「クラウドはビジネスモデルではなく技術の観点から議論すべき」
日本HP・小出伸一社長
クラウド Watch新装刊記念・特別インタビュー
「クラウド・コンピューティングを語るのであれば、ビジネスモデルの議論をするのではなく、いまこそ技術の観点から議論をすべき。その技術の議論に対して、明確な回答を持っているのが日本ヒューレット・パッカード(日本HP)である」――。
日本HPの小出伸一社長は、同社のクラウドビジネスの強みがそこにあると語る。サーバー、PC、サービス、ソリューション、ネットワークといったクラウドビジネスに関するフル・ポートフォリオを取りそろえ、そこに製品だけでなく、技術的な観点からの提案によって、エンドユーザー、プロバイダー、パートナーのクラウド・コンピューティングを支えることができるとする。
小出社長に、日本HPのクラウド・コンピューティングへの取り組みと、来年春の新本社への移転を含め、同社の日本国内における取り組みについて聞いた。
■トータルソリューションプロバイダーとしての位置づけを確固たるものに
日本HPの小出伸一社長 |
――米国本社から発表されている2009年11月に始まった2010年度の業績は、極めて好調な数字となっています。日本法人においてもこれは同様のものになっていると理解していいですか。
小出社長:景気の回復感は着実に感じますし、IT投資に対する意欲も改善している。その点では、対前年同期比という観点ではポジティブな結果となっています。
ただ、比較する2009年度が、100年に一度と言われるようなあまりにも特別な状況でしたから、企業経営としては、2008年と比較して戻ったのか、また、さらなる成長に向かっているのかという観点でとらえた方が正しいでしょう。
特に、日本は、世界的に見ても景気の回復が遅れていますし、アジアのなかでは日本だけがデフレの状況にある。こうした日本固有の状況を踏まえたとしても、さらに成長を加速するという意味では、まだまだ取り組んでいかなくてはならないことが数多くあります。
日本HPが、達成可能とみている最も高い目標値からすれば、まだまだ努力しなくてはならないし、力を発揮できる領域がある。日本HPは、日本の市場においては「チャレンジャー」の位置づけです。IT業界における売上高も業界では第6位。言い換えれば、成長できるスペースがある。だからこそ、競合企業よりも高い成長を遂げなくてはならない。そう考えています。
――小出社長体制となって3年を経過しましたが、この間、変わったこととはなんですか。また、変わらなかったこととはなんでしょうか?
HPと聞いた時のイメージはなんでしょうか。PCやサーバー、プリンタといったハードウェア中心の会社というイメージが強かったのではないでしょうか。
ここ数年取り組んできたのは、ビジネスのポートフォリオを変え、トータルソリューションプロバイダーとしての位置づけを確固たるものにするということでした。EDSの買収および統合もそのひとつですし、今後、クラウドといった新たな領域に出ていくには、やはりネットワーク領域を強化する必要があり、そのために3Comを買収した。
これはとりもなおさず、お客さまの視点に立って、事業のポートフォリオを変えていくことであり、お客さまに対するエンド・トゥ・エンドでソリューションを提供できる、トータルソリューションプロバイダーとしての布石を打ってきたということにつながります。
いまの日本のITマーケットを見ると、ソリューション、サービスを除いては議論はできない。ソリューションプロバイダーといわれる企業にならないと日本では生き残れない。ハード中心から脱却を図りつつ、お客さま目線から、トータルソリューションプロバイダーとしてのフル・ポートフォリオを実現することが、日本において重要であるということを、米国本社に対して働きかけています。
――昨年8月にEDSの統合が完了し、この7月には3Comの統合を完了しましたね。
統合後に、いかにシナジーを発揮するか、そしてシナジー以上に、化学反応的に大きくしていくことができるかといったことの方が重要ですから、むしろこれからです。EDSは、HPと同じ規模を持つ企業であり、これを統合したわけですから、外から見るとかなりポートフォリオが変わるようにみえるでしょう。
しかし、社内では、外からみるほど混乱はありません。HPの社員が持つDNAは「アダプティブ」。いろいろな変化を吸収できるところです。歴史的にベンチャー企業として創業したHPは、何度も合併や統合を繰り返しながら成長してきた。いろいろな文化を持つ社員が混在しながらやっていくというDNAを持ち、新しいものを積極的に取り込み、起業家精神といった考え方も会社全体のなかでカルチャーとして定着しています。
また、お客さまのお役に立つことに取り組むという姿勢をずっと持っている。EDSや3Comの統合も、そうしたHPのカルチャーがうまく生かされています。これは何年たっても、どんな統合を繰り返そうが、HPが持つ変わらない文化だといえます。
――EDSジャパンは、買収前から日本ではあまり存在感を発揮していたわけではありませんでした。日本での統合効果は薄いのではないですか。
実績という点では、すでに大規模なアウトソーシングなどが、コンスタントに出てきています。その点で統合効果は出ています。
また私が根本的に思っているのは、EDSジャパンを統合したという意識ではなく、グローバルのEDSを統合したという意識なんです。EDSがグローバルに持つケイパビリティ(強みや能力)、メソドロジー(方法論)を日本の顧客に活用してもらえるか、提案できるかが重要である。
EDSには、メインフレームからオープン環境への移行ソリューションや、航空会社などの大規模アウトソーシングの実績、マルチベンダー環境での運用ノウハウが数多く蓄積されています。そうしたEDSの得意な分野を、例えばメインフレームが多い日本というユニークな市場のなかにどう融和させて、ソリューションを作り上げるか。こうしたことが、これからの課題となります。
また、インドや中国にあるEDSのデリバリーチームのリソースを、どう日本で生かすかという点も考えていきたい。EDSには、HPが持っていないノウハウがたくさんある。これらをもっと日本の市場のなかで活用していきたいと考えています。
――7月に統合した3Comとのコラボ成果はいつごろに出ますか。
3Comの統合によって、われわれが持つProCurveの製品群と、3Com(H3C)の製品とをあわせた提案ができるようになった点は大きい。これまで日本HPが持っていたProCurveの製品ポートフォリオでは、残念ながら歯抜けのところがあった。そこに3Com製品が加わることで、データセンター向けネットワークソリューションから、スイッチや運用管理ソフトまでをカバーできるようになりました。
これによって、ネットワーク製品群ではシスコシステムズ(シスコ)と、同じ規模の製品ポートフォリオを実現できたといえます。言い換えれば、従来はシスコしか選択肢がなかった顧客にとって、ネットワーク製品を選択できるオプションが増えたともいえ、マーケットの活性化にもつながると考えています。
今後は、日本において、パートナー各社に積極的に売っていただくための環境作りや、テスト環境の提供など、デリバリーの観点から満足していただけるアクションを行っていく予定です。1年後には、数字的な指標というものもありますが、当社が提案するHP Converged Infrastructure(コンバージド・インフラストラクチャ)戦略のなかで、3Comの製品が、われわれのプロダクトとしてアタッチされて、提供するという実績が数多く登場することが、統合の成果を推し量るひとつの指標になるでしょう。
■「チャレンジャー」という言葉を使い続けている理由
――小出社長は就任以来、「チャレンジャー」という言葉を使い続けていますね。世界最大のITベンダーの日本法人社長として、この言葉を言い続けている理由はなんですか。
HPは、もともとシリコンバレーで創業したベンチャー企業です。いつでもチャレンジャーであるという立場は変わらないということがひとつの理由です。いまでもそうしたコーポレートカルチャーが社内にはあります。
そしてもうひとつは、世界を見渡したなかでも、日本のIT産業は、富士通、NEC、日本IBMといった複数の有力ベンダーが林立している極めてユニークな市場でもあり、こうした市場において、「HPは全世界ではリーダーなんだよ」といっても、そんな議論は通じない、ということがあります。
競合他社と鎬を削るなかで、チャレンジャー精神を持つということは社員が理解しておかなくてはならないことですし、常にマーケットに対しても訴求していきたいと考えています。お客さまが困った時に、ITに関する案件に限らずに、相談したい企業だというイメージを持ってもらうことが重要だと感じています。
残念ながらその部分では、日本においてはまだ力不足という思いがあり、そこを強化していきたい。その思いがあるからこそ、「チャレンジャー」という言葉を使っているんです。
また、一部には、日本においてすでにナンバーワンになっている製品もある。UNIXサーバーでは長年ナンバーワンを維持していますし、ブレードサーバーでは11期連続でナンバーワンとなっている。だが、これらの領域においても、圧倒的ナンバーワンというわけではない。全世界で見れば、ブレードサーバーは50%以上のシェアを持ち、圧倒的ともいえるポジションにある。日本ではトップシェアでも満足できる状況にはない。とはいうものの、私は、単にシェアを拡大すればいいなどとは、まったく思っていません。
――それはどうしてですか?
もちろん、世界的なマーケットシェアを獲得し、ボリュームを拡大することで、購買能力が高まり、コストパフォーマンスの高い製品を提供することができるようになります。
だが、お客さまの目線からみて、これはひとつの局面でしかない。お客さまにとって大切なのは、それがソリューションとしてベストなものに仕上がっているのか、時代をリードするソリューションになっているのか、ベスト・オブ・ブリード、ベスト・イン・クラスといえる製品になっているのかという点です。
マーケットそのものを拡大したり、マーケットシェアを高めたり、というように「ビッグ」にすることでのメリットはありますが、これはメーカーの発想に近い。お客さまが望んでいることからすれば、「ベスト」という発想が必要。ここにわれわれの本来のチャレンジがあります。
新興国では価格が優先させることも多いが、日本のお客さまは「ベスト」を求めている。そこにあわせたソリューションを提供していかなくてはならない。「規模の拡大=お客さまが望んでいること」ではないのです。
指を頭の近くで時計回りに回し、そのまま下におろしてきて、おへそのあたりで回すと、同じ回し方をしているのに時計回りとは逆方向に見えるんですよ。下から見るか、上から見るかで、その回転が逆に見えるんです。それと同じで、お客さまの視点と、ベンダーの目線で見るものとはまったく違う。
ベンダーが成長のためにマーケットシェアを取ることは必要だが、お客さまにとってはそれが中心ではない。その点を社員がしっかり理解し、ベストのソリューションを提供する体制を自然体として定着させたい。
先ほどの「チャレンジャー」という言葉に戻りますが、企業の成長には飽和点はありません。そして、お客さまの期待値にも飽和点はない。すべてにおいて、「ここも足りない」、「あそこも足りない」ということであり、それらの課題を繰り返し解決していかなくてはならない。そう考えれば、まだまだやらなくてはならないことは多いのです。
現状に甘んじることなく、次のポートフォリオの拡大はなんのためをするのか、お客さまはわれわれになにを期待しているのか、お客さまの目線に立って、きちっとレビューして、次の戦略として打っていかなくてはならない。企業は満足すると成長しなくなってしまいます。私にしてみれば、日本HPは、すべての領域で足りないものばかりだといえます。ポジティブな観点からとらえれば、足りないところはいくらでもあるということです。
■クラウドで重要なのはテクノロジーの議論だ
――日本HPにおけるクラウド・コンピューティングの強みとはなんですか。
これは私の持論ですが、日本ではクラウドを議論する時に、ビジネスモデルとして語ることがあまりにも多い。水道のようにユーティリティーとして使えるとか、プロセスを標準化できるとか、従量制課金によってコストが安くなるといったことばかりが語られる。
これは間違いだと思っています。本来ならば、クラウドはテクノロジーの議論があって、初めて成り立つものです。考えてもみてください。クラウド・コンピューティングというのは、24時間365日、地球のどんなところにいても利用でき、しかも、ノンストップで運用され、アプリケーションはユーザーが知らないところで更新され、OSのバージョンアップが自動的に行われ、ネットワークが遅くなれば帯域が知らないうちに広がり、ストレージが足りなくなれば自動的に増強する。
強固なインフラと、自動化、仮想化といった技術のすべてが動いているのがクラウドであり、いままでのITの概念を覆す、究極のノンストップ環境なんです。それにも関わらず、クラウドを支えるテクノロジーの議論が日本ではまったくされていない。本来はこうした究極のノンストップ環境を支える技術こそが大切なんです。
例えば、クラウドでは、セキュリティに対する不安が指摘されています。これも、テクノロジーでどう解決できるのかという話がされず、コンセプチュアルな話ばかりに終始した議論だけで終わってしまっている。セキュリティに対する不安がまん延しているのも、技術的な話がされていないからなんです。
もはや、すべてのPCを1台ずつ、点在するサーバー1台ずつを、最後の最後まですべてを自分で面倒を見て、セキュリティ対策するのは限界にきている。クラウドとして全体のセキュリティを強化する方が強固になるというのは当然だと思います。
当社では、HP Converged Infrastructureという考え方のもと、クラウドを構成する技術、製品、サービスを提案できる体制を整えている。振り返れば、ASPの時代には、ストレージのオンデマンド、データベースのオンデマンド、ネットワークのオンデマンドというようにバラバラに提供されていたものが、クラウドの時代になり、Converged Infrastructureとして、製品、サービス、ネットワークがひとつのセットとして提供されるようになってきた。
日本HPは、ストレージ、サーバー、管理系ソフト、ネットワークといったあらゆる領域で製品ポートフォリオを拡大しており、こうしたものを組み合わせることでクラウド・ソリューションとして提供できる。これがHPのケイパビリティです。
クラウド・コンピューティング環境において、これだけフルポートフォリオを提供できる企業はほかにはありません。こうした最も安心で、安全なインフラを提供できる技術を持っている強みを生かして、クラウドサービスを提供するプロバイダーを支援することができ、ユーザー企業のプライベートクラウドの構築を支援することができる。
また、日本HP自身がクラウドを活用するサービスも提供することができる。写真共有サイトのSnapfishも、当社が提供するサービスのひとつです。
――日本HPでは、これまでクラウド事業の構成比についてはあまり言及していませんね。ちなみにどれぐらいの構成比なのですか。
実は、そういう形での数値は発表していません。というのも、クラウドの定義が不明確な部分があるからです。サーバー製品もクラウドだといえますし、仮想化もクラウドになる。
もし数字を算出すれば、現時点でも、75~80%ぐらいはクラウド関連製品およびサービスだということができますし、社員のうち9割以上がクラウドにかかわっているといえます。言い方によっては100%の社員がかかわっているともいえます。
先日、当社が発表したネットワーク接続型プリンタも、言い方によってはクラウド対応だといえますし(笑)、買収したスマートフォンのパームもクラウド端末になる。こうなると、ハードウェアのほぼすべての製品がクラウドに関連しているともいえる。データセンター事業もクラウドの根幹ですから、これもクラウドですね。
――日本HPは、クラウドという言葉を積極的に使っていない印象もありますね。
実際、HPでは、企業として「クラウド」という言葉は前面には押し出してはいません。前面に押し出しているのは、「Everything as a service」。今後のサービスは、人の感性に訴えるものや、ビジネスといったものをひっくるめて、すべてがサービス化されて、提供されるようになる。それを実現する手法のひとつとして、クラウドがあったり、デジタルトランスフォーメーションがあったりする。これがわれわれの考え方です。
――日本HPでは、今後、クラウド・コンピューティングのどんな領域に投資をしていきますか。
クラウド・コンピューティング環境をこれから構築する人や、クラウドを活用してサービスを提供する人たちに対して、それをしっかりと支援するための技術陣を養成すること、動作を確認するための検証センターを設置することに、真っ先に取り組んでいきます。
クラウドを実現するテクノロジーを支えるプレーヤーとして、日本HPの役割は、ますます重要になってくると考えています。それを支援するための技術体制としたい。もちろん、これまでにも当社の製品、サービスはクラウドにフォーカスしたものになっているわけですから、すでに必要とされるリソースはクラウドに振り向けています。これをさらに強化していくということになります。
――クラウドの専門技術者はどれぐらいの人数を育成するのですか。
数字はありますが、実は、その数字にはあまり意味がないと思っています。というのも、クラウド・コンピューティングというのは、日本だけでやるという発想では、失敗すると思っているからです。グローバルやアジアのリージョン全体で、クラウドをどういう風に成長させるかといったケイパビリティが問われる。
ですから、日本HPの組織の話では収まらない。日本で何十人の組織を作ったとか、こういう体制にしたというのは、クラウドという戦略的な観点からは意味がない見方になるからです。グローバルでどれぐらいの陣容があるのかということが大切ではないでしょうか。
――一方で、データセンターへの投資はどう考えていますか。
現時点では、日本において自前のデータセンターは持ってはいません。経営の効率性などを考えた時に、一番コストエフェクティブなところにデータセンターを持つべきだという判断があります。これだけネットワークインフラが世界中で整っていますから、運用上の問題はまったくありません。これからも国内に自前でデータセンターを持つ計画はありません。日本のデータセンターを活用したいというお客さまに対しては、国内でデータセンターを借りて運用するという形になります。
一方で、ワールドワイドという観点では、データセンターには積極的に投資をしていく考えです。むしろ、自前のデータセンターに対して、世界で一番投資しているのはHPではないでしょうか。データセンターの設計をする会社まで買収しているわけですからね。
先ほどのクラウドの技術者を日本でどれぐらい持つべきかという話と同様に、日本におけるデータセンターへの投資はどう考えているかという質問は、あまり意味がないと思っています。もともと日本HPのデータセンター事業という考え方はないんですよ。
クラウドやデータセンターというのは、日本という考え方から脱却しないと駄目だと思うんです。いまは、日本のデータセンターの規模や体制よりも、グローバルなケーパビリティを問われているといえるのではないでしょうか。
――今後1年のクラウドビジネスはどう描いていますか。
クラウドはテクノロジーを追求しないとサービスとして成り立たない時代に入ってきている。言い換えれば、コンセプチュアルな時代から、具現化する時代に入ってきている。その時代においては、クラウドサービスがエンドユーザーの満足を満たすものになっているのか、それを提供するサービスプロバイダーに対して、われわれが満足のいくサービスを提供できるのかが試されるようになる。
つまり、これからは地上戦に入るということだと思います。振り返ってみると、日本で普及しているクラウドサービスとはなにか、という質問に対して、誰も明確な回答が出ない。あれも、これもクラウドだというが、そのなかにはクラウドといえないようなものもある。
米国人にいわせると、日本にはまだクラウドの代表事例がないのではないかともいいます。クラウドを実務レベルで使えている例がないんです。これからはなんでもかんでもクラウドと表現するのではなく、本当にエンドユーザーやプロバイダーが求める実務レベルのクラウドが求められる。そこに日本HPならではの提案をしていきたいですね。
■ItaniumとXeonは適材適所で使っていく
UNIXサーバーの新製品を背に握手をするインテルの吉田社長(左)と日本HPの小出社長(右) |
――話は変わりますが、Itaniumには今後、どう取り組んでいきますか。一部には不要論が出たり、HP自身が事業を継承した方がいいのではないか、という声もありますが。
XeonとItaniumではどちらが信頼性が高いのか。
それに対して、Intelでは、Itaniumだと表現している。HPでは、UNIXマシンとしてどちらのCPUが適切かという判断のもと、Itaniumを選択しています。それは顧客は対する説得力を持ったものだといえますし、いまの選択を間違っているというユーザーは誰もいません。
また、今日時点でIntelは、2世代先までItaniumのロードマップをコミットしている。この点でも正しい選択をしているといえます。IntelやHPに加え、それをサポートするソフトウェアベンダーといったパートナーが、今後、市場に対して、どうコミットメントするかがこれからは重要になるでしょう。
一方で、コストパフォーマンスの面ではXeonの良さはある。適材適所でCPUを使い分けていく、というHPの戦略はこれからも継承していくことになります。
ただし、これから5年という期間をとらえれば、大きな進化があるでしょう。CPUやOSだけでなく、クラウドもどう進化していくかわからない。その時のポートフォリオとして、チップまで作った方がいいのか、それとも逆にサービスプロバイダーに完全に脱却した方がいいのか、戦略を見極めるべきタイミングがくるでしょう。
いずれにしろ、クラウドなどをきっかけにして、今後の5年間で、ItaniumやHPといった観点の話ではなく、全世界のIT関連企業が 大きな経営のかじ取りを余儀なくされる時期に入ってくのではないでしょうか。
――日本HPは、来年春、新本社への移転を予定していますね。これは、どんな変化をもたらしますか。
建設中の日本HP新本社ビル |
Converged Infrastructureに代表されるように、ひとつのものに集約して、お客さまの視線でソリューションを作り上げるという取り組みは、日本HPの根幹をなすものだといえます。その観点からも、これまでは高井戸、荻窪、市ヶ谷に分かれていた組織が、新本社に集約することで、物理的にワンチームとして、ひとつのものを作り上げることができる体制が整うようになる。これはおのずと、心のなかにある壁も取り払うことにもつながるのではないでしょうか。
実は、大阪の西日本支店をひとつのビルに統合したんです。ハード、ソフト、サービス、ネットワークの組織がひとつのビルに入っている。7月に訪れた時に社員に聞いてみると、「すごくいいですよ」という。
例えば、A社という顧客で問題が起こると、それぞれの部門が集まって、ワンチームで、機動性を高めて動けるようになったというんです。新本社ではこういう成果に期待しています。いままで足かせになっていたものを取り除くことができると思います。
今後、お客さまに対して、ベスト・イン・クラス、ベスト・オブ・ブリードの提供を目指す上では、「お客さま」という固まりで仕事ができるかが重要。お客さまの目線で仕事ができる新本社にしていきたい。
新本社ビルは、ワンフロアがサッカー場1面よりも大きく、これが9階建てとなっている。1フロアでこれだけの広さを持った建物というのは、東京都内のなかにはいくつかしかない。そういう広さのところに全社員を集めます。
そして、各フロアを事業単位で分けるのではなく、お客さま単位とか、インダストリー単位、ソリューション単位で仕事ができるように構成したい。そして、フリーアドレスにして、必要な人を集めようと思えば、そこにすぐに集まれようなるコンセプトにしたい。
また、レストランも用意して、社員が利用するだけでなく、お客さまに来ていただいた時に、会食しながら仕事の話ができるスペースも設けたい。これまでのオフィスビルとは、フレーバーを変える形でやっていきたいと思っています。
――社長室は最上階ですか(笑)
いや、社長室は作らなくてもいいかなと。社長はウロウロと歩いていた方がいいんじゃないかと思っていて(笑)。
実は、正直なところ、役員フロアとか、社長室とかはまだこれからです。先日、ビルの名前を社員から募集して、そのなかから決めました。この名前は、まだ社員にも発表していないんです。ぜひ楽しみにしていてください。