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世界的デザイナーとAppleのコラボ? “革命的”プロジェクトの3日間


 Appleがフランスの著名なデザイナーPhilippe Starck氏と“革命的な”プロジェクトを進めている――。そんな話が4月中旬、欧米メディアの間を駆け巡った。Steve Jobs氏亡き後もAppleは、一時、時価総額6000億ドルを超えるなど好調。その一挙一動が関心を集める。「8カ月後」と具体的に時期まで示されたことで、次期iPhone、Apple TVなど、その内容についてさまざまな憶測が飛んだが、結果は意外に早く判明した。

「Jobs氏と定期的に会っていた」

 Starck氏は世界的な建築家・インダストリアルデザイナーで、家具、家電、食器、文房具までさまざまなデザインを手がけている。日本では、東京・浅草のアサヒビール「スーパードライホール」(ビルの上に“金の炎”のオブジェが乗っているのだが、その形状と色から“ウンコビル”と呼ぶ人も多い)などで知られる。今回の騒ぎの発端は、フランスのラジオ局France Infoが4月13日に放送したStarck氏のインタビューだ。

 Starck氏は、Appleと“革命的な”プロジェクトに取り組んでおり、8カ月後にお披露目する予定と語った。同日付でこのラジオ番組のことを報じたLe Figaroによると、Starck氏は「すごく革命的とはいえないかもしれないが、十分に革命的だ」と述べたほか、Jobs氏と定期的に会ってきたことも明かした。「過去7年間、パロアルトに毎月出向いている。今度の月曜日にもJobs夫人(Laurene Powell Jobs氏)に会うために行く」と述べた。だが、詳細についてはAppleの秘密として語らなかったという。

 Starck氏と、デザインを重視するAppleが組んでいる? しかも“革命的”となれば、話題性十分だ。France Info/Le Figaroの報道はすぐに、Apple関連情報にアンテナを張っている英語圏のブロガーや速報メディアの目にとまり、大手メディアにも広がっていった。


「Apple TV」「iPhone 5」「Apple Storeのデザイン」?

 この話はもちろん、大型新製品の予想をかき立てた。中でも多かったのが、新型Apple TV関連だ。Apple情報サイトのApple Insiderは、Starck氏が手がけたParrotのiPhone/iPad用のスピーカー「Zikmu」に触れながら、Apple TVの可能性を紹介した。Hardmacは、Apple TVの可能性を認めた後で、AppleのTVと関連する「革命的なリモコン」ではないかと予想した。

 Information Weekは、Apple TVを筆頭に7つの候補を挙げた。年内登場が見込まれる「iPhone 5」、Googleが先に発表した眼鏡型コンピュータ「Project Glass」に対抗する「Apple iGlasses」、非接触型の充電技術を利用したワイヤレスドック、「iPod Hi-Fi」に次ぐオーディオドック、と思いつく限りのものを並べた。

 Cnet NewsはApple TVとiPhone 5を挙げた。特にiPhoneについて、「これまでiPhoneは大胆な変更というよりも少しずつ進化させてきた」が、「Androidとの競争が激化する中、iPhone次世代機種については常に大幅な人間工学的変更計画の可能性が指摘されてきた」と述べ、大きな変化を予想した。Fox Newsは、AppleのCEO、Tim Cook氏がゲーム開発会社のValve Softwareと会合した際に出たというゲーム機やウェアラブルコンピュータ開発のうわさに言及した。

 コラムニストのJohn Dvorak氏はPC MagazineでStarck氏のプロジェクトを取り上げた。糸口を求めてStarck氏のWebサイトを入念に調べたようだ。そして、氏のこれまでの業績について「発明的というよりも、興味深いデザインが多い」「Starck氏から期待できるのは、既存の社内製品装飾」と結論した。また、AppleがApple Storeで社外コンサルタントを利用したことに触れながら、同社が社外デザイナーの助けを必要とする建築的分野ではないかと予想した。

 TechCrunchは、多数のAppleのヒット製品デザインを手がけてきたJonathan Ive氏(インダストリアルデザイン担当上級副社長)の存在を指摘し、トーンを抑えながらStarck氏の発言を伝えた。Starck氏のデザインは「街灯、カトラリー、ヘッドフォン、ヨットと多岐にわたる」とした上で、「小売業界にとって最も重要な時期である年末商戦前に登場するならば、Apple HDTVだろうか?」と述べている。


おしゃべりなデザイナーと注目の的のApple

 憶測が飛び交ったStarck氏のプロジェクトだが、8カ月待つことはなく、ラジオ放送から3日後の16日に内容が明らかになった。それはAppleの新製品ではなく、Jobs家のための「ヨット」だったのだ。

 Starck氏の広報担当がWall Street Journalに伝えたところによると、プロジェクトはヨットが関係するもので、Steve Jobs氏一家のためにデザインされたものという。「Appleのプロジェクトではない。私的なもので、Jobs氏亡き後はJobs夫人が引き継いでいる」のだという。こうしてStarck氏の“革命的な”プロジェクトを巡る騒ぎは幕引きとなった。

 実は、いくつかのメディアは、このStarck氏のヨットについて言及していた。All Things Digitalは13日の段階で、「製品でもプロジェクトでも、Starck氏と進めているものはない」というAppleのコメントを得た上で、「この話が出てくる前から、Jobs氏はStarck氏とヨットに取り組んでいた。“革命的なプロジェクト”とはこのことを指している可能性が高い」といち早く伝えている。

 また、Walter Isaacson氏によるJobs氏の伝記が、Jobs氏とStarck氏がヨットを作っていたことに触れているという指摘もあった。このヨットはオランダのFeadshipが建造するもので、San Jose Mercury Newsによると、Starck氏は2007年にもヨット専門雑誌の編集者のインタビューで、この話をしていたという。

 Wall Street Journalは、一連の騒動から、『Appleの話ならなんでも大きな話題になる』『Starck氏は自分の話をするのが好きだ』という2つのことが言えるとまとめている。San Jose Mercury Newsも「Starck氏には誇張の傾向が強く、ちょっと大げさな人物だ」とのヨット雑誌の編集長の証言を紹介している。

 それにしても、情報は伝えられるうちに段々と変わっていくようだ。今回も、最初のLe Figaroが「プロジェクト」(Project)としているのに、英語の記事では「製品」(Product)になっているものが多い。ひょっとすると、大げさで知られるStarck氏も、今回ばかりは自分の言葉への反響に驚いているかもしれない。


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(岡田陽子=Infostand)
2012/4/23 09:10