工場内の設備配置換えで発生するケーブル移設費用および作業時間が増えるのを抑えたいといった、通信に対するニーズが挙がっている。

 無線通信はこれらの要求を満たす有効な通信手段で、実際にも製造設備に付随して工場内に無線システムが導入される事例が増えているが、工場内での無線利用においては、無線システム間の干渉による通信の不安定化や設備稼働への影響といった懸念がある。一方、複数の無線システムが共存する製造現場において、無線通信の課題解決に向けた試みは、これまで行われてこなかった。

 そこで、NICTではこの課題の解決を目指して、オムロン株式会社、株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR)、日本電気株式会社(NEC)、日本電気通信システム株式会社(NEC通信システム)、富士通株式会社、富士通関西中部ネットテック株式会社(富士通KCN)、サンリツオートメイション株式会社(サンリツ)、村田機械株式会社の各社と「Flexible Factory Project」を立ち上げ、複数の稼働中の工場において、無線環境評価と無線通信実験を1年以上にわたって実施してきた。

 実験では、ユーザー企業である三菱重工工作機械株式会社の本社・栗東工場内や、トヨタ自動車株式会社の堤工場および高岡工場内において、共同実験各社が持ち込んだ音、振動、温度、湿度、電流波形などの情報を取得するセンサーを生産設備に取り付け、複数のセンサーから取得した多様な情報を無線で送信する評価を実施。工場内でさまざまな無線システムが混在することにより、無線通信が不安定化するリスクを確認できたという。

 具体的には、短期間で急速に無線設備の導入が進んでいるという現状や、設備ごとに無線設備が導入されており、工場全体での無線設備を協調させた制御・管理が必要があることを把握。大型モーターから発生するノイズが無線周波数帯に及んでいることや、工場にある大型設備による遮蔽によって無線の通信品質が悪化、複数の設備が同時に動くラインでは、通信の衝突を避けるメカニズムにより、送信待ち時間が長くなり、受け手がデータを受信できるまでに時間がかかるといった課題があり、無線資源が有効に活用されていない実態が分かったという。

 また、プロジェクトの一環として、業種の異なる複数の工場からヒアリングを実施し、現在あるいは近い将来、工場、工場附帯施設、物流倉庫で用いられる無線用途を、「品質、制御、管理、表示、安全、その他」のカテゴリに分けて抽出し、無線用途別に通信要件を整理した。この通信要件は、今後、製造現場に設置される複合的な無線システムの動作シミュレーション、設計、不安定化のリスク評価、ガイドライン作成などに用いることが可能だとしている。

 さらに、実際の製造現場で必要とされる具体的な利用シーンを想定し、設備ごとに独立した無線システムを協調させて制御することで安定化するためのソフトウェア構成を無線アーキテクチャとして提案した。この無線アーキテクチャは、工場の生産設備の無線化にあたり、無線の非専門家がシステム設計を行うことを想定し、920MHz帯、2.4GHz帯、5GHz帯、60GHz帯の周波数を対象としていることや、これまでの実験で明らかになった工場ごとの無線環境の違いと、実際に使われる無線用途別の通信要件を踏まえて設計されている点、アプリケーションソフトウェア側の情報のやり取り手法を統一することにより、物理層によらず制御を可能にした点などを特徴としている。

 NICTとプロジェクト参加企業は、ユーザーと通信・機械・システムの専門家とともに、個々に所有するセンサー、IoT、無線通信、セキュリティ、クラウド、AIなどの技術と、今回得た知見を活用し、無線通信に求められる機能要件の明確化を通して、製造現場におけるリアルな工場内無線通信の課題を解決するソリューションを提案していくとしている。無線用途別の通信要件は、「製造現場における無線ユースケースと通信要件」として3月に公開する予定。

 今後は、この結果を踏まえて、工場で想定される設備ごとに独立した無線システムのシミュレーションを通じた不安定化のリスク評価や、安定した通信のための無線通信ソフトウェア構成の定義を行い、システムの構築及び実証実験を通して有用性の検証を進めることで、工場内のIoT化に向けた活動をさらに推進するとしている。