【BUILDレポート】クラウドOSを目指す“Windows Server 8”
Microsoftの開発者向けイベント「BUILD」2日目の基調講演では、サーバーや開発ツールに関しての話題が満載だった。クライアントのWindows 8は、開発者プレビュー版を公開したことで、サーバー側のWindows Server 8に関しても注目が集まっている。
今回は、企業向け製品を中心とした、講演のレポートをお届けしよう。
■Windows Server 8のコンセプトは“クラウドOS”
Windows Server 8では、主要な改良点だけで、これだけ上げられている |
基調講演では、サーバー&ツール担当のプレジデントSatya Nadella氏が、Windows Server 8開発者プレビュー版提供を発表しており、すでに、MSDNの会員ならダウンロードが可能になっている。同時に、Windows 8でのMetroスタイルアプリケーションなどの開発に欠かせない、Visual Studio 11開発者プレビュー版も提供されている。
Windows Server 8のコンセプトは、“クラウドOS”だ。現在、Microsoftでは、パブリッククラウドとしてWindows Azureを運用しているが、これだけで世界中のさまざまな用途をカバーできるとは考えていない。例えば、社内にプライベートクラウドを構築することもあるだろう。また、データセンターが仮想化により、複数の企業のサーバーを運用することもある。こういった用途を考えれば、Windows Server自体をクラウドOS化していく必要がある。
そして、クラウド化していくためには、さまざまな部分でWindows Serverを改善していくことが必要になる。
Windows Server 8のHyper-Vは、Live Storage Migrationという機能がサポートされている。Windows Server 2008 R2のHyper-Vでは、仮想マシンをほかのサーバーに動作を中止せずに移行するLive Migration機能が利用できるが、このLive Migrationを利用するためには、iSCSIを利用したネットワークストレージが必要だった。また、Live Migrationで仮想マシン自体の移動はできるようになったが、ストレージの移動に関してはサポートされていなかった。
そこで開発されたのが、Live Storage Migrationだ。仮想マシンのストレージを移動させることで、大規模なクラウドシステムにも対応できる仮想化システムができ上がった。
さらに、数台のサーバー環境でもLive Storage Migrationは使いやすいものになっている。Live Storage Migrationを行うのに、ネットワークストレージを使う必要はなく、サーバー同士をEthernetで接続するだけで、ローカルストレージを移動させるようになった。
またWindows Server 8では、物理層はEthernetを利用しながら、効率的にデータを転送する仕組みを搭載している。これを実現するには、新しい仕組みに対応したドライバーが必要になるものの、この仕組みを利用すれば、Gigabit Ethernetの倍のデータ転送が行えるようになる。また、積極的にNICのハードウェア機能を利用するため、サーバーのCPU負荷もそれほどかからない。
また、ファイバチャネル(FC)のサポートも強化されている。ネットワークストレージやHPCのノード間通信に利用されるFCに関しては、Hyper-Vの仮想マシン上にVirtual Fiber Channelという仮想ドライバが用意されることで、仮想マシン上での積極的に利用できるようになった。
Windows Server 8では、ネットワーク関連の機能強化で、転送レートは向上してもCPU負荷が小さくなるように改善されている | RDMA(Remote Direct Memory Access)という新しい方式でEthernetを利用すれば、現在のEthernetよりも高いパフォーマンスを実現する |
Hyper-V自体も、いくつかの点で強化されている。仮想マシンが使用できる仮想CPUが最大32CPUにアップされたほか、仮想ディスクのVHDフォーマットでは最大2TBだったのが、新しいVHDXフォーマットでは、2TBを超えるディスクを作成可能になっている。VHDで2TBが限界だったのは、Windows Server 2008 R2では、1ファイルの最大容量が2TBだったためだ。Windows 8では、機能を拡張して1ファイルの最大容量がアップされている。
このほかHyper-Vでは、ネットワーキングの機能向上、新しい仮想スイッチ追加などの強化が行われている。
これ以外にも、SMBプロトコルが2.2にバージョンアップした。これにより、SMB 2.2同士では、ネットワーク経由でのファイル転送のパフォーマンスがさらにアップする。
Windows Server 8は、Windows 8とカーネルは同じため、Windows 8で採用されたMetroスタイルも持っている。サーバーマネージャもMetro上で動作はしていないが(Windowsデスクトップ上で動作)Metroスタイル風になっている。
新しいVHDXフォーマットを使えば、仮想ディスクでも2TBの壁を越えることができる | Windows Server 8のサーバーマネジャ。一見するとMetro Styleのアプリケーションと間違える。Windowsデスクトップで動作しているが、Metro UIのフレームワークを流用しているのだろう |
■Windows Azureの機能も強化
Microsoftでは、パブリッククラウドのWindows Azureも、秋には大きな機能追加を計画している。
まず、以前から積み残しになっていたAccess Control機能が正式にサービスが提供される。Access Control機能により、1つのIDでさまざまなサービスが利用できるようにするインフラが提供される。
基調講演のデモでは、デスクトップのWinodws 8でトラベルサイトにアクセスするときに、YahooID、Windows Live ID、Google、Facebookなどを入力すると、同期している別のタブレットPCでは、トラベルサイトにIDを入力しなくても、自動的にパーソナルページにアクセスできる様子が示された。
また、Windows AzureのService Bus機能も一部の機能しか提供されていなかったが、今回の機能追加でフル機能が提供されることになる。
クラウドのデモとして紹介されたのが、Viper SmartStartというシステムだった。車に、小さなバッテリほどのハードを接続すれば、Azureに車のさまざまなデータを送信するというものだ。
これを使えば、GPSを使って、車がどの位置にいるのか、今までの走行データはどういったものなのか、エンジンの回転数や燃費など非常に細かなデータをAzureに送り分析することができる。
個々の車の走行データがリアルタイムでわかるようになれば、輸送に使うトラックの運転状況確認に使ったり、個人所有の車が盗まれたときでも、GPSで位置を特定したり、エンジン自体をかからなくしたり、といったこともできるだろう。
Viper SmartStartの本体。これを車に接続しておけば、車に関するさまざまな情報をAzureにアップしてくれる | Viper SmartStartのAzure側のデモ画面。Viper SmartStartした車の情報が表示されている。現在の位置やスピードなども表示されている | Azure上に巨大なデータベースが構築されているため、瞬時に走行履歴などをグラフ化して出すことができる |
基調講演の最後には、サプライズでCEOのSteve Ballmer氏が登場して、「今後もWindowsがITの中心として存在する。しかし、Windowsを魅力的なプラットフォームにしているのは、多くの開発者の人たちのおかげだ。Microsoftは、開発者のためにも、魅力的なプラットフォームとマーケットを提供していきたい」と高らかに宣言していた。
サプライズで登場したCEOのSteve Ballmer氏。BUILDの開催に合わせて、近くのホテルでファイナンシャルアナリスト向けのミーティングを開催していたからだ | 「Windowsこそが、ITの中心に存在する」とBallmer氏は語っている |