クラウド特捜部

クラウドをビジネスの中心に置く、サティア・ナデラ時代のMicrosoft

IoTのバックエンドはAzureに

 Microsoftにとって、次の10年の隆盛を左右するのはIoTだ。多くの企業でもIoTの重要性に言及しているが、フロントからバックエンドまでを一環として扱っていこうというのが、Microsoftの戦略になる。

今後、IoTの普及によりクラウドのデータは、爆発的に増えていく。2019年には、44ゼタバイトまで拡大すると予測されている
IoTのデータは、単にクラウドにアップされるだけでなく、どのように分析するかが重要

 フロントエンドの重要なパーツとなるのが、Windows 10 for IoTだ。Convergence 2015とほぼ同じスケジュールで中国の深センで行われていた開発者向けイベント「WinHEC 2015」では、Intel、Qualcomm、Raspberry Piと協力し、各社の開発用ボードに向けて、Windows 10 for IoTを無償で提供すると発表している。これによりハードウェアベンダーは、Windows 10 for IoTをインプリメントした機器を開発し、低価格で販売できるようになる。

 もちろんLinuxやAndroid WearなどさまざまなOSや製品が出てきているが、いろいろと問題点もある。例えば、話題になっているApple Watchは、AppleがOSからハードウェアまで一貫して製造するたため、Appleのプラットフォームを利用した新しいウェアラブル端末を他社が作ることはできない。またAndroid Wearは、スマートウォッチに向けたOSになっているため、それ以外のIoT用途で利用するのは難しい。

 そうなるとLinuxとなるが、IoTのフレームワークをフルサポートしたディストリビューションということでは、まだスタンダードがない。各社が自社の特長を生かすように、さまざまなディストリビューションを提供しているのが現状だ。こういった状況を考えると、Windows 10 for IoTが1つのスタンダードになる可能性もある。

 Windows 10 for IoTの最大の特徴は、One Windowsということだ。デスクトップPC向けのWindows 10、スマートフォンやタブレット向けのWindows 10 for Phone and Tablet、Windows 10 for IoTなどが、全く同じカーネルやフレームワークを使用している。各用途向けでモジュールに差があるが、Universal Appで開発したアプリは、すべてのWindows 10で動作する。

 また、Windows 10ベースのセンサー向けのドライバなどがそのまま利用できる。こういった部分でも、開発工数が少なくて済む。

Windows 10は、組み込み機器用OSも統合する
Windows 10では、デバイスの用途によって、必要なモジュールを組み合わせる。OSのカーネルやフレームワークは、すべてのエディションで同じ
Windows 10 for IoTは、256MBメモリ、2GBのストレージで動作する。今までのMicrosoftの組み込みOSからすれば、非常にフットプリントが小さい
全世界で膨大な数が出荷されたシングルボードコンピュータRaspberry Piの第2世代には、Windows 10 for IoTが無償で提供される
Qualcommの開発用ボードもWindows 10をサポート
Microsoftでは、各産業向けのハードウェアに対してドライバを標準で用意している。これにより、レシートプリンター、キャッシュドロアーなどがすぐに利用できる

 MicrosoftがWindows 10 for IoTを無償で提供するのは、データを蓄積するクラウドとしてAzure IoT Suiteを用意していることと大きく関係する。OSを無償で提供しても、クラウドサービスで利益を上げようと考えているのだろう。

 Azure IoT Suiteは、昨年発表されたIntelligent Systems Service、Event Hub、Notification Hub、Machine Learning/Machine Learning Studio、HDInsight、Stream Analytics、Power BI for Office 365などで構成されている。

 Intelligent Systems Serviceは、IoTデバイスからのデータを取得したり、デバイス自体を管理したりすることができる。Event Hubsは、デバイスやサービスなどで作られたデータをデータストリームを使って、高いスループットで処理できる(AWSのKinesisと似ている)。Notification Hubsは、数百万単位のデバイスに向けて、カスタマイズされたプッシュ通知を送ることができる。

 Machine Learningは、Azure上に構築された機械学習エンジン。Machine Learning Studioは、Machine Learningを利用するための開発環境だ。HDInsightは、ビッグデータを処理するHadoopである。

 またStream Analyticsは、Event Hubからのデータを受け取り、ストリーミングパイプライン上で、SQLに似たStream Analyticsクエリ言語でデータ処理を行う役割を担う。

 このように、クラウドのAzure上にIoTを活用するためのサービスが用意されているのは、他社と比べると大きなアドバンテージだろう。IoTデバイスのOSから、データを処理するクラウドまで一貫したサービスを提供しているのは、現状ではMicrosoftだけだろう。

Azure IoT Suiteは、Azure上のさまざまなサービスをIoT向けに集めたモノ
Azure IoT Suiteは、Windows 10 for IoTだけでなく、Linux、Android、iOSにいたるさまざまなプラットフォームで利用できる
Microsoftが発売した、ウエアラブル端末のMicrosoft Band。さまざまなヘルス情報を集めてクラウドに送る
Azure上でMicrosoft Bandの情報を管理するヘルスサービスのMicrosoft Health
産業用オートメーション機器を提供しているロックウェルオートーションでは、自社の機器にさまざまなセンサーを付けて、リモートで監視・管理をしている。このIoTのデータは、Azure IoT Suiteを使って管理している
特定の機器にトラブルが起これば、Azure IoT Suiteを使って、管理センターですぐに把握することができる。全米に数多くある自社のハードウェアも、1カ所の管理センターで運用・管理が行える

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 Convergence 2015での発表を見ていて感じたのは、ナデラCEOが、クラウドをMicrosoftのメインビジネスとする方針を、明らかに前面に出してきたことだ。

 クラウド上で提供されているOffice 365やDynamicsなどのSaaSを、単なるソフトウェアサービスとして提供するだけでなく、さまざまなモジュール化を行い、Web API経由で利用できるようにしていこうと考えているようだ。

 例えば、IoTデバイスからのデータを処理し、Office 365のOffice Delveを使ってパーソナライズ化すれば、ユーザーにとって必要な情報をダッシュボードから一目で見られるようになる。さらに他社のSaaSなどでも、Office 365のPower BIを使って、簡単にビジネスインテリジェンス機能を追加できるようになる。

 このような世界ができれば、Microsoftは単なるSaaS事業者やクラウドプロバイダではなく、ユーザーにとって有益なサービスを提供する企業になっていくだろう。また、Office DelveやOffice Graphなどは、Office 365にデータがたまればたまるほど、使い勝手が向上する。ある意味、MicrosoftのSaaSは、データハブとして存在し、ユーザー企業にとってはMicrosoftのSaaSを採用すれば採用するほど、データが一元的に集まり、ビジネスにとって便利に使えるということになる。

 こうなれば、他社のクラウドに移行しにくくなる。また、データが集まることのメリットを感じて、MicrosoftのクラウドやSaaSに同じサービスがあるなら、他社から移行していこう、というモチベーションになってくるだろう。もしかすると、将来的には、AzureやOffice 365を利用してくれれば、PCについてもOSは無償でもいい、と考えているのかもしれない。

山本 雅史