調査会社・メディアによる2011年大予想~モバイルそしてクラウド
2010年がまもなく終わろうとしている。2年前のリーマンショック以降、IT業界も不況の声ばかり聞いてきたが、少なくとも米国のテクノロジー市場では、来年はかなり明るい見通しのようだ。「2011年の予測」といった年末年始恒例のトレンド記事も、1年前と比べて、かなり楽観的な気分があふれている。2011年でも、モバイル、ソーシャル、そしてクラウドが、やはり重要な分野になるという。
■2011年IT市場は活況、モバイルがけん引
IDCがまとめた予測レポート「IDC Predictions 2011」によると、2011年の世界のIT支出成長率は5.7%と予想され、新興国市場がけん引して活況になる見通しだという。ハードウェアでは、スマートフォンが3億3000万台、メディアタブレットが4200万台の販売台数になると予想。非PCデバイスが大きく成長して、出荷台数ベースで18カ月以内にPCを抜くとしている。ソフトウェアでは、AppleのiTunes StoreとGoogleのAndroid Marketのアプリが合わせて100万を突破し、250億ダウンロードに達するという。まさにモバイル全盛だ。
Wall Street Journalもモバイルの成長力を強調しており、「モバイルインターネット部門は実質的になお初期のフェーズにあり、同市場にはおびただしい機会がある」という投資ファンドのマネージャーのコメントを紹介している。投資家のテクノロジー部門への関心は高く、資金調達面からみてもIT企業にはよい年になるという。
■新しい年のトレンドベスト5
では来年の「トレンド」はどうだろう。Technoratiは(1)Gov2.0の広がり(2)サイバー戦争の活発化(3)タブレット(4)インターネットTV(5)モバイル4G――の5つを挙げている。
「Gov2.0」は日本ではあまり評判にならないが、米国では進展著しい政府のプラットフォーム化だ。行政機関は情報の提供・公開に徹し、サービスの構築は民間がネットを使って行うというもので、公開されたデータを使った犯罪指数(その場所の危険度)表示アプリなど多くの成果が公開されている。
タブレットはiPadの成功で、普及が加速していくという予想。インターネットTVは、Google TVの登場や映像配信のNetflixの活発化から次第にメインストリームに成長していくというものだ。サイバー戦争の活発化は、中国からのGoogleへの攻撃にあったような大型サイバー攻撃の延長上の動きとなる。
一方、ソーシャルメディアブログMashableの2011年モバイル5大予想は(1)タブレットの加速(2)写真共有からビデオ共有への拡大(3)HTML5アプリの急増(4)Flashの影の薄さ(5)Verizon版iPhone――である。(3)(4)はAppleのSteve Jobs氏の反Flash発言に関連するプラットフォーム争いの話。同氏の主張するようにHTML5アプリが拡大する半面、Flashがモバイルで支配的になることはないと予想。新版のFlash 10.1などは非常に良くなったとしながらも、モバイルという観点からみると、なおFlashが全面的にモバイルに採用されるとは考えにくいとしている。
■“勝ち組”“負け組”“勝ち負け両面組”
Mashableの創設者兼CEO、Pete Cashmore氏は、CNNに寄稿して、来年の“勝ち組”“負け組”“勝ち負け両面組”の企業を大胆に予測している。勝ち組企業は、Apple、Groupon、iPad用ソーシャルマガジンアプリのFlipboard、月間30億ページビューを集めるシンプルブログTumblrなど。これらは今年の勢いを駆って、来年も快進撃を続けると予想する。
逆に負け組は、GoogleのChrome OSとソーシャルサービス、“オープンソースのFacebook”として一時注目を集めたDiasporaなどを挙げている。Chrome OSについては、「タブレットや、300ドルでフル機能が使えるネットブックがある中で、コンシューマーが“Webオンリー”のChrome OSを選ぶとは考えにくい」(Cashmore氏)という。
勝ち負け両面組の企業には、Q&AサービスのQuoraなどを挙げている。Quoraはシリコンバレーの技術マニアから熱狂的な支持を得ているが、かつて非常な注目を集めながらメインストリームになれなかったFriendFeedに似ていると指摘。より広範なユーザーの支持を得られるかが課題としている。
■2011年のクラウドは?
そしてクラウド。E-Commerce Timesでは、コンサルティング会社THINKstrategies取締役のJeff Kaplan氏がクラウドに焦点を絞った予測をまとめている。それによると、来年はアナリスト予想を上回るペースでクラウド市場が成長し、サービスのダウンや、セキュリティ懸念があっても、その勢いが削がれることはないという。
Kaplan氏は、新たに登場するクラウドベンダーが、より幅広いアプライアンス、アプリケーションを提供するようになるとともに、コミュニティクラウドが垂直市場に浸透。Salesforce.com Chatterの成功で、ソーシャルネットワーキングがエンタープライズでの必須のコンポーネントになると述べている。
先のIDC Predictions 2011でも、クラウドがIT市場全体の大きなけん引力になると予想している。パブリックおよびプライベートクラウドはIT支出の15%を占め、成長率では全体平均の4倍から5倍になるとの試算だ。
また、新しいソフトの80%がクラウドサービスとして利用可能となり、2014年までに、ソフトウェアの3分の1以上がクラウド経由で購入可能になるという。これには、Microsoft、salesforce.com、Google、IBMなどビジネスアプリクラウドを創設しようとしているベンダーが、“次のMicrosoft”を狙って争っているという背景がある。
クラウドは、いよいよITサービスの主戦場となっていく。