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Google Cloud、Arm CPU「Axion」、Gemini 1.5 Pro、Imagen 2.0など生成AI向けソリューションを続々拡充

 Googleのクラウド部門「Google Cloud」は、4月9日~4月11日(現地時間)の3日間にわたり、米国ネバダ州ラスベガス市において、年次イベント「Google Cloud Next '24」を開催する。それに先だって、4月9日には報道発表が行われ、Google Cloud Next '24で発表される概要が明らかにされた。

 この中でGoogle Cloudは、昨年12月に発表した生成AIのファンデーションモデル「Gemini」を活用した、マルチモーダルな生成AI機能をGoogle Workspace向けに提供することや、Googleとしては始めてとなる自社ブランドのArm CPU「Axion」などが発表され、Google Cloudが生成AIシフトをますます強めていく方針を明らかにした。

Gemini for Google Workspaceの機能拡張などが発表される(写真提供:Google)

昨年のGoogle Cloud Next '23から8カ月の間隔で開催され、生成AIのソリューション拡大を発表するGoogle Cloud

 Google Cloud CEO トーマス・クリアン氏は「Google Cloud Nextを開催したのは8カ月前だが、Googleはその間にもGoogle CloudとWorkspaceにおいて多くのアップデートを提供してきた。また、既に世界各地に設置しているデータセンターは40の地域に拡大し、ネットワークの拡充も行ってきた」と前置き。

 その上で、「新しい生成AIの、最先端なモデルとしてGeminiモデルを昨年発表し、開発者や企業に提供を開始している。Geminiは業界からも大きく注目されており、高い評価を得ている。昨年は生成AIがどのようにビジネスを変革するかを検討し始めた段階だったが、今はその実装が順調に進んでおり、多くのGoogle Cloudの顧客が独自のAIモデルを使い始めている。今週のCloud Nextでは、300社以上の顧客とパートナーがGoogle Cloudを利用した生成AIの事例を紹介する予定だ。そうした事例の多くはGemini for Google CloudとGemini for Google Workspaceの独自のエージェントを利用して構築されている」と説明した。

 また、「そうした生成AIを実現するために、TPU v5pの一般提供開始や、データセンター向けに設計されたGoogleとしては初めてのArm CPUとなるGoogle Axionプロセッサなど、カスタムシリコンの進捗や重要な発表する。それらのインフラの上で動くGemini 1.5 Proは、長いコンテキストにおけるブレークスルーを実現し、パブリックプレビューになることを発表する。このほかにもVertex AIの拡張、開発者の生産性を上げるGemini Code Assist、Google WorkspaceでのGeminiにより実現される機能強化などを発表する予定だ」と述べ、Google Cloud Next '24で多くの新しい発表を行うと説明した。

Google Cloud CEO トーマス・クリアン氏(昨年のGoogle Cloud Next '23で撮影)

 今回のGoogle Cloud Next '24は、昨年までのサンフランシスコからラスベガスに会場を移して行われており、そのために例年より短い間隔での開催になっていると考えられるが、短い間隔でもさまざまな新製品がスタンバイしており、ハードウェア、ソフトウェア、そしてソリューションまで実に多種多彩な発表が行われている。

 その発表のほとんどは生成AIで、昨年12月のGeminiモデルの発表以来、Googleが生成AIに大きく力を入れていることの証左とも言える。

Googleが自社設計のArmプロセッサ「Axion」を投入へ、Arm Neoverse V2ベース

 Googleは、「Google Axionプロセッサ」(以下、Axion)という新しいArm CPUを発表した。これまでGoogleは、AIの学習を高い電力効率で行えるTPU(Tensor Processing Unit)を独自開発し、Google CloudのAI学習に活用してきた。今回Googleは、昨年12月に発表した第5世代TPUの高性能版(TPU v5p)の一般提供開始を明らかにしており、以前から提供しているNVIDIA GPUや従来世代のTPUと合わせて、生成AI学習時の演算提供を強化している。

TPU v5pのラック(写真提供:Google)

 今回発表されたAxionは、ArmがIPライセンスとして提供しているNeoverse V2をベースに設計されたカスタムCPUで、現時点では、CPUコア数などそれ以外の具体的なスペックは明らかにされていない。ただし、現在クラウドのインスタンスとして提供されている最速のArm CPUと比較して30%程度性能が向上しており、x86プロセッサと比較した場合には性能で50%、電力効率で60%優れていると明らかにしている(ただし、いずれも具体的にどれとの比較であるかは明らかにされていない)。

Axionなど、Next'24でのハードウェア関連の発表を説明するスライド

 CSPの自社クラウド向けArm CPUは、AWSのGravitonシリーズが既に第4世代になっており、最新のGraviton4はNeoverse V2ベースと、Axionに近い設計になっている。Microsoftは昨年11月に、「Cobalt 100」というArm CPUをAzure向けに投入しており、こちらもNeoverse N2ベースになっている。今回、Googleがその列に加わったことで、ArmベースのCPUが、トップ3のCSPすべてで導入されたことになる。

128kと1Mの二つのトークンサイズをサポートするGemini 1.5 Proがパブリックプレビューに

 Googleは、昨年12月のGeminiモデルの公開後もGeminiのアップデートを続けており、Geminiがコンテキストウインドウを12.8万トークンと百万トークンという2つのサイズをサポートする、Gemini Pro 1.5を2月に発表した。Gemini 1.5では中型マルチモーダルを実現するGemini 1.5 Proから投入が開始され、これまで限定的なプレビューが行われてきた。今回のGoogle Cloud Next '24では、そのGemini 1.5 Proがパブリックプレビューとして広く公開されたことが明らかにされた。

Gemini 1.5 Proがパブリックプレビューに(出典:Google)

 また、Googleが提供するAI開発環境「Vertex AI」も拡充され、Vertex AI Agent Builderが発表された。簡単に言うと、Vertex AIにアプリケーションを容易に構築できる環境を提供するもので、開発者がノーコードでLLMを活用したアプリケーションを構築したりできるし、Vertex AIで提供されている開発ツールを活用してより高度なAIアプリケーションを構築できる。

 さらに、テキストから画像を生成する「Imagen」が強化され「Imagen 2.0」になった。インペインティングやアウトペインティングなど、高度な写真編集機能が追加されているほか、Google DeepMindが開発していた電子透かし機能「SynthID」に対応している。

Imagen 2.0のデモ(出典:Google)

Gemini for Google Workspace向けに動画生成をAIがアシストする「Google Vid」を追加

 今回Googleは、昨年の12月に発表したGeminiモデルを、さまざまな製品に適用し、Google Workspaceを利用するビジネスパーソン、プログラミングを行うプログラマーなどが、さまざまな段階で生成AIによるアシストを受けられるようにすることを発表している。

 企業向けの生産性向上ツール「Google Workspace」向けに、生成AIの機能をもたらすオプション「Gemini for Google Workspace」では、「Google Vids」を発表した。

 Google Vidsは生成AIを活用したビジネス向けの動画作成アプリで、動画、ライティング、制作、編集などを一つのアプリで行うことが可能になる。プロンプトにどのような動画を作りたいかを入力すると、ストック動画、画像、BGMなどから提案されたシーンからマーケティング向けのストリーを作成し、適切なナレーションを選択するか、独自のナレーションを入れられるという。

 最近では、YouTube、Instgram、TikTokのようなSNSに動画を利用することが、デジタルマーケティングでは当たり前になっており、そうした見栄えの良い動画を簡単に編集して作成できるツールが求められている。Google Vidsはそうしたニーズに応える製品になる。

Google Vids(出典:Google)

 このほかにも、Meetに追加できるメモ作成、要約、リアルタイム翻訳などの機能を持つ「AI Meetings and Messagingアドオン」(月額10ドル)、機密性の高いデータを自動的に分類してほごできる「AIセキュリティーアドオン」(同)なども用意される。

Gemini for Google Workspaceの新機能(出典:Google)

 開発者向けの製品としては、Gemini Code Assistが発表された。Gemini Code Assistは開発者の生産性を生成AIにより向上させるツールで、オンプレミス、GitLab、GitHub、BitBucketなどで利用できる。Gemini 1.5 Proに対応しており、生成AIを活用してプロジェクト管理を行ったり、AIに聞きながらプログラミングを行ったり、といったことなどが可能になっている。

開発者向けのアップデート(出典:Google)

 セキュリティ周りの機能強化も大きな話題で、Geminiモデルがセキュリティの強化に利用されるほか、大企業向けのChromeブラウザとなるChrome Enterpriseに、さらにセキュリティ機能を強化した「Chrome Enterprise Premium」が追加され、本日より一般提供が開始される。

セキュリティ関連のアップデート(出典:Google)

 そのほかにも、Geminiはデータベースにも拡張され、Gemini in Databasesと呼ばれるデータベースの開発と管理にGeminiが利用できるようになるほか、Gemini in BigQuery、Gemini in Lookerなども発表されている。

データベース関連のアップデート(出典:Google)