無償のXenServerを大幅に強化する「Citrix Essentials」の機能をみる


 シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社は、Citrix Essentials for XenServer日本語版を7月22日にリリースした。今回はこのEssentials for XenServerの機能を紹介する。


Essentials for XenServerとは?

XenServerとEssentials for XenServerとの機能の差

 シトリックスは、サーバー仮想化関連では、無償のXenServerと有償のEssentialsの2つの製品を提供している。XenServerでは、ハイパーバイザー、管理ツール、ライブマイグレーションをサポートしたXenMotionまでを提供している。ハイパーバイザーだけを無償で提供している他社と違い、ライブマイグレーションなど実運用に耐えうる機能も含め無償提供しているのが特長だ。

 一方のEssentials for XenServer(以下、Essentials)は、無償提供されているXenServerの機能をさらに強化する管理製品となっており、こちらは有償で提供されている。このEssentialsは機能の違いにより、Essentials for XenServer Enterprise(以下、Essentials Enterprise)とEssentials for XenServer Platinum(以下、Essentials Platinum)の2つのエディションが用意されている。

 Essentials Enterpriseは、HA(High Availability:高可用性)、ネットワークストレージを一括して管理できるStorageLink、管理プロセスの自動化を図るWorkFlow Studio(WorkFlow Orchestrationともいわれている)、仮想マシンを対象にしたDynamic Provisioning Servicesなどの機能を提供している。

 Essentials Platinumは、Essentials Enerpriseの機能に加えて、仮想マシンのラボ管理を行うLab Manager、仮想マシンのライフサイクル管理を行うStage Manager、物理環境と仮想環境をサポートするプロビジョニング機能のDynamic Provisioning Servicesの3つの機能を提供している。ただし、Essentials Platinumで提供されている機能の日本語化が終了していないため、日本国内では提供されていない。シトリックスによれば、これらのソフトの日本語化が終了しだいEssentials Platinumを提供したいとしている。


Essentials for XenServerの主要な機能各バージョンの機能差EnterpriseとPlatinumの機能差

HA(高可用性)機能

高可用性機能により、ハイパーバイザーを動かしているサーバーにトラブルがあっても、別のサーバーに仮想マシンを移動させて、システムを動作させる

 Essentialsでは、障害が発生したホスト上の仮想マシンをあらかじめ決められた優先順位に基づいて、物理サーバー上で自動的に移動して再起動できる。

 システムが一時動作停止状態になフェイルオーバーだけでなく、完全無停止のフォールトトレランスまで、システムの重要度にあわせて設定できる。これにより、システムの重要度を考え合わせて、可用性を決めることができる。

 すべての仮想マシンをフォールトトレランスにするのが一番良いが、サーバーのリソースを考えると、フェイルオーバーで十分なシステムもあるため、管理者がきちんと判断して、最適な可用性を設定することが必要だ。

 さらに、HAを管理するXenCenterは、リソースプール内のサーバー全体に管理データを分散させている。これにより、XenCenterが動作しているサーバーにトラブルが起き、システムダウンしても、ほかのサーバーが管理的役割を引き継ぐようになっている。このように、システム管理の多重化により、単一障害点をなくして冗長性をアップしている。


StorageLink

StorageLinkは、ネットワークストレージの管理を一括して行うことができる

 XenServerでは、XenMotionにより仮想マシンを別のサーバーに移動するライブマイグレーション機能がサポートされている。このXenMotionを利用するには、ストレージにはネットワークストレージが必要になる。このため多くの環境では、NetAppやEMC、DELL(EqualLogic)などのネットワークストレージを利用することになる。

 これらのネットワークストレージは、ストレージ自体にプロビジョニング機能など、さまざまな機能をサポートして、独自の管理コンソールが用意されている。


StorageLinkの管理画面ウィザードにしたがって、管理するネットワークストレージを登録できる

 しかし、メーカーの異なるネットワークストレージを導入すると、それぞれの管理ツールを使って、ストレージを運用しなければならない。そこで、Essentialsでは、StorageLinkという機能により、統一された管理コンソールを用意して、そこからメーカーの異なるネットワークストレージの管理を行うことができる。

 StorageLinkは、単に統一された管理コンソールで管理できるだけでなく、ウィザードやワークフローを利用してネットワークストレージで提供されている独自の機能も利用することができる。


StorageLinkにネットワークストレージを登録すれば、この管理画面で各ストレージにどのような仮想マシンのストレージがあるのか簡単に把握できる各ストレージのログを簡単に知ることもできるエラーが起これば、すぐにStorageLinkに表示される

 StorageLinkで各社のネットワークストレージを管理できるようにするには、ネットワークストレージがSMI-S(Storage Management Initiative Specification)をサポートしていればOKだ。

 もし、ネットワークストレージがSMI-Sをサポートしていない場合も、SOAP(Webサービス)で接続するアダプタソフトを各ベンダーが用意すれば、SMI-Sと同じようにStorageLinkで管理できる。また、ベンダーが直接StorageLinkに接続するアダプタソフトを用意している場合もある。

 StorageLinkに対応したネットワークストレージは、シトリックスのWebサイトに検証済みストレージ(StorageLink HCL)として掲載されている(http://hcl.vmd.citrix.com/SLG-HCLHome.aspx)。

 現在、StorageLinkに対応したネットワークストレージとしては、EMCのCLARiXシリーズ、HPのEVA4000/6000/8000シリーズ、HPのMSAシリーズ、NetAppの製品などがある。このリストをみれば、普及している多くのネットワークストレージでStorageLinkがサポートされているので、StorageLinkを使うために、新しいネットワークストレージを購入しなければならないケースは少ないだろう。


WorkFlow Studio

 Workflow Studioは、シトリックスが提供しているXenApp、XenDesktop、XenServer、NetScalerなどの動作をワークフローとして設定できるものだ。これにより、さまざまな状況にあわせたサーバー運用を自動的に行うことができる。

 WokFlow Sudioは、Windows PowerShellやWindows Workflow Foundation上で動作する。さらに、Workflow Studioでは使いやすいGUIでワークフローが作成できる。

 Workflow Studioを使えば、ユーザーが行うプロビジョニングの処理を自動化できる。また、ユーザーのトラフィックパターンをチェックすることで、負荷に応じてサーバーリソースを自動的に再構成できる。また、フェイルオーバーおよび復旧手順を自動化できる。

 このほか、新しい仮想マシンの配置をいろいろと条件を変えてテストするときにも、簡単にテストを繰り返し行える。これにより、ベストな設定や配置を繰り返しテストして、最も良い配置が試せる。

 WorkFlow Studioで、いろいろな手順をワークフローで設計しておけば、運用段階で手順を自動化できる。これなら、管理者が手順を間違えて、システム自体にトラブルを起こすことも少ないだろう。


Dynamic Provisioning Services

 仮想化を最大限に生かすためには、仮想マシンのイメージを管理するプロビジョニング機能が重要になってくる。Essentialsでは、仮想イメージの管理を行うプロビジョニング機能(Dynamic Provisioning Services)が強化されている。

 仮想化では、さまざまなOS環境やアプリケーションをインストールした仮想イメージをあらかじめ作成して、必要に応じてテンプレート化して利用する。こういった仮想マシンのイメージ管理のために、各社は専用の管理ツールをリリースしている。仮想イメージを利用するためには、各仮想サーバーがネットワークストレージにアクセスできるようなネットワークアーキテクチャが必要になるし、管理ツールで仮想サーバー上で動かす仮想イメージを設定する必要がある。

 しかし、EssentialsのDynamic Provisioning Servicesでは、プロビジョニングサーバーから、ストリーミング機能を利用して、仮想イメージを仮想サーバーに配信する機能が用意されている。これにより、仮想サーバーはディスクレスでブート(ネットワークブート)して、配信された仮想イメージを仮想マシンで動かすことが可能だ。

 もちろん、単に仮想ディスクイメージを配信するたけでなく、仮想マシンが動作するために必要な各種設定(CPU数、メモリ、HDD容量、ネットワークなど)の情報も配信される仮想イメージに入っている。このため、配信されてすぐに仮想マシンを起動することが可能だ。


Dynamic Provisioning Servicesの機能Dynamic Provisioning Servicesでは、プロビジョニングサーバーから仮想イメージを各サーバーに配布できるDynamic Provisioning Servicesを使えば、ハイパーバイザーだけを動かすサーバーをネットワークブートできる

WorkLoad Balancing

Workload Balancingは、仮想マシンの負荷のチェックを行う。

 Essentialsには、仮想マシンのパフォーマンスをチェックするためのWorkLoad Balancingという機能が用意されている。

 あらかじめ、パフォーマンスをチェックする仮想マシンにWorkLoad Balancingのモジュールをインストールすることで、仮想マシンのCPU負荷、メモリ使用量、ネットワーク帯域の使用量など、さまざまなデータを取得することができる。

 このデータを元にして、複数のサーバーで動作している多数の仮想マシンを最適化できる。ただ、WorkLoad Balancingが自動的に再配置するというところまではサポートされていない。管理者に理想的な配置をアドバイスしたり、ホストのメンテナンス時に再配置のアドバイスを行う。


WorkLoad Balancingでは、各仮想マシンのしきい値を設定できるWorkLoad Balancingでは、各仮想マシンにおける重要度も設定できる

WorkLoad Balancingは、ある程度仮想マシンを動かしてデータを取得する。すると、仮想マシンの状態をグラフ化してくれる細かな状況もグラフでみることができる

Lab Manager

Lab Managerにより開発段階での仮想マシンの利用を便利にする
Lab Managerを使うことで、開発段階の面倒な作業を手順化して、ユーザーに提供できる。このため、管理者はいちいち作業をしなくてもいい

 今まで説明してきた機能は、Essentials Enterpriseの機能だが、Lab ManagerはEssentials Platinumだけの機能だ。現在、Essentials Platinumの日本語版はリリースされていないが、Lab ManagerやStage Managerの日本語化が終了しだいリリースされる予定だ。

 Lab Managerは、仮想マシンのテスト配置、開発、テストといった開発サイクルをサポートしている。

 Lab Managerは、開発のベースとなる仮想マシンを作成し、複数の仮想マシンにわたる開発をサポートしている。例えば、運用環境でデータベースサーバーを1つのサーバーにまとめているときなどは、運用環境のデータベースサーバーを開発で利用することはできない。もし、仮想化されていれば、スナップショットをとって、テスト環境上に再構築して、システム開発を行う。これにより、実運用環境に近い開発が行えるため、運用時にトラブルが起こることが少ない。

 さらに、Lab Managerでは、マウスを1回クリックするだけでワークロード設定のプロビジョニングが即座に行える。あらかじめ管理者によって認証されている仮想環境なら、ユーザー自身が仮想マシンを作成することができる。これにより、管理者の手を煩わせずに、仮想システムが利用できる。


EssentialsはHyper-Vにも対応

 EssentialsはXenServer以外に、マイクロソフトのHyper-Vを管理対象とした「Essentials for Hyper-V」も用意されており、米国ではすでにリリースされている。Essentials for Hyper-VもEnterpriseとPlatinumがあり、提供されている機能はEssentials for XenServerとほぼ同じだ。

 日本語版に関しては、Windows Server 2008 R2のリリースも間近に迫っているため、Windows Server 2008 R2日本語版やHyper-V Server 2.0での検証を終えた後に、Essentials for Hyper-V Enterpriseをリリースしたいとシトリックスでは考えている。

 Essentials for Hyper-V Platinumに関しては、Essentials for XenServer Platinumと同じように、Automated Lab ManagerやStage Managerなどの日本語化が終了してからリリースされる予定だ。

 現在、Essentials for XenServerとEssentials for Hyper-Vは別々のプロダクトとしてリリースされているが、将来的には1つのパッケージでXenServerもHyper-Vも一括して管理できるようにしたいとしている。このような環境ができれば、XenServerからHyper-Vにライブマイグレーションしたり、プロビジョニングを行ったりすることもできるようになるだろう。



関連情報
(山本 雅史)
2009/8/3 00:00