パナソニック、注目高まる企業向けタブレット「BizPad」とは
~Android搭載の堅牢タブレットの取り組みを追う
パナソニックの企業向けタブレット端末「BizPad」が注目を集めている。モバイルビジネスシーンでも活用できる堅牢性を備えるとともに、企業が求めるセキュリティを実現。ほかのタブレット端末にはない特徴を背景に、企業からの引き合いが増えている。パナソニックでの社内活用への取り組みを含めて、BizPadの事業戦略を追ってみた。
■企業向けに特化したタブレット端末
パナソニックは、企業向けタブレット端末として、2011年12月から出荷を開始した7型液晶ディスプレイ搭載の「JT-H580」、および2012年1月から出荷を開始している10.1型液晶ディスプレイ搭載の「JT-H581VT」をラインアップしている。いずれも、Android 3.2を採用しており、企業ニーズに対応した製品と位置づけているのが特徴だ。
また、2012年5月にはさらに堅牢性を追求したToughPad「FZ-A1」を投入する予定であり、Android搭載のタブレット端末を3機種ラインアップすることになる。
「10.1型のBizPad、7型のBizPad、そしてToughPadを、社内ではそれぞれ“チョイタフ”、“タフ”、“ガチタフ”と呼んでいる」と冗談交じりに語るのは、パナソニックシステムソリューションズジャパン 戦略事業推進担当参事の川合啓民氏。続けて、「ハンディターミナルが情報入力デバイスであり、TOUGHBOOKやLet's noteが情報創造型デバイスであるのに対して、BizPadやToughPadは、Information Consumption Device(情報消費デバイス)に位置づけられるものになる」と語る。
多くの情報をタブレット端末で得ながら、情報入力端末としての役割も担い、一部の情報創造といった使い方までをカバー。それを実現する上で、モバイル用途での利用を想定した堅牢仕様としている。
7型液晶ディスプレイ搭載の「JT-H580」(右)と、10.1型液晶ディスプレイ搭載の「JT-H581VT」 |
また、情報漏えい対策を考慮したセキュリティ機能の強化、既存のビジネス用ネットワーク機器や認証機器との接続性の強化などを図っているほか、業務利用を継続させるために交換式バッテリーを採用している点が特徴だ。バッテリーユニットを交換することで終日の連続利用を可能にし、さらにバッテリー寿命が訪れた場合にも、簡単に交換できるという仕組みだ。
周辺機器との接続性も高めており、USB 2.0やBluetooth 2.1、MicroSDといったインターフェイスも搭載している。MicroSDを採用しているあたりは、同社の携帯電話開発の流れをくむ開発チームされた端末であることを証明するものともいえる。
MicroSDスロットおよびUSB 2.0インターフェイスを搭載している | NFC機能の搭載により、社員証などのICカードでも認証できる | バッテリーは着脱式を採用している。ビジネスシーンでの連続使用を想定した仕様だ |
パナソニックシステムネットワークス モビリティビジネスユニット 国内チャネル戦略担当主事の市川良紀氏は、「運送事業者をはじめとするフィールドモバイル用途など、30年間にわたる業務端末開発の実績を背景に開発したもの。業務利用においてどんな仕様が求められるかといったことを知っているパナソニックだからこそ開発できた業務用タブレット端末」と胸を張る。
パナソニックシステムソリューションズジャパン 戦略事業推進担当参事の川合啓民氏 | パナソニック システムネットワークス モビリティビジネスユニット国内チャネル戦略担当主事の市川良紀氏 |
■フィールドサービスでの利用に適した7型モデル
WSVGA(1024×600)7型液晶ディスプレイ搭載の「JT-H580」は、フィールドサービス(屋外業務)向け端末と位置づけられる。
タッチパネルに抵抗膜方式を採用しているのは、作業者が手袋をしたままでも操作できるという理由からだ。ここにも長年の業務端末開発のノウハウが活用されている。
片手でも操作しやすいように、筐体中央部にクビレ部を設け、滑り止めのローレットでグリップ時の安定感を持たせていること、背面にはホルダーベルトを搭載し、片手での操作において安定感を高めている。また、ファンクションキーの採用により、ワンタッチで操作できるようにしている点も特徴だ。
ファンクションキーでは、MENUやHOME、BACKを割り当てたデフォルトファンクションキーに加えて、ユーザーアプリケーションの操作をアサインできる3つのファンクションキー、ワンタッチでWi-Fiへの接続が可能なWi-Fiハードキーを搭載。まさに同社が目指す「ワンハンド&ラガタイズ(堅牢)タブレット」を実現している。
IP55水準の防水性と、防じん試験用粉じんが入っても所定の動作を可能とする試験をクリアした防じん性、1.2mの落下耐性を持つ堅牢性を実現。バッテリー交換が可能な仕組みや、オプションによる充電クレードルの提供で長時間の利用にも対応できるようになっている。
7型液晶ディスプレイ搭載の「JT-H580」 | 工事現場などでのフィールドユースに適した堅牢性を持っている |
■営業ツールとしての用途に威力を発揮する10型モデル
また、10.1型液晶ディスプレイ搭載の「JT-H581VT」は、WXGA(1280×800)のIPS TFTカラー液晶を採用。営業ツールとして、顧客先で画面を見せながら商談ができるといった高画質化を図っているのが特徴だ。
タッチパネルには静電容量方式を採用しており、その点でも7型液晶ディスプレイ搭載のJT-H580とは一線を画したものとなっている。オプションにより、内蔵デジタイザを提供。手書文字認識が可能なレベルの高精度位置検出をサポートしているという。
JT-H580と同等の防じん性、IP54の防水性、そして、8Ocmの落下耐性を持つ一方、背面全周に指がかりのくぼみを配することで手にした時のフィット感を実現。縦、横、斜めにストラップを組み合わせて利用できることでの可搬性を高めたほか、バッテリー交換方式の採用およびオプションでのクレードルを提供も行っている。
10.1型液晶ディスプレイ搭載の「JT-H581VT」 | 背面にはホルダーベルトを搭載し、片手での操作において安定感を高めている |
■ライフサイクル全般をサポートする体制
もうひとつ、BizPadの特徴として見逃せないのが、ビジネスシーンでの利用を想定した、ライフサイクル全般にわたるサービスを用意している点だ。
認証やウイルス対策などを含む端末管理(MDM)や、サードパーティーとの連携によるBizPadに最適化した業務アプリケーションの品ぞろえ、そして、資産管理や保守サポートなどの運用サービスまでをトータルで提案している。
BizPad向けに提供するモバイル・デバイス・マネジメントサービスでは、リモートロックやスクリーンロック、カメラの使用禁止や各種フィルタリングといったセキュリティ管理機能のほか、アプリケーションやデータなどの取得可能機能の設定、Wi-Fiやブックマークなどの端末設定機能などを提供している。
パナソニックシステムソリューションズジャパンの川合氏は、「企業向けタブレット端末には、安全に利用できるセキュリティ機能が必要。持ち歩くからこそ、データを暗号化したい、無線LAN利用時におけるセキュリティ環境を高めたいという声もある。また、パスワードだけの認証ではなく、社員証となるICカードでも本人確認を行えるようにすることで、セキュリティを高め、客先でもスマートな認証が可能になる」とする。
また、サードパーティーとの連携では、Android搭載タブレット端末としての特性を生かしたアプリケーション開発を促進するために、動作検証などの支援環境を提供。動作可能なソフトウェア一覧を用意し、エンドユーザーに最適なアプリケーションの選択を可能としている。
「病院、流通、サービス業などにおいて、数十台単位のBizPadを活用した導入が進んでいる。各分野においてナンバーワンとなる企業との連携を図ることで、質の高いソリューションを提供できる。今後も継続的にタブレットの特長を生かしたソリューションの新ぞろえに力を注いでいく」と、パナソニックシステムネットワークス モビリティビジネスユニット 国内チャネル戦略担当主事の市川良紀氏は語る。
同社のBizPadのサイトでは、セールスフォース・ドットコム、横河ソリューションズ、ネオジャパン、ウイングアークテクノロジーズなどの名前が並び、エレコムからはBizPad専用のアクセサリーも発売されている。
今年春以降、ソリューション開発を行うパートナー向けの支援体制の強化にも乗り出す考えであるほか、パナソニックのグループ会社であるパナソニックシステムソリューションズジャパン、パナソニック電工インフォメーションシステムズなどとの連携により、ソリューション提案を加速していく考えだ。
パナソニックでは、2011年12月には、BizPadの各種アプリケーションを体感してもらうことを目的とした「BizPad体感セミナー」を全国9カ所で開催しており、2月に行われた東京・有明のパナソニックセンターでの体感セミナーには約150人が来場し、BizPadに高い関心が集まっていることを示した。
■パナソニック社内でもAndroid端末を導入
BizPadが業務用Android端末として高い完成度を実現している背景には、先にも触れたように長年にわたる業務端末開発のノウハウが活用されていることが見逃せないが、もうひとつの取り組みとして、BizPadをパナソニック社内で導入し、自らの経験をもとに進化を遂げようとしている点も見逃せないだろう。
パナソニックでは、2011年に、「社内Android活用推進プロジェクト」を発足。社内活用企画ワーキンググループ、IT基盤構築ワーキンググループ、ガイドライン策定ワーキンググループの3つのワーキンググループを設置し、IT部門、端末事業、SI事業部門の各担当者が参加して、Android端末による、新たなIT利用環境の模索を開始した。
ここでは、PC全社統制管理運用をベースに、MDMサービスを導入。Android端末を管理するサービスインフラを構築するとともに、無線アクセス可能な全社基盤の整備と、デバイス証明書とIDおよびパスワードを利用した認証方式を採用。情報セキュリティの強化と、利便性、生産性の向上を両立する基盤づくりに着手している。
Android端末の利用を前提とした具体的な活用事例として、「ペーパーレス会議システム」、「電子コンテンツ閲覧サービス」がある。
「ペーパーレス会議システム」は、印刷して利用していた会議資料をタブレット端末で利用するもので、印刷コストの削減と環境への配慮で効果があるとしている。
資料の公開範囲の設定などのセキュアな環境実現や、一元的な管理環境における会議資料準備の効率化などが図れるという。
また、「電子コンテンツ閲覧サービス」では、カタログやマニュアルなどの紙媒体を電子媒体化。タブレット上で閲覧できるようにし、客先などに出向く際に紙媒体を持参しないで済むようにするもの。パナソニッククラウドセンターにアップロードした最新のコンテンツを、端末にダウンロードし、効率的な営業活動などに生かすという。資料にはメモやマーカーで情報を書き加えたり、資料を端末上で暗号化して保存するといったことも可能になる。
パナソニックでは、ビジネス活動におけるCO2排出量の極小化、循環型モノづくりを目指す「グリーンビジネスイノベーション」の実現を、中期的な方針のひとつに掲げている。Android搭載タブレット端末を活用した、こうしたペーパーレス化などの動きは、まさにグリーンビジネスイノベーションの動きに合致したものになるといえよう。
こうした自らの経験のなかで培ったノウハウが、今後の製品づくりやソリューション提案に生かされることになる。
「耐久性などのハードウェアの強み、長年の業務端末開発実績と社内利用によって蓄積したノウハウの活用、多くのパートナーとの連携によるソリューションの提供の広がりが、BizPadの強みになる」と、川合氏は語る。
そして、国内で生産している信頼性や柔軟性も特徴のひとつといえよう。7型、10型の両モデルをあわせて月5000台でスタート。今後2年間で約10万台の出荷を見込んでいる。
ビジネス用途に特化したタブレット端末ということもあり、コンシューマ向けタブレットのような派手さはないが、パナソニックらしい堅牢で、モバイルに適した企業向けタブレット端末として、日増しに評価が高まっているところだ。これからの進化にも注目されよう。